経済産業政策局長の私的研究会の競争政策研究会(座長:鶴田俊正専修大学名誉教授)は19日、報告書(~グローバル競争下における企業結合審査の予見可能性の向上を目指して~)を発表した。
東アジアとの域内貿易が急速に拡大、企業の供給・調達はアジアワイドで一体化が進展するなかで、欧米企業は産業再編を通じて急速に企業規模を拡大しており、日本企業は常に海外企業からのグローバル競争圧力に直面している。
海外企業との競争を優位に展開していくためにも、企業再編が必要だが、現在の独禁法の下では、海外からの競争圧力が認められず再編を断念した案件がある。
例 ・PSジャパンと大日本インキ化学工業のPS事業統合
・東海カーボンと三菱化学のカーボンブラック事業統合
この問題は競争政策研究会が1月30日に発表した「企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題」の中で具体的に取り上げている。
本ブログ 02/20 「競争政策研究会の『企業結合審査における改革の進展状況と今後の課題』」 でPSの問題を分析し、公取委の見解を批判した。
公取委はPSジャパンと大日本インキ化学工業のPS事業統合を認めない理由として輸入品による競争圧力が認められないことをあげた。
「現在,中国におけるPSの需要増加による供給不足を背景として,日本への主な輸出国である韓国,台湾等のアジア各国で生産されたPSの多くが中国向けに輸出され,日本向けの輸出が増えない状況である。今後,中国国内においてPSプラントを増設する計画があるが,PSの原料であるSMについてもアジア全体で供給不足が継続する見込みであるため,この傾向は当面継続される見込みである。」
実際には中国のSMは2005年にSeccoが50万トン、常州東昊化学が15万トンを新設、2006年にも中海シェルの55万トン、江蘇利士德化工の20万トンなどの新設があり、輸入は減少しつつある。
三菱化学は採算面からシェル・シンガポールからの年間38万トンのSM引取権を解消する交渉を始めている。
アジアのPSは過剰能力のために値下がりしており、Plattsによれば7月価格はSMがCFR China $1,205 に対してPSは$1,170と逆転した。
競争政策研究会は3つの提言をしている。
(1)独禁法上の判断の枠組みや具体的な判断要素を明確化する
現行の企業結合ガイドラインを見直し、将来の輸入拡大の可能性など、海外企業との競争に関する分析手法を明確化すべき。
加えて、内外市場一体化の実態を踏まえ、アジア経済圏など国外を含めた市場画定を行うことについて検討すべき。
(2)独禁法上の判断の基準をわかりやすく提示する
~市場シェア「基準」の見直し~
現行ガイドライン:
・合併後の市場シェアが25%以下
⇒ 競争を実質的に制限することとなるとは通常考えられない
・合併後の市場シェアが25~35%以下
⇒ 競争を実質的に制限することとなるおそれは小さいと通常考えられる。
提案
・ 35%以下:
⇒ 独禁法上ただちに問題となるものではない。
・ 35%超50%以下:
⇒ 過去の審査実績を踏まえれば、独禁法上問題となる可能性は少ない。
・ 50%超:
⇒ 輸入圧力などの競争促進要因がある場合は、独禁法上問題なしと判断される。
(3)独禁法上の問題解消措置の考え方や選択肢について明確化する~「選択肢」の拡大
高シェア案件であっても問題解消措置を講ずることにより、競争制限のおそれを解消することが可能であり、
どのような問題解消措置を講じれば問題ないと判断されるのか考え方を示すとともに、その類型を可能な限り幅広く提示し、企業の選択肢を拡大すべき。
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このうち(1)が特に重要である。
現行独禁法では国内市場のみをみているが、「内外市場一体化の実態を踏まえ、アジア経済圏など国外を含めた市場画定を行うことについて検討すべき」である。
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