新日本石油とジャパンエナジーは、20日、広範囲な分野において業務提携を行うことに関し合意したと発表した。
提携分野は次ぎの5分野。
(1)上流分野:探鉱・開発ないし資産買収案件
(2)精製分野
(3)物流分野
(4)燃料電池分野
(5)技術開発分野:燃料油品質関連の特許についてクロスライセンス
両社の製油所の原油処理能力は以下の通り(千B/D)
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新日本石油:
1999年4月に日本石油と三菱石油が合併して日石三菱となり、
2002年6月に新日本石油に商号変更した。
ジャパンエナジー:
日本鉱業が1965年に共同石油設立に参画、日本鉱業、アジア石油、東亜石油の販売部門を集約。
その後、アジア石油が大協石油(のちコスモ)グループに、東亜石油が昭和シェルグループに。
1992年に日本鉱業、共同石油が合併して日鉱共石となり、翌年ジャパンエナジーと改称。
鹿島石油設立に参加、2004年にコスモ石油持株を譲受
現持株比率:ジャパンエナジー 70.575% 、三菱化学19.875%、東京電力7.95%、日本郵船1.5%
1986年に富士石油に資本参加するが、富士石油とアラビア石油合併を機に2005年に株式売却
提携5分野のうち、特に(2)精製分野が注目される。発表では以下の通り述べている。
「これまで、RING(石油コンビナート高度統合運営技術研究組合)を契機として、水島地区で石油コンビナート高度統合を図ってまいりましたが、一段と高度な統合効果を実現するため、今般、隣接する両社製油所の一体的操業に関する具体的検討を行うこととしました。
なお、水島地区に限らず、両社精製分野における効率化・合理化のため、原油タンクの相互利用・原油船配船の共同化、製造・出荷(輸出を含む)設備等の集約・相互利用、新規製造設備の共同建設、生産技術情報の交換なども具体的に検討し、適宜実施していきます。」
新日本石油の製油所は元は三菱石油の製油所。原油処理能力は250,000バレル/日。
ジャパンエナジーの製油所は原油処理能力200,200バレル/日。
一体操業が実現すると日量45万バレル規模のアジア最大の製油所が誕生することになる。
会見した新日石の西尾進路社長は、水島製油所の一体操業について「シナジーの実現には時間を要するが、両社トータルで300億円規模のメリットが期待できるスタディも出てきている」と述べた。
新日石の製油所が石油化学製品の製造装置を多く持つのに対し、Jエナジー側は原油の重質分を分解し化学製品の原料を多く生産できるため、「両社の製油所の特徴を補完し合うことで、相乗効果が期待できる」(Jエナジーの高萩光紀社長)
両社は共同で今後10年間のうちに、水島製油所の生産設備に700億-800億円を投資する計画も示した。
なお、資本面での提携については「今のところ考えていない」(Jエナジー高萩社長)と否定している。
実際の運営はどうするのであろうか。高萩社長は、
「統合ではない。あくまで操業の一体化で経営の主権の話とは別だ。製油所を統合するとなると、互いの資産評価や労働条件の擦り合わせなど余分な作業が必要になる。」
「当社と新日石の両水島製油所は巨大な海底パイプラインでつながっている。二つをあたかも一つであるかのように操業すれば大幅な効率化が図れる。今後両社は協力して割安な重質油の使用を増やし付加価値の高い石油化学製品をより多く作る。需要拡大期のような薄利多売の発想を捨て、量から質に切り替える」としている。(6/25日経)
最適の生産計画に基づき、それぞれが工場を操業し、出来た製品を交換することを考えているのではないかと思われるが、投資等を考えると、それぞれが水島製油所を切り離して統合し、製造JVにするしかないのではなかろうか。
問題がおこるとすれば、新日本石油にとっては水島は7つある製油所の1つに過ぎないが、ジャパンエナジーにとっては他には製油所は鹿島石油しかなく(2001年に知多製油所100千B/Dを停止)、水島での最適が同社にとっては最適でないことが起こった場合であろう。
水島には三菱化学と旭化成(山陽石油化学)の2つの石化コンビナートが隣接している。山陽石油化学は当初、旭化成 60%/ジャパンエナジー40%で設立されたが、2001年4月に効率化のため旭化成 100% となった。新日本石油の水島製油所は元は三菱石油で、三菱化学のパートナーである。
旭化成の蛭田社長はこの発表を受け、「日本の化学業界にとって非常に意味がある」と評価、「今後は石油精製との協力を積極的に進める必要がある」としている。(6/23日経)
なお、RING 3では新日本石油精製、ジャパンエナジー、三菱化学、旭化成ケミカルズ、山陽石油化学の5社が参加し、「コンビナート原料多様化最適供給技術開発」を実施する。原料多様化のためコンデンセートを精製処理し、エチレンやガソリン、芳香族生産のための原料として安定的に製造・供給する技術を開発するもの。
RING 1(2000-2002年)では「先端的総合管理システムの技術開発」(自律分散型システム工場間生産計画・スケジュール最適化)を行ったが、
RING 2(2003-2005年)では新日本石油精製、ヴイテック、三菱化学が「副生炭酸ガス冷熱分離回収統合利用技術開発」、
ジャパンエナジー、旭化成、山陽石油化学が「熱分解軽質留分統合精製処理技術開発」と、三菱化学/新日本石油、旭化成/Jエナジーが分かれて実施していた。
ところで本件を公取委はどう扱うであろうか。
5分野での提携全体から、競争を制限するとみた場合には、これは問題とされよう。
仮に販売会社別の常圧蒸留能力で比較すると、下記の通りHHIは基準の1800を超え、増加HHIも大きい。
(HHIについては6/19 「公取委、合併審査見直し」 参照)
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増加HHI 429 |
しかしながら、もし一体運営が製造だけで、営業は従来通り別々に行われる場合には、三井化学と住友化学によるLLDPE製造JV(日本エボリュー)の例が参考になる。公取委は以下の通り述べている。
・ | 本件はLDPEメーカーである両当事会社が新工場を建設するに当たり提携するものであって、両社の既存のLDPEの製造販売事業は従来どおり行われるという部分的な結合である。したがって、競争単位の数は減少しない。 |
・ | 新会社で製造されるLLDPEの販売については、当事会社それぞれ独自に行うこととしており、既存のLDPEの販売を含めて、販売面で両社の協調関係が醸成されるおそれは小さいとみられる。 |
・ | LDPEおよびLLDPEのそれぞれの分野には生産能力シェアで20%を超える競争事業者が存在するほか、10%を超える競争事業者も複数存在している。 |
上記の点を総合的に勘案すると、(本件は)直ちに一定の取引分野における競争を実質的に制限することとなるとはいえないと判断した。 |
なお、新日石は出光およびコスモ石油と、ジャパンエナジーは昭和シェル石油と、それぞれ提携関係にあるが、これは今後も継続する。
新日石/出光:
出光が2003年に兵庫製油所、2004年に沖縄石油精製の製油所を停止するのに伴い、新日石がそれまでの物流部門提携に加え、精製委託方式で4万B/D相当の製品供給を行う。
新日石/コスモ:
販売を除く提携(仕入れ、精製、物流、潤滑油の4部門)
仕入れでは原油調達や製品輸入の共同化、タンカーの共同配船、備蓄基地の相互利用
石油精製では受委託精製や製油所の統廃合の検討など
物流面では油槽所の共同利用や統廃合などを検討
ジャパンエナジー/昭和シェル石油:
最適化操業のための相互融通取引の拡大、両社グループ製油所設備の精製能力の適正化等
両社は2001年3月、50/50の合弁会社JS・イニシャティブを設立している。
事業内容は、相互融通取引に対するガイドラインの作成・提案と、
両社資材・役務の共同購買、及び、両社提携の促進を目的とした将来的検討の実施。
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