WHO、マラリア防止にDDT使用を推奨

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WHO915日、マラリア蔓延地区においてDDTの室内散布を推奨すると発表した。DDTを壁や天井などに散布することにより、そこに停まる蚊を殺し、マラリア蔓延を防ぐもの。

DDTは1873年に初めて合成され、1939年にスイスの科学者パウル・ヘルマン・ミュラーが殺虫効果が発見し、この功績によって1948年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。安価で高等生物への急性毒性が弱く、マラリアを媒介する蚊の駆除に劇的な効果を上げることも分かり、世界中で使用された。

しかし、米国のレイチェル・カーソンが1962年、著書「沈黙の春」でDDTの生態系への影響を指摘、他の研究者からも発がん性やホルモンに似た作用があるという報告が相次いだ。このため、80年代に各国で使用禁止となった。

スリランカでは1948年から62年までDDTの定期散布を行ない、それまで年間250万人を数えたマラリア患者の数を31人にまで激減させることに成功していたが、DDT禁止後には僅か5年足らずで年間250万人に逆戻りしている。
最近は世界で毎年、5億人以上がマラリアに感染し、100万人以上が死亡しているという。

2004年、地球規模での化学物質の汚染防止を目的にした「ストックホルム条約」が発効した。これにより、DDTやPCB、ダイオキシンなどの使用が規制されたが、例外としてマラリア対策として、DDTの製造・使用が認められた。

南アフリカでは国際的な圧力により、1996年にDDTの使用をやめ、その代替殺虫剤が使用されるようになっていたが、その殺虫剤がDDTに比べ効果の弱いことが分かり、その4年後、再びDDT使われるようになった。
公式資料によると、2000年には64,622人(内 死亡438人)のマラリア発症の報告があったものが、2005年には7,754人(内死亡64人)と大きく減少している。

今回のWHO発表では以下のように述べている。
・DDTの室内散布はマラリア感染蚊による感染者数を素早く減少させるのに有効。
・調査によると、よく管理されたDDTの室内散布は野生生物や人体に害を与えないことが判明。
・科学的データによるとWHOが室内散布を認める殺虫剤のなかで、DDTが最も有効。
・家や畜舎の壁や天井に長期間効果のある殺虫剤を散布し、そこに停まるマラリア蚊を殺す仕組み。
・室内散布は丁度、大きな蚊帳を家中に24時間吊るのと同じである。
・室内散布についての考えはこの数年、変わってきた。1960年代に反DDT運動をした環境保
護基金(Environmental Defense)やシエラクラブ、絶滅危惧野生動物保護基金(Endangered Wildlife Trust)も賛成に回っている。
・正しい、タイムリーな室内散布はマラリア蔓延を
90%まで減らすことが出来る。
WHOのマラリア防止策は次の3つ。
 1)室内散布

 2)殺虫剤処理の蚊帳の使用
 3)
感染者にはアルテミシニンと他の抗マラリア薬の併用治療

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殺虫剤処理の蚊帳は住友化学が開発した。商品名をオリセット蚊帳Olyset Mosquito Net)と呼ぶもので、殺虫剤を樹脂に練り込み、その樹脂を用いて蚊帳を作った。WHO ではこのオリセット蚊帳の効果を確認し、推薦している。

住友化学はタンザニアの蚊帳メーカーに技術を無償供与し、これの現地生産体制を整えたが、昨年、現地メーカーとの合弁会社Vector Health International Limitedを設立して新規工場を建設した。タンザニアでの年間生産能力は 800万張り/年に、世界での生産能力を2,000万張り/年にした。

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マラリア治療薬についてはアルテミシニンが使用されたきたが、WHOはアルテミシニンの単独使用でマラリア原虫は抵抗性を持つ可能性があるとし、アルテミシニン単独、または他の抗マラリア薬単独の治療法ではなく、アルテミシニンと他の抗マラリア薬を併用するACT (artemisinin combination therapies) 治療を推奨している。
また、
WHOは従来常用されてきたクロロキンはほとんどの国でその効果を失ってしまったと指摘している。

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今回のDDT使用推奨については賛否両論がある。

科学ライター、松永和紀さんによると、使用賛成論者は次の理由を挙げる。

(1)DDTの評価の誤り
 ヒトへの発がん性を示す確たる証拠がないこと、神経系や内分泌系への影響も実験結果がさまざまで、はっきりしたことがまだ言えないこと。つまり、「『沈黙の春』は、真実ではない恐怖を煽ってDDTを禁止させ、大勢の子どもの命をマラリアで失わせたのではないか」という批判が、浮上している。

(2)農薬など化学物質は、それほど生物に蓄積していない。
 昨年、CDC(米疾病管理センター)が、米国民の尿や血液から検出された148化学物質をリストにして発表した。99-2000年の調査結果で、DDTをはじめとする農薬は、検出されないか検出されても微量。
もちろんこれは、「沈黙の春」などの警告に基づき、化学物質管理が進んだ結果でもある。ただ、「沈黙の春」が、化学物質を排出したり分解したりする生物の機能を軽視し過ぎたことは否めない。
(2006-06-07  松永和紀のアグリ話●「沈黙の春」の検証が進まない不思議な国ニッポン話」)

これに対して最近の欧州などでの研究で、DDTと男児の生殖器異常との関連性を示す報告がいくつか出ており、DDTのホルモンに似た作用による影響と考えられる。動物実験の結果では、発がん性も完全には否定されていないという。DDT有害説は完全には否定されていない。

5億人以上がマラリアに感染し、毎年100万人以上が死亡している事実を考えると、DDT使用は止むを得ないと思われる。
昔のように畑(農業用)や家の周りの草むらや水溜り(マラリア防除用)に散布するのと異なり、室内散布の場合は自然汚染のリスクも少ない。

コメント(1)

>スリランカでは~年間250万人に逆戻りしている。

その後、スリランカのマラリアは減少しました。

1990年~1993年:28万人~32万人台
1994年~2000年:14万人~27万人台
2001年:6万6522人
2002年:4万1411人
2003年(平成15年)のマラリア患者:1万 510人(そのうち、死者:2人)(WHOの統計)

以上、情報提供します。

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