アラムコは7月10日、サウジ東部のラスタヌラで計画している世界規模の石化・プラスチック・コンプレックスのパートナー候補にダウを選定し、独占的に交渉すると発表した。
世界最大規模のアラムコのラスタヌラ製油所と一体化して建設するもので、完成すれば世界最大級のプラスチックと化学品のコンプレックスになるとしている。
計画の詳細は明らかにされていないが、一部報道によれば120万トンのエチレン、40万トンのプロピレン、40万トンのベンゼン、46万トンのパラキシレンのほか、ベンゼン、パラキシレン、アクリロニトリル、ABS、SBR、PTA などを生産するとされる。(135万トンのエチレン、90万トンのプロピレン、100万トンの芳香族とする報道もある。)
サウジアラムコでは製油所と統合した3つの石油化学計画の構想をもっている。
第1はラービグで、住友化学とのJVのペトロラービグを設立した。既存製油所をJVに移管し、石油精製2次処理設備を新設しガソリンを新たに生産するとともに、エタンクラッカーと流動接触分解装置(FCC)、さらにポリエチレンやポリプロピレンといったポリオレフィンを中心とするエチレンやプロピレンの誘導品の生産プラントを新設する。
2006/3/25 「ペトロラービグ起工式」 参照
第2が本件のラスタヌラ計画で、ラスタヌラの55万バレル/日の製油所に統合した石油化学基地の建設である。
ここでは2004年にJETROがアラムコと組んで、ブタン、ナフサおよび改質ガソリンを原料として、
(1)ベンゼンを抽出することによる既設ガソリンの品質改善および新規に生産されるアルキレートによるオクタン価の向上
(2) 輸出向け石油化学中間製品、エチルベンゼン、クメンおよびターシャルブチルアルコールの生産
の計画の事前FSを実施している。
今回の計画は、エタン分解に加え中東で初のナフサ分解を実施するものである。これによりプロピレン、ブタジェン、芳香族を原料とした各種製品が生産可能となる。2012年の商業生産開始を狙っている。
第3は現在検討中のYanbu Petrochemical Master Planである。235千バレル/日のヤンブーの製油所にオレフィン・芳香族コンプレックスを建設するものである。
こちらもラスタヌラと同様にエタンに加えナフサ分解を行う。2014年スタートを仮の目標としている。
現在のサウジの既存の石油化学はほとんどがエタンベースであり、PE、MEG、SM等の汎用のエチレン系製品が中心である。
(ラービグ計画ではFCCからのプロピレンでPP、POを生産する)
アラムコでは現在輸出しているナフサを原料として利用することで、プロピレン、ブタジェン、芳香族、及びこれらを原料にした各種製品を生産し、サウジに輸出用の川下産業を興すことを考えている。有利なコストポジションを利用し、高付加価値製品の生産により経済の多様化、雇用機会の増加を目標とするとしている。
サウジのナフサは日本や韓国に輸出されているが、将来はナフサの輸出がなくなる可能性がある。
(サウジのナフサは日本のナフサ輸入の約16%、国産を含めた総供給の約9%を占める)
今回のラスタヌラ計画ではパートナー候補にダウが選ばれた。
アラムコはラービグ計画のパートナーとして住友化学、SABIC、ダウの3社と交渉し、最終的に住友化学を選んだ経緯がある。
ダウはSABICの石油化学創設時にSABICとの合弁ペトロケミアを設立し、同じくSABICと日本側の合弁SHARQとの間でエチレン及びEGプラントの共同所有・共同生産契約を締結したが、1982年に突如撤退し、その結果ペトロケミアがSABIC100%となった経緯がある。
2006/4/1 「SHARQ (Eastern Petrochemical) の歴史」 参照
同社はその後サウジでは活動をしていないが、クウェートでは国営Petrochemical Industries Company(PIC)と組み、現在第2期計画を遂行している。ダウは更に2004年にPICとの間で、MEG、DEGの製造販売、PET樹脂の製造販売とPTAの製造の2つの海外JV(いずれも50/50)を設立している。
2006/5/31 「湾岸諸国の石油化学ー1 クウェート&バーレーン」参照
いつも大変参考にさせてもらっています。
中東でナフサ分解のスキームが本当に可能性あるものなのか興味ありますね。「中東=エタン分解」という構図に変化が現れるとプラント商売も少し風向きかわるかな(ま、大したことないでしょうけど)、とも思うんですが。