ポリプロピレン特許係争

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ポリプロピレンに関してはいろいろな特許係争がおこっている。日本に関係あるもののうち主なものを挙げる。

1)1960年に新日本窒素はアヴィサン技術導入契約を締結した。触媒としてモンテのプロセスと同様の二成分に全く異なる第三成分を併せて使う技術である。

モンテは本技術は特許侵害であるとして新日本窒素に対して製造禁止の訴えを出した。
6年かかって、東京地裁の第一審は却下、モンテは直ちに控訴したが、東京高裁の第二審もその4年後に却下となり、モンテ側の敗訴に終わった。

モンテは第一審敗訴の後、3社に対するロイヤリティを引き下げた。

2)徳山曹達は自社技術を開発し、1958年には1トン/日の中間プラント、1961年には2千トン/年プラントを建設し、試運転を始めた。
自社開発の三塩化チタン、ナトリウム、水素、ジシクロペンタジェニール・チタニウム・クロライド系の触媒を使用するものである。

モンテはこれに対して特許侵害で山口地裁に訴えたが、徳山曹達が操業不調で製造をとりやめたためモンテは提訴を取り下げた。
しかし地裁はその前に結審しており、徳曹特許はモンテ特許に抵触しないとの判決を下した。
モンテは広島高裁に訴え、その結果、モンテの提訴取り下げ手続きが有効とされ、地裁の判決はなかったこととなった。

成功はしなかったがモンテの特許に抵触しないPP技術があの時点で日本で開発されていたこと、また、徳山曹達が特許専門部署をもたぬままモンテと四つに組んで争い、地裁で勝利を得たことは注目される。

3)アヴィサン技術がモンテ特許に抵触しない判決が出て、その後、三井石油化学や各社はモンテ触媒をベースとして「担持型触媒」を開発した。

三井石油化学はハイモント(モンテカティーニ後身のモンテジソンとハーキュレスのJV)と特許で争った結果、両社は和解し、その後共同で技術供与を行った。(Royalty and profit-sharing agreement 締結)
この契約は1995年
にシェルとモンテジソンが統合しモンテルが発足する際に、独禁法当局の認可条件の一つとして解消された。(同時にシェルが参加したシンガポールのTPCでシェルは販売権を放棄して単なる出資に変更した)

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米国の特許は日本と異なり先願主義ではなく先発明主義であることから、長期間経ってから出現する「サブマリーン特許」がある。日本のモンテ技術導入PPメーカーは二度にわたってこの被害を受けている。
モンテからの技術導入に際して、日本での製造販売のほかに、PPを使った製品の米国等への輸出について許可を得ているが、モンテへの特許料の支払い完了後に、米国への輸出製品について特許料を払わされた。

4)米国での物質特許
米国ではフィリップスが1953年に特許を出願したが、モンテが1955年に出願し、先発明であるとして1973年に特許を取得した。
しかし、フィリップスは自社の先発明を主張して争い、最終的に最高裁でフィリップスの特許が認められた。
このため1983年にモンテ特許は取り消され、フィリップスが特許を取得、それから17年間、2000年まで特許が生きることとなった。

この結果、日本の全PPメーカーはPPを使った製品の米国への輸出についてフィリップスに特許料を支払わざるを得なくなった。
(本来は自動車メーカー等に支払い義務があるが、日本ではPPメーカーは需要家に特許保証をしており、PPメーカーに支払い義務を振られた)

5)米国での Ziegler特許
当初、米国では以下の触媒使用特許が申請された。
  ①1953 Ziegler    TiCl2/TEA
  ②1954 Ziegler/Natta TiCl2/(TEA or DEAC)
  ③1955 Ziegler    TiCl2/DEAC

米国特許庁は③の審議に当たり、これが②の後願であるとして拒絶した。
これに対しDr.Ziegler及びその死後その権利を受け継いだMax Plancの特許管理会社 Studiengesellschaft Kohle (SGK)が先発明を理由に再申請し、23年かけて争い、1978
11月にこの特許が認められた。
この結果、②の特許が既にとっくの昔に期限切れになっているのに、③のTiCl2/DEAC は1995/11/14まで米国で有効ということになった。

198611月、モンテのライセンサーの契約が全て終了した時点で、SGKは日本の自動車メ-カ-に対し、米国向け輸出自動車に使用されるPPに対してライセンスフィの支払いを要求した。
モンテのライセンサーのクレームに対しては、米国向け製品輸出の免責条項も含めてモンテとの契約が既に切れてしまっている、「契約満了後も製品輸出免責は続く」との条項を入れなかったのが悪いとの反論があった。

日本のPPメーカーは、この触媒を使用しているPPに関して、米国向け輸出自動車に使用されている分に相当するライセンスフィを支払わざるを得なかった。(三井石油化学や住友化学等の「担持型触媒」は対象外)

 

ちなみに米国の企業は、先発明を立証するための証拠として、毎日の研究結果を書類に残し、他の人がattestの署名をしている。
東大で学会報告に疑問がでたが、テスト結果をノートに書かずにそのままパソコンに入れ、そのパソコンを廃棄したためにテスト結果が残っていないという例があったが、米国ではこんなことは起こりえないであろう。

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