日本の石油化学会社の中国進出

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欧米の企業が大々的に中国に進出しているのに対して、日本の化学企業の大規模プロジェクトは少ない。

大きなプロジェクトは以下の通りで、その他は100億円以下のプロジェクトが多い。
・三菱化学(テレフタル酸) 総投資額 314百万USドル(約333億円)
・三菱ガス化学(メタノール) 総投資額2億USドル
・帝人化成(ポリカーボネート) 総投資額140億円
・三菱レイヨン(MMAモノマー) 投資額約1億USドル
・三井化学(ビスフェノールA) 投資額 約130億円

大規模投資が少ないのは中国への投資リスクを判断してのものである。
一旦大規模投資を決めると建設期間を含め15年~20年のスパンで考える必要があるが、その間に原料、用役、製造、販売、流通、企業運営、税制等でどのような障害が出るか、それによりどのような影響を受けるかが判断できない。

信越化学・金川社長はTV朝日の「トップに迫る」(2005/6/12)で以下のように述べている。

「投資というのはどんな投資でもリスクはある。リスクは踏まざるを得ないリスクと、踏んではいけないリスクがある。踏んじゃいけないリスクはカントリーリスクです。
中国の場合はカントリーリスクというと語弊があるかもしれないが、例えば我々の商品の基礎中の基礎の原料である石油とか電力を、政府が一番コントロールしている。我々が下流、ダウンストリームでいくら努力して、事業を成功させても、上流で押さえられたらそれで一発で終わり。つまり、
我々の経営努力ではできないものがあるところではやってはいけない、というのが私の考え方。経営努力で克服できるものは経営努力で克服するが、できないものはやらない。」

(同氏は中近東についても「例えば中近東。原料が安い、つまり入りやすいところ、広い門から入るところはカントリーリスクが概して高いところが多い。アメリカみたいに競争が激しく、狭き門はカントリーリスクが少ないところが多い、結果的に。アメリカの場合は政治経済ともに安定しているし、中近東はいつ何が起きるか分からない。」としている)

中近東の場合は本当に何が起きるか分からない。これは国の体制がどうなるか、その結果、石油がどうなるかという意味で全世界の問題である。

しかし、中国の場合は中国政府の方針で事業が左右される。また、中国の場合、特定国だけが対象となる可能性がある。投資規模が大きければ大きいほど、リスクが大きいこととなる。

では、欧米の企業はどうして大規模投資をするのか。
それは
欧米の企業の場合には、もしもの場合はそれぞれの国の政府の関与が期待できるからである。
しかし、日本の場合はそれが期待できないのが問題である。

これまでも進出企業の課税問題や労務問題など、いろいろな問題が起こっている。最近の問題点として次のようなものがある。

・王子製紙が江蘇省南通市での総投資額 2,000億円の製紙工場建設に当たり、対中投資のガイドライン「外商投資産業指導目録」に、「年間30万トン以上の製紙原料である化学パルプ生産や上級紙の生産は合弁か合作に限る」との条項が追加され、合弁への変更を強いられた。
・東ソーがPVCで11万トンプラントを計画したところ、新設計画は20万トン以下は認めないとの方針変更で22万トンとした。

これらは共通のルールの変更であり、ある程度止むを得ない。日本も過去にこういう政策をとった。
しかし、以下のようなケースは問題であろう。

・台湾の奇美実業は中国大陸の丹陽や蘇州への投資を展開し、最近では鎮江が一大拠点となっているが、創業者の許文龍氏が熱烈な台湾独立派であることから、中国政府は「中国で金を稼ぎながら台湾独立を主張する輩は許さない」と名指しで批判、新規事業を認めない等、いろいろな面で圧力をかけた。

2005年3月、台湾で「反国家分裂法」に抗議する大規模デモが行われた時に、許文龍は「大陸に投資した我々は台湾独立を支持しない。奇美は大陸で、より発展する」とする文書を発表した。文書は中国の要求により書かれ、発表時期は中国が決めたといわれている。

・2004年6月、中国は揚子江流域でのアクリロニトリルの輸送を全面的に禁止し、陸上輸送についてはトン当たり10ドルの課徴金を課した。
政府は環境保護の強化と輸送の安全が理由で、アクリロニトリルが危険物であることから、漏れた場合の水中生物への影響を懸念してのものとしている。
危険物の海上輸送については、国連の勧告に基づく国際バルクケミカルコードに基づき規制が行われるが、国内河川での規制はそれぞれの国に任されており、その判断を批判できないが、何故アクリロニトリルだけかとの疑問が出る。
Chinaanm
また、主に台湾企業が大きな影響を受けるのも気になる。
昨年は吉林石油化学の爆発による松花江の汚染など多数の河川汚染事故があったが、ほとんどは工場の設備や管理上の問題であり、船の衝突や沈没による汚染はない。

これで直接影響を受けるのは鎮江市に工場をもつNantex Industry(台湾:NBR 16トン)、奇美実業(台湾 ABS 250千トン、350千トンに増設中)國喬石化(台湾 ABS 180千トン)、常州市の新湖(常州)石化(韓国ABS 50千トン)等である。
韓国のLGの
ABSのJVは浙江省寧波市のため影響を受けない。

各社は止むを得ず江蘇省連雲港と山東省嵐山港で荷揚げし、鎮江まで陸上輸送している。奇美など各社は規定の撤回を当局に要請していたが、2005年8月、中国政府は追い討ちをかけてアクリロニトリルを含む危険物のトラック輸送に関する新しい規則を実施した。トラックは従来30ー50トンの製品を運べたが、新しい規則ではアクリロニトリルなどの危険物を10トンまでしか運べないこととなった。これにより原料輸送費は大幅に上昇した。

2005年12月、ソニーは中国当局から「品質基準に満たない」とされたデジカメを一時販売停止した。
浙江省工商行政管理局は同省で販売されているメーカー6社のデジカメをテストした結果、13機種が基準を満たしていないと判断した。
しかしテストを実施した理由、テストの内容、その品質基準に関する詳細、ほかの機種のメーカーとモデル名については公表していない。ソニーだけが名指しされた。

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2005年7月に中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)との自由貿易協定(FTA)が発効した。
中国はブルネイ、インドネシア、マレーシア、ミャンマー、シンガポール、タイの6カ国からの輸入品3,408品目について、最恵国への関税率から段階的に引き下げ、関税率が10%以上の製品は2009年には5%、2010年にはゼロとなる。
10%未満のものは2009年にゼロとなる。これ以外の特に保護が必要な品目についても、15年までに関税率を50%以下に引き下げる。
カンボジア、ラオス、フィリピン、ベトナムに対しては、各国が国内の承認手続きを終え次第、FTAに基づく関税率を導入する。

日本の企業にとっては、カントリーリスクの少ないシンガポール等で投資するのが正解であろう。

なお、日本とシンガポールの自由貿易協定により、ポリオレフィンの関税も2010年1月には撤退される。(詳細下記)
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/big/jpn-singapore-fta.htm

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