シンガポ-ル1期計画は順調にスタートした。TPCの製品はASEAN・中国等の市場に広く受け入れられ、需要に生産が追いつかない程の好調な販売を続けた。この間、エチレンは手直しで40万トンとなり、PPSCはHDPE能力を倍増しており、TPCもLDPEとPPの手直し増設を行っている。(下記の第2期計画図参照)
TPCのPP増設:
そのなかでPPは世界的な需給タイトの状況にあった。また日本の組立産業の韓国・台湾・ASEAN地域への進出の動きを反映し、従来のフイルム・ヤーンから、より高付加価値のブロックコポリマーの需要が高い伸びを示すと期待された。
また、PCSでは約40千トン/年弱のプロピレンが未利用になっており、低価格による輸出を余儀なくされていた。
このため住友化学では1986年頃からTPCでのPP増設の検討を始めた。(日本では産構法が終わり、「千葉ポリプロ」の検討が始まった)
住友化学内でも反対意見があったが、最終的に住友化学の気相法での新設備が1989年に完成した。同法はまだパイロットプラントの段階であったが、TPCに次いで千葉ポリプロで採用された。
呉羽化学のMBS事業:
1989年にKureha Chemicals (Singapore) Pte. Ltd.が設立された。
PCSのブタジェンを使ってMBS 16千トンを製造するもので、投資会社「日本シンガポールモディファイアー」が75%、呉羽の提携先のRohm & Haas が25%出資した。
(投資会社は呉羽化学 75%/住友化学 25% 出資)
*2003年1月、呉羽化学は全世界のMBS事業をRohm & Haasに譲渡、当社も同社の100%子会社となった。
シンガポール2期計画:
PCSと誘導品各社は1985年以後フル操業を続けた。
住友化学では1990年頃から増設計画の可能性について検討を開始した。
1990年にシェルグループと共同で技術面の事前調査を行い、メルバウ島にもう1系列増強可能との結論を得て、翌年にPCSおよび誘導品各社はそれぞれ本格的な第一次企業化調査を実施した。
各社が増設するほか、シェルがPO/SMを新設した。
・社名:Seraya Chemicals Singapore
・出資&引取比率:シェル 70%/三菱化学 30%
・立地:Seraya島
・能力:SM 290千トン
PO 129千トン
(住友化学は日本でライオンデルとの合弁・日本オキシランでPO/SM事業を行っており、参加しなかった)
なお、シェルは第二期計画ではBASFとJVを設立した。
・社名:ELLBA Eastern
・出資:シェル 50%/BASF 50%
・能力:SM 550千トン
PO 250千トン
三菱化学はこれを機会にSeraya Chemicalsの出資分をシェルに譲渡(シェル100%)、PO引取権をシェルに譲渡、2期分を含めたSM38万トンの引取権を確保している。
PPSCの増設についてはフィリップスの役員会で否決された。このため、住友化学とシンガポール政府(EDC Investment )が増資に応じることで解決した。
出資比率 | ||||||||||||
|
なお、ヘキストグループがSakra島での酢酸ビニル事業を計画し、エチレン供給を要請したため、その分能力を増やした。
社名:Celanese Singapore
能力:VAM 170千トン
酢酸エステル 100千トン
酢酸(メタノール法)500千トン
シンガポール2期計画は1997年に完成した。
なお、住友化学は1995年に昭和電工からTPC及びPCSの投資会社の持ち分を買取り、引き続いて宇部興産、出光石油化学からも買取った。(東ソーは引き続き保有したいとして申し入れを断った。)
この結果、現在の住友化学持株比率は、日本シンガポールポリオレフィン(TPC)が67/70(東ソーが3/70)、日本シンガポール石油化学(PCS)は1984年の増資後に46.2%であったのが、現状は54.7%となっている。
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その後の展開:
1994年にシンガポール政府は「Chemical Island 構想」を立案、周辺の海を埋め立て、全体をJurong 島とし、本島と橋で結んだ。
住友化学は上記第二期計画にあわせ、合成樹脂以外の誘導品事業をシンガポールで展開することとし、PCSのプロピレンとMTBEを利用して、Sakra島でアクリル酸とMMAの関連製品の事業化を決め、下記の通りパートナーとのJVを設立した。
(なお、2002年に住友化学と日本触媒はアクリル酸とMMA事業を交換した。このためJVの出資比率も変更した)
アクリル酸関連
①租アクリル酸 | |||
社名 | Singapore Acylic | ||
能力 | 60千トン | ||
出資 | 住友化学 60%/東亞合成 40% | ||
→日本触媒 51%/住友化学 9%/東亞合成 40% | |||
②精アクリル酸 | |||
社名 | Sumika Glacial Acrylic | ||
能力 | 25千トン | ||
出資 | 住友化学 100% | ||
→日本触媒 100% | |||
③アクリル酸エステル | |||
社名 | Singapore Acrylic Ester | ||
能力 | 82千トン | ||
出資 | 東亞合成 75%/住友化学 25% | ||
→東亞合成 100% | |||
④高吸水性樹脂 | |||
社名 | Sumitomo Seika Singapore | ||
能力 | 55千トン | ||
出資 | 住友精化 80%/住友化学 20% |
MMA関連
①MMAモノマー | |||
社名 | Singapore MMA Monomer | ||
能力 | 55千トン | ||
出資 | 住友化学 60%/日本触媒 40% | ||
→住友化学 100% | |||
②MMAポリマー | |||
社名 | Sumika MMA Polymer | ||
能力 | 35千トン | ||
出資 | 住友化学 100% |
現在のシンガポールのコンプレックスは添付の通り。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/big/singapore-complex.htm
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このほか、ジュロン島では各社の以下のような石化プロジェクトがあり、シンガポール政府構想のケミカルアイランドが実現した。
1.ExxonMobil エチレン・コンプレックス (2001年スタート)
エチレン 800千トン、プロピレン 435千トン、PE 480千トン、PP 315千トン、パラキシレン 400千トン、ベンゼン 150千トン、オキソアルコール 150千トンほか
( 同社は2006年にエチレン能力を900千トンに拡大する。)
2.三井化学
①Mitsui Phenols Singapore
三井化学 95%/三井物産 5%
(下記2社を統合したもの)
・Mitsui Phenol Singapore 2002/3完工
フェノール(200千t) 2002/秋 +50千t
アセトン (120千t) +30千
・Mitusi Bisphenol Singapore
ビスフェノールA
1期 70千t
2期 70千t (2002/2)
3期 70千t (2002/9)
②MTK Chemicals
三井化学 65%/Kuokグループ 30%/三井物産 5%
塗料原料用樹脂、アクリルエマルジョン、
ビニルウレタン接着剤、その他工業用樹脂
③Singapore Adhesives & Chemicals
三井化学 25%/Kuokグループ 60%/三井物産 15%
合板用接着剤、ホルマリン
④Mitsui Elastomers Singapore
三井化学100%
「タフマー」を中心としたエラストマー製品 100千t
3.帝人
Teijin Polycarbonate Singapore
帝人 45%/帝人化成 45%/EDB 10%
ポリカーボネート樹脂
1期 80千トン、2期 50千トン、3期 50千トン
4.クラレ/日本合成化学
OVAL ASIA Pte Ltd
クラレ 50%/日本合成化学 50%
PVA 40千トン(各社20千トンずつ引取り)
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シンガポール第2エチレンJV構想
2003年1月、住友化学はシンガポールでの新たなエチレンプラントの建設について、シェルケミカルズとともにFSを開始する旨の契約を締結した。
計画概要 | |||
立地 | シェルのリファイナリーがあるブコム島 ジュロン島の5km南東で、パイプラインで接続 | ||
能力 | エチレン 100万トン/年 | ||
稼働 | 2007年予定 | ||
誘導品 | ジュロン島で住友化学が実施 高機能品を中心 PE:強度が高く加工性に優れた新型ポリマー PP:ポリプロピレン:自動車向けを中心とした高強度ブロックコポリマーを主体 |
2004年5月、住友化学はサウジ・ラービグ計画に参加する覚書を締結、これにより、ブコム島でのエチレン計画から撤退することとなった。
シェルは住友化学の離脱後もシンガポールの経済開発局とともに本計画を進めることとしており、2005/11、東洋エンジニアリングとABBルーマス・グローバルBV社のJVに基本設計業務を発注、本年に入りFoster Wheeler にジュロン島でのEO/EGの基本設計を発注している。プラントの完成を2009年下期と予定、2006年に最終決定を行う。
参考資料:
住友化学社史ほか
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