サウジアラビアの石油化学の歴史

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三菱のサウジ石化計画の前に、サウジの石油化学の歴史をみておこう。

サウジでも当初は石油随伴ガスは油田で燃やされていた。サウジ政府はこれを貴重な原料として石油化学を興すことを決めた。Saudipipeline
1975年に石油化学基地として2つの工業都市の建設が決められた。1つは油田に近いペルシャ湾岸の
Al-Jubail、もう1つは紅海沿岸のYanbu である。サウジでは以前から紅海沿岸に原油や天然ガス、石油製品の輸出基地建設を検討していた。

1976年9月にサウジ基礎産業公社 (SABIC)が設立された。

石油化学計画実施のため、ガス収集システムと両工業都市を結んで原油とガスを送るパイプラインが建設された。

計画の遂行に当たり、サウジ政府は海外の石化メーカーに参加してもらい、50%出資と技術供与、従業員の教育を依頼するという戦略を決め、シェル、モービル、ダウ、エクソン、三菱グループ、三菱ガス化学等と交渉を始めた。
(三菱ガス化学のメタノール計画は、それ以前の
1974年頃に、伊藤忠がペトロミンなどと燃料用メタノール事業の検討をしていたが、その後、燃料用ガス輸出禁止で化学用メタノール事業に転換、海外立地を検討していた三菱ガス化学が肩代わりしたもの。)

当初は各社ともサウジでの石化事業に前向きではなかったが、サウジ政府は(1973/10に始まった)石油ショックを利用して、参加企業にインセンティブ・オイルを出すとの条件を出した。これは当時は公示価格では入手できない原油を、公示価格で一定量を15年間供給するというものであった。結果的には成約後数年して、他国から公示価格以下で入手できることとなり、メリットがなくなり、各社とも権利を放棄した。

各社はこの条件を呑んで計画に参加し、以下のJVが設立された。

Al-Jubail
SHARQ (Eastern Petrochemical):三菱ほか日本側;PE、EG
KEMYA (Al-Jubail Petrochemical )
:Exxon;PE (後、Ethyleneも)
PETROKEMYA Arabian Petrochemica
l):(SABIC 100%);Ethylene
SADAFSaudi Petrochemical
):Pecten Arabian (Shell);Ethylene, 工業用Ethanol, SM, Caustic Soda, EDC, MTBE
AR-RAZISaudi Methanol
):三菱ガス化学ほか日本側;メタノール
IBN SINANational Methanol
):Hoechst-Celanese,Pan Energy;メタノール、MTBE

Yanbu
YANPET Saudi-Yanbu Petrochemical
):ExxonMobil:Ethylene, PE、EG
いずれもSABICが50%出資。

このほか、肥料や誘導品のJVあり。(これらではSABIC出資比率は様々)

Al-Jubailの各社立地は添付の通り(「サウディ石油化学 20年のあゆみ」から)Saudi2

建設は順調に進み、従業員の教育もパートナーの工場で実施され、予定通りスタートした。
「Sabic History」(文末参照)ではSADAFの工場建設について次のように書かれている。
「シェルとSABICは当時は過去最大の30億ドルの石化コンプレックスを、インフラの全くない土地で、建設を開始した。・・・日本の鉄鋼会社2社が日本でプラントをいくつかのモジュールに分けてつくった。モジュールは巨大なものだった。オランダの会社が日本からAl-Jubail に輸送し、運搬装置に積み換えて特別道路で現地に運び、組み立てた。日本人の品質管理は驚くべきもので、ピッタリ接合した。予定より早く、予算を15%下回って完成し、1985年に商業生産を開始した。」

その後もSABICの事業は拡大しており、
・2004年にAl-JubailにSABIC 100%で
Jubail United Petrochemical 設立(エチレン,EG、HDPE、直鎖αオレフィン)
・2007年スタート予定でYanbuに
Yansab設立(SABIC 65%、一般公開35%)(エチレン,EG,PP)
・2008年スタート予定でSHARQ増設(エチレン、EG,LLDPE、HDPE)
などがある。
更にSABICは2002年にDSMのオランダ及びドイツの石化事業を買収し、
Sabic EuroPetrochemicals としている。

上記のなかでPETROKEMYA だけがSABIC 100%と例外扱いとなっている。後に出てくるが、当初はダウがパートナーであったが、ダウが降りたためSABIC 100%となった。

余談だが、ダウは他社が飛びついたサウジの計画から(インセンティブ・オイルのメリットを放棄して)降りたほかに、中国のエチレン計画からも降りている。ダウ 50%、シノペックと天津市などが50%のエチレン計画を取り止めた。自社の戦略を重視したものと思われる。
同社は現在、クウェートでの石化計画を推進している。

現在のSABICの石化計画の概要は以下の通り。http://kaznak.web.infoseek.co.jp/big/sabic.htm

なお、現在ではSABIC以外に私企業による石化計画も続出している。
詳細は 
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/ichiran/saudi/index.html 

また既報の通り、アラムコが住友化学と組んで、自国内で初めて石化事業を行う。(アラムコは中国の福建省泉州市で、エクソン、シノペックと組んでエチレン計画を実施中)

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資料 SABIC Americas ホームページ 
Sabic History
http://www.sabicamericas.com/uploads/images/204/Sabic_Book.pdf

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