2006/9/8 「PESとPEEK」で、住友化学のPES増設に関して、
PESは「航空機向けでは炭素繊維複合材に配合し、炭素繊維をつなぎ合わせる材料として用いられている。航空機用途の炭素繊維複合材料は、近年、燃費削減のための航空機の軽量化を目的に、航空機1機当たりの使用量が、従来の3~4倍にまで増加しており、PESの需要も急激に伸長している」
と述べた。
炭素繊維には、合成繊維のアクリル長繊維からつくるPAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維と、石炭タール、石油ピッチからつくるピッチ系炭素繊維がある。
PAN系炭素繊維は、PANプリカーサー(ポリアクリロニトリル繊維)を炭素化して得られるもので、高強度・高弾性率の性質をもつ。航空宇宙や産業分野の構造材料向け、スポーツ・レジャー分野など広範囲な用途に使われている。
ピッチ系炭素繊維は、ピッチプリカーサー(コールタールまたは石油重質分を原料として得られるピッチ繊維)を炭素化して得られるもので、製法の諸条件で、低弾性率から超高弾性率・高強度の広範囲の性質が得られる。
超高弾性率品は、高剛性用途のほか、優れた熱伝導率や導電性を生かしてさまざまな用途に使われている。
PAN系炭素繊維では東レ、東邦テナックス、三菱レイヨンの3社が海外の拠点を持ち、世界市場のほとんどを押さえている。
他のメーカーにはHexcel Corporation、Amocoなどがある。
PAN 系炭素繊維需要予測は以下の通り。(単位:トン/年、ソース:東邦テナックス)
2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
航空機 |
4,620 |
5,630 |
6,550 |
7,050 |
7,850 |
8,530 |
一般産業 |
11,300 |
13,310 |
14,970 |
17,910 |
21,050 |
23,470 |
スポーツ |
4,900 |
5,110 |
5,260 |
5,430 |
5,610 |
5,720 |
合 計 |
20,820 |
24,050 |
26,780 |
30,390 |
34,510 |
37,720 |
3社はすべて設備能力の拡大を図っている。
(1)東レ
東レは愛媛工場のほか、フランスでAtofina子会社のArkemaとのJVのSOFICAR、米国で東レ100%のToray Carbon Fibers (America)(CFA)でPAN系炭素繊維「トレカ」の製造を行っている。
同社 は“トレカ” 複合材料をグループの先端材料の中核商品として位置づけ、戦略的な事業拡大を推進している。
2004年4月には、米国のCFA(アラバマ州ディケーター市)で年産1,800トンの焼成設備を1系列増設するとともに、炭素繊維用原糸(プリカーサ)の重合・製糸設備を1系列新設して現地での一貫供給体制を構築することを発表した。
2005年4月、250億円を投じる愛媛工場の増強を発表した。炭素繊維原糸(プリカーサ)の重合・製糸、および焼成までの一貫生産ライン2系列(計2,200トン/年)と、樹脂を含むプリプレグ生産設備1系列(580万m2/年)を増設する。
2005年12月には、欧州における生産設備増強を発表した。SOFICARに年産800トンの炭素繊維焼成設備を1系列増設し、2007年8月からの稼働開始を目指す。
この結果、同社の能力は以下の通りとなる。
2005/12現在 | 2006年1月 | 2007年1月 | 2008年1月 | |
日本(愛媛工場) | 4,700 トン | 4,700 トン | 6,900 トン | 6,900 トン |
フランス(SOFICAR) | 2,600 トン | 2,600 トン | 2,600 トン | 3,400 トン |
アメリカ(CFA) | 1,800 トン | 3,600トン | 3,600トン | 3,600トン |
グループ計 | 9,100 トン | .10,900トン | .13,100 トン | .13,900 トン |
注 SOFICAR: Societe des Fibres de Carbone S.A.
設立:1984/12
出資:東レ 70%/Arkema 30%
立地:フランス共和国ピレネー県アビドス市
CFA:Toray Carbon Fibers (America)
設立:1997/5
出資:東レ 100%
立地:アラバマ州ディケ-タ-(モンサント社工場敷地内)
東レは2006年4月に、米国ボーイング社の次世代中型旅客機 B787(2008年就航予定) 向け炭素繊維複合材料について、同社との間で、2021年までの16年間(5年間のオプションを含む)に亘る長期供給に関する包括的正式契約を締結した。
同社は2004年5月に、B787の主翼と尾翼を対象として、炭素繊維UD(一方向)プリプレグの長期供給基本契約を締結しているが、今回、それに加え、胴体向けに炭素繊維クロス(織物)プリプレグの追加受注を獲得するとともに、供給条件の詳細を含めた包括的な正式契約を両社間で締結したもの。
同社では同社の炭素繊維“トレカ” と“トレカ”プリプレグの品質優位性をはじめ、長期にわたる安定した素材供給実績、およびボーイング社と培ってきた信頼関係が評価されたものとしている。
(2)東邦テナックス
東邦エナックスは1934年に東邦人造繊維株式会社として創業、1950年東邦レーヨンとして設立された。
2000年に帝人がTOBで50%超を取得、2001年7月に東邦テナックスと改称した。
現在の株主は帝人が55.2%、日清紡が10.0%など。
帝人との連携で、短繊維による炭素繊維の製造プロセスに、帝人が持つ長繊維の製造技術を新たに活用することで、繊維の収率や歩留まりを向上させ、生産性を従来比で約2割向上させることに成功したと報じられた。
同社は三島とドイツ、米国に炭素繊維“テナックス”の生産設備をもつ。
東邦レーヨンのTenax Fibers GmbHは1986年にドイツで生産を開始している。
その後、同社は東邦レーヨン80%/Akzo Nobel 20%のJVとなり、Akzo の繊維部門分離で東邦レーヨン 95%/Acordis 5%となり、2000年に東邦100% となった。(東邦は1983年にAkzo Nobel の前身の一つ、Enka A.G.に技術ライセンスをしている)
2005年4月に同社はToho Tenax Europe GmbH に改称した。
2004年、東邦テナックスは、ドイツのTenax Fibers GmbHで炭素繊維製造ラインを1ライン増設すると発表した。欧州ではエアバス向け航空機用途および風力発電などの一般産業用途の需要が拡大しており、供給が追いつかない状況となっているため増設するもの。
2006年4月、同社は2008年4月稼動を目標に三島事業所で炭素繊維焼成設備と、併せてプリカーサー製造設備の増設を発表した。
同社は米国に拠点がなかったが、2004年8月、オランダのAcordis (Tenax Fibers GmbHの提携相手)の米国PAN系炭素繊維事業 Fortafil Fibers, Inc.を買収することで合意した。
(東邦レーヨンは1976年にCelanese と技術、販売面で提携したが、Celanese は1985年に事業をBASFに売却、BASFは1992年に撤退した。
Fortafil は1987年にAkzoがGreat Lakes Carbon から買収したもの)
東邦テナックス100%の販売会社Toho Carbon Fibers, Inc.が、Acordis 100%のFortafil Fibers, Inc.を資産買収し、設備、資産および人員をToho Carbonに統合した。2005年4月に同社はToho Tenax America, Inc.に改称した。
同社の能力はLarge Tow 3,500トンであったが、買収後改造し、Regular Tow 700トン、Large Tow 1,300トンとした(他にプリカーサを耐炎化した耐炎繊維 1,400トン: : 製造プロセス図参照)。
(注)Regular Tow (RT)、Large Tow (LT)はフィラメント数が異なり、使用分野が異なる。
東邦グループの炭素繊維生産能力(単位:㌧/年)
2005年末 | 2006年末 | 2008年末 | |
日本 | RT 3,700 | RT 3,700 | RT 6,400 |
ドイツ | RT 1,900 | RT 3,400 | RT 3,400 |
米国 | LT 2,600 | LT 1,300 RT 700 |
LT 1,300 RT 700 |
合計 | 8,200 | 9,100 | 11,800 |
内訳 | RT 5,600 LT 2,600 |
RT 7,800 LT 1,300 |
RT 10,500 LT 1,300 |
ドイツ:Toho Tenax Europe GmbH(旧称 Tenax Fibers GmbH)
出資:東邦テナックス 100%
立地:Oberbruch, Germany
米国 :Toho Tenax America, Inc.(旧称 Toho Carbon Fibers, Inc.)
出資:東邦テナックス 100%
立地:Rockwood, TN, USA
(3)三菱レイヨン
三菱レイヨングループは、原料であるANモノマーから、レギュラートウ、プリプレグ、更にゴルフシャフト等の加工品まで一貫生産を行っている。1976年にプリプレグの生産を開始して以来、スポーツ・レジャー用途や産業用途を中心に市場プレゼンスを拡大してきた。
三菱レイヨンは豊橋と米国に製造拠点を持ち、欧州ではスコットランドの企業に製造委託をしている。
2005年11月、豊橋工場の増設を発表した。需要増大に備え、メーカーとしては将来に亘る安定的な供給体制を整えることが急務となっているとし、豊橋事業所で生産能力2,200トン/年の焼成ラインを2007年第2四半期に新たに稼働させる。
米国では1991年にカリフォルニア州サクラメントに三菱レイヨン100%のGrafil,inc. を設立した。
2005年1月、炭素繊維の急速な需要増に応えるためGrafil社の生産能力を500トン増強することを決定した。
なお、2001年に急成長している産業用途への拡販を視野に入れて、三菱商事とともに原油輸送用パイプの有力メーカーであるFiberspar Corporation へ1出資し、産業資材向けの炭素繊維の供給を行っている。
同社は欧州に製造拠点をもっていないが、2005年1月、欧州市場の拡大を見据え、ドイツに本社を置く SGL Carbon Groupと提携し、欧州での焼成拠点を確保した。SGLカーボングループは炭素繊維複合材料の有力メーカーで、三菱レイヨンでは同社と事業面で補完関係を構築し市場で競争ポジションを強化することが可能と考えた。
戦略的な提携の第一歩としてSGLグループのスコットランド子会社 SGL Technic Ltd. への生産委託を決定した。
三菱レイヨングループの炭素繊維生産能力 (単位:t/年)
2005年10月 | 2007年2Q | |
日本 | 3,200 | 5,400 |
米国 | 1,500 | 2,000 |
欧州(*) | 0 | 500~750 |
合計 | 4,700 | 7,900~8,150 |
米国:Grafil Inc.
本社:Sacrament, CA
出資:三菱レイヨン 100%
欧州:(製造委託*)
委託先:SGL Carbon Group
本社:ドイツ
委託工場:SGL Technic Ltd. (英国スコットランド)
なお同社は、2001年に新日鐵化学からプリプレグ事業を譲り受けている。
これにより、新日鐵化学の得意としていたゴルフ、釣竿などのスポーツ分野や、印刷ロール、医療関連などの産業分野等の事業を継承し、三菱レイヨンの強みであるスポーツ分野を一層、強化拡充するとともに、成長分野である産業分野においても用途拡大が推進されるとしている。
(4)その他
ある調査は2000年頃のその他のメーカーの能力として以下をあげている。
HEXCEL(米) 1,715トン
AMOCO(米) 1,120トン
その他 810トン
HEXCELは2005年11月にユタ州のプラントの増設、アラバマ州での新設、スペインのマドリッド近辺での新設を発表している。
アラバマ州での新設は航空機用の認定を受けたものとしており、合計で現状能力を50%増しにするとしている。
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なおピッチ系では以下のメーカーが炭素繊維協会の正会員になっている。
・クレハ
1970年に世界で初めてピッチ系炭素繊維「クレカ」の商業生産を開始
・大阪ガスケミカル
子会社ドナックでピッチ系汎用炭素繊維を製造していたが、2005年吸収合併
・三菱化学産資
三菱化学の石炭化学の成果の石炭ピッチ系の炭素繊維「ダイアリード」
・日本グラファイトファイバー
新日鐵 50%/新日本石油 50%で設立
現在は日鉄コンポジット 65%/新日本石油 35%
参考 炭素繊維協会ホームページ http://www.carbonfiber.gr.jp/
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