石炭液化事業

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6月10日の日本経済新聞は以下の通り伝えている。

「経済産業省はアジアで、石炭からガソリンや軽油を精製する石炭液化事業の普及に乗り出す。NEDOが持つ独自技術を活用。今夏から中国企業と実証実験を始め、2010年にも商用化する。インドネシアでもプラント建設で交渉を始めた。アジアで豊富に産出する石炭を有効活用し、世界的な原油需給の緩和につなげる。」

「普及支援の第一弾として、NEDOが7月をめどに、中国のエネルギー会社、大唐国際発電(北京市)と新波鉱業集団公司(山東省)と共同で、どれだけ効率的に液化できるかの実証実験を始める。」

「日本は1980年代から石炭液化技術の研究を進めてきた。コストは1バレルあたり25-30ドルで、これまでは割高だった。だが、原油価格が同70ドル台にまで高騰。石炭の輸入コストが高い日本での実用化はなお困難だが、アジアでの商用化には道が開けた。」

石炭液化の研究は日本では大正末期から行われた。

南満州鉄道では、Bergius法により中国撫順炭鉱に液化油年産2万トンのプラントが建設され、昭和18年まで運転が行われた。
また、朝鮮人造石油が石炭処理量100t/d規模の直接石炭液化プラントの連続運転に成功している。
昭和10年ドイツでFischer法が発表されると同時に、日本に導入され、三池で合成油年産3万トンの石油合成工場が完成した。

第1次石油危機の後、1974年にサンシャイン計画が発足し、石油代替エネルギー開発の一環として、日本独自の石炭液化技術開発に取り組むこととなった。

サンシャイン計画において、瀝青炭(高品位炭)の液化技術開発としてソルボリシス法、溶剤抽出法、直接水添法の三法の技術開発が行われた。
また1980年度以降、褐炭(低品位炭)の液化法についても研究開発が行われた。

瀝青炭
瀝青炭の液化技術についてはNEDOは1983年に
上記 3法の特徴を生かしてNEDOLプロセスとして統合した。Nedol
詳細は 
http://www.nedo.go.jp/sekitan/cct/jp_pdf/2_3a2.pdf 参照。

褐炭
石炭の経済的可採埋蔵量の約半量は亜瀝青炭・褐炭等の低品位炭が占めるが、水分を多く含み、乾燥すると自然発火性を示すという問題を含む。NEDOは褐炭液化技術開発(BCL法)を開発、1999年からインドネシア国内において3ヶ所の液化プラント立地候補地を選定し、FSを実施、経済的にも十分に成立するとの結果を得た。
詳細は 
http://www.nedo.go.jp/sekitan/cct/jp_pdf/2_3a3.pdf 参照。

 

中国は石炭液化技術の開発、導入に積極的である。

NEDOは1981年に中国煤炭工業局との間で「石炭液化技術共同開発に関する協議書」を締結し、共同研究をスタートした。
1983年、北京煤化学研究所に石炭処理量 0.1t/d のベンチスケールプラントを設置し、多くの液化試験を実施し、多大な成果を上げた。
1997年からは中国からの要請に応えて、黒竜江省・依蘭炭を用いての石炭液化プラント立地可能性調査の実施に協力した。
1999年5月の日中高級事務レベル会議を経て神府東勝炭田を開発している神華集団基本協定書を締結し、NEDOLプロセスに基づく神華炭液化プラント5,000t/dの立地可能性調査を実施している。

このほか、ドイツのRUG RAGが雲南省で褐炭、米国のHTIが陜西省の亜瀝青炭を使った実証プラントをつくっている。

石炭液化技術には上記のように石炭を粉砕し,溶剤と混合して高温・高圧下で水素と直接反応させる直接液化法と,石炭を一度ガス化(石炭ガス化)し,生成ガスを分離・精製した原料を合成反応させ液化する間接液化法に大別される。間接液化法は直接液化と比較してコストが高いとされているが、南アフリカサソールが商業生産を行っている。南アはアパルトハイト時代に欧米から石油の禁輸制裁を受けたため、石炭の利用が進んだ。

2005年9月にCoal Research Institute(北京支部)と国営寧夏石炭集団が共同で寧夏石炭集団・石炭化学リサーチセンターを設立し、サソールの石炭間接液化技術で石炭液化を行うFSを開始した。320万トンの石油製品を生産する計画。

サソール自身は2005年に寧夏回族自治区で神華石炭液化会社と、寧夏回族自治区で寧夏Luneng Energy and High Chemistry Investment Group と、それぞれ8万バレル/日の石炭液化設備のFSを開始した。

6/16の新華社電によると中国最大の石炭会社の国営神華集団は2020年までに北部4省(陝西省、内蒙古自治区、新疆ウイグル自治区、寧夏回族自治区)で石炭から年間30百万トンの石油を転換する8つの計画を立てている。同社はシェルや南アのサソール等と提携している。同社では石油価格が40ドル/バレル以上であれば、8年で投資を回収できるとしている。

同社は2004年8月、内蒙古自治区鄂爾多斯(オルドス)市で世界最大規模の神華石炭液化プロジェクトに着工した。プロジェクトは2期に分けて進められ、第1期工事の総投資額は245億元で、1年間で970万トンの石炭から製品油320万トンを生産する。製品の内訳はガソリンが50万トン、ディーゼル油が215万トン、液化ガスが31万トン、ベンゼンや混合キシレンなどが24万トンの予定で2007年7月完成予定。2010年ごろに第2ラインが完成する見通し。 米国のHeadwaters Incorporated の子会社 Hydrocarbon Technologies, Inc.(HTI) の技術を使用する。

中国石炭工業協会の範維唐会長は2005年11月に、中国は2010年には、石炭のオイルへの転化、石炭ガス化を含めた石炭転化製品の生産高500万トンの実現を目指していることを明らかにした。 

中国ではコークス炉ガスを原料とするメタノール、DME等の計画が多数あるほか、石炭からのオレフィン製造計画もつくられている。
次回はその例を取り上げる。

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