水俣病の未認定患者が国と熊本県、原因企業のチッソに損害賠償を求めて昨年10月に起こした訴訟で、チッソが時効成立を理由に請求棄却を求める準備書面を熊本地裁に提出していた。
チッソは準備書面で、
(1)原告の多くは95年の政治決着前から感覚障害を自覚しており、症状を知ってから消滅時効期間の3年が経過している
(2)原告の症状が85年10月以前に発生していた場合、損害賠償請求権を失う除斥期間(20年)が経過している
と主張し、「和解の余地はない」として請求棄却を求めている。
これまで水俣病の時効を巡っては、チッソが水俣病第1次訴訟で「原告らが認定を受けてから3年以上経過している」と主張したが、熊本地裁は73年の判決で「損害が継続的に発生している場合、最初に損害や加害者を知った時から消滅時効が進行するという解釈は到底とり得ない」として退け、確定した。チッソはそれ以降、時効理由を取り下げていた。
一方、国と熊本県は関西訴訟などで時効論を主張し、一部が認められた。今回の訴訟で国と熊本県は、国家賠償責任を認めつつ、除斥期間や水俣病の診断基準については争う姿勢を示している。
現在、熊本地裁に訴訟を提起しているのは、水俣病不知火患者会に参加する1,159人。1人当たり850万円の損害賠償を求めている。
水俣病不知火患者会の会長は、「責任逃れとしか言いようがない。徹底して闘う」と述べ、他の被害者団体からも強い反発の声が相次いている。
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1995年の政治決着で、ほとんどの患者が和解に応じ裁判を取り下げたが、「関西訴訟」の原告だけが行政の責任を問い続けた。2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下した。
2004年10月の同訴訟最高裁判決で、国・熊本県の責任を確定するとともに、それまでの基準より緩やかな救済基準が示された。
それまでの基準は、「四肢抹消の感覚障害のほかに視野狭さくや中枢性難聴など複数の症状の組み合わせ」を要件としていたが、最高裁は、「一定の条件があれば感覚障害だけで水俣病と認められる」とした大阪高裁の判断を支持した。
この結果、熊本県と鹿児島県への患者認定申請者が増加、認定申請者が4,500人を超えている。
これに対し国は、「最高裁の判決は有機水銀中毒症の判断基準であり、水俣病と有機水銀中毒は別」とし、現行の水俣病認定基準の見直しは行わないことを言明した。
熊本県、鹿児島県では、認定審査会の委員が「司法と行政の二重の認定基準が存在し審査ができない」として、再任を拒否しているため、審査業務が停滞している。
2006/5/1 「水俣病50年」 参照
水俣病に関しては熊本日日新聞のホームページ「水俣病百科」が詳しい。
http://kumanichi.com/feature/minamata/index.cfm
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