SABIC Europe は先月末にドイツのGelsenkirchen工場でのHDPE 25万トンプラント建設でUhdeと契約を交わした。完成後は同工場にある10万トンプラントをスクラップする。インフラ整備を加え、投資額は2億ユーロとなる。
同社はもう一つのサイトのオランダのGeleen工場で52万トンのエチレンクラッカーを新設し、Gelsenkirchen工場でポリマーを増設する「Europe 1」計画を立てていたが、こちらは過剰投資が原因の建設費アップで経済性が問題としてペンディングとしている。
同社は3月にGeleen工場で14万トンのバイオETBEプラントをスタートさせている。バイオエタノールとイソブチレンからETBEをつくるもので、ガソリンに添加する。
SABIC Europe は2002年にSABICが22.5億ユーロでDSMの石化部門を買収したもの。
オランダのGeleen工場にエチレン、HDPE、LDPE、LLDPE、PPプラントを持つ。
ドイツのGelsenkirchen工場は、DSMが1997年11月にHulsの子会社Vestolen GmbHを購入したもので、HDPEとPPプラントをもつ。
Gelsenkirchen工場にはBPドイツのエチレンプラントがあるほか、欧州エチレンパイプライン (ARG) でGeleen工場とつながっている。
各製品の工場別能力は以下の通り。
これらのほか、同社ではサウジのSABIC子会社で生産するメラミン、PVC、ポリエステル、PS等を販売する。
立地 | 製法 | 能力(千トン) | |||
2001 | 2005 | ||||
エチレン | Geleen | (2系列) | 1,250 | → | |
PE | HDPE | Geleen | slurry | 350 | → |
Gelsenkirchen | slurry * | 150 | 100 | ||
LDPE | Geleen | Tubular, autoclave | 610 | → | |
LLDPE | Geleen | Unipol, gas | 300 | → | |
Compact, solution ** | 120 | → | |||
合計 | 1,530 | 1,480 | |||
PP | Geleen | Innovene, gas | 235 | → | |
Mitsubishi-Yuka, slurry | 320 | → | |||
Gelsenkirchen | Innovene, gas | 340 | → | ||
Huls, slurry * | 100 | → | |||
Unipol, gas * | 100 | → | |||
合計 | 1,095 | → | |||
ポリオレフィン合計 | 2,625 | 2,575 |
* | Vestolen GmbH |
HDPEは購入時は50千トンx3系列。その後、手直しで60千トンx2、100千トンx1としたが、2003年末に60千トンx2系列を廃棄した。 今回の25万トンプラント新設時には残る10万トンプラントを廃棄する。 Innovene法PPは買収後に新設。 | |
** | LLDPE(Geleen)12万トンプラントはDSM と ExxonMobil の50/50JV として1996年に設立された Dex-Plastomers V.O.F で、ExxonMobilのメタロセン触媒を使用 |
なお、SABICはDSMの石化部門買収に先立ち、イタリアのENIから、石油化学の100%子会社で当時の欧州の三大ポリエチレンメーカーの一つ、Polimeri Europa の51%を買収する交渉をしていたが、途中で交渉が決裂した。
(Polimeri EuropaはENIとUCCの50/50 JVであったが、UCCとDowの合併に当たり、ENIのポリウレタン事業のDowへの売却との交換でENI 100%とした。)
SABIC Europe はGelsenkirchen工場のHDPEについては「Vestolen A」 、PPについては「Vestolen P」 という商標を使用している。
これはHulsの商標を引き継いだものである。
Hulsの歴史は古い。
1938年にドイツ政府の戦争準備のための4ヵ年計画に基づいて、スチレン・ブタジエンゴム Bunaの製造のため、I.G. Farben 74%、Hibernia (当時は国営であったエネルギー会社Vebaの子会社の鉱山会社)26%出資でHulsが設立された。
Hiberniaはコークス炉ガスを供給、これからHulsがエチレンとアセチレンを製造、アセチレンからBunaを製造した。エチレンはEOにし、凍結防止などに利用した。
第二次大戦後、I.G. Farben はBayer、Hoechst、BASFに分割された。Hulsは占領軍からBunaの製造を禁止され、界面活性剤、塩ビ、 ワニス原料、PS、柔軟材などの生産を始めた。
(現在、界面活性剤はSasol、塩ビはVestolitが引き継いでいる。PSはBPが引き継ぎ、その後Novaとの50/50JV NOVA Innoveneになった。)
他業種への進出に当たっては株を所有していたBayerから競合しないよう、注文がついたといわれている。
1950年代にHulsはPE(HDPE)、PP製造のため、同社の株の25%を所有していた Hibernia AGを通じてZieglerのライセンスを取得した。PE、PPの製造のため、HulsとHiberniaは合弁会社VESTOLEN GmbH を設立した。
1979 年にHulsはVebaの100%子会社となった。1988年にDynamit Nobel AG の化学部門を、1989年にRohm GmbH (MMA事業)を、1991年にStockhausen GmbH (吸水性樹脂事業)を買収し、スペシャリティケミカルズに方向転換した。
1989年にHulsはDegussaと合併してDegussa-Hulsとなった。
2000年6月、親会社Vebaはエネルギー会社VIAGと合併してE.On となり、Degussa-HulsはVIAGの子会社SKW Trostberg と合併して、社名をDegussaに変更した。
2003年、E.On はDegussa株の一部をRAGに売却、現在はRAGがDegussaの主株主となっている。
HulsのPE、PP事業JVのVESTOLENは、1997年末、DSMが買収し、その後増強している。
DSMは1902に国営炭坑会社Dutch State Mines として設立された。
1929年からコークス炉ガスを利用した化学肥料製造を開始、化学事業に参入
1960年代に石油化学事業に構造転換した。
1989年に民営化を決定、96年に一般公開を完了した。
石化事業をSABICに売却した後、ロシュからビタミン、ファインケミカル事業を買収、現在は次の4つの事業を行っている。
・Nutrition
・Pharma
・Performance Materials :DSM Elastomers, DSM Engineering Plastics, DSM Resins and DSM Dyneema
・Industrial Chemicals:DSM Fibre Intermediates, DSM Melamine and DSM Agro
なお、Hulsの当初の株主であったI.G. Farben の承継会社のうち、BASFとHoechstもポリオレフィン事業を行っている。
このうち、PEについては、BASFは戦前にICIから高圧法PEの技術ライセンスを受け、戦後事業化した。
(ICI特許は日本で戦後、再審査の請求がないまま有効期限が切れたため、三菱油化がBASFからの技術導入で事業化できた)
HoechstはZieglerの中低圧法PE技術を世界で最初に事業化し、Hostalenのブランドで発売した。(日本では三井石油化学がZieglerの技術を導入している)
両社のポリオレフィン事業はその後、多くの変遷を経て、Basellの一部となっている。
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