Celaneseは11月17日、サウジのSaudi International Petrochemical Company(Sipchem)、International Acetyls Company 及び International Vinyl Acetate Company の3社に対し、3社がアルジュベイルで建設中の酢酸と酢ビプラントへの同社の技術・ノウハウの使用禁止を求めてテキサス州で訴訟を行った。
訴えによると、3社はCelaneseの現役及び退職した従業員を採用し、Celaneseの酢酸起業を担当して熟知している設計、建設会社とCelaneseの営業機密に通じている機材メーカーを起用することにより、計画的にCelaneseの情報を悪用して事業を行おうとしているとしている。
これに対し、Sipchemはこれを強く否定し、同社はEastman Chemical と DuPont から技術を導入して設計・建設を行っているとしている。
Sipchem は2004/8月に DuPont と酢ビ技術導入の、2005/5月に Eastman Chemical と酢酸技術導入の契約を締結している。
背景には次の事情がある。
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Celaneseは1987年にHoechstに吸収された子会社となったが、2004年に米投資会社ブラックストーン・グループによるTOBで買収された。酢酸のトップメーカーで、子会社にエンジニアリングプラスチックのTiconaを持っている。
ブラックストーン・グループは同じ2004年10月に、欧州の酢酸メーカーのAcetex Corporation の買収の契約を締結、これをCelaneseに統合した。
Acetexは買収に先立ち、2004年4月にサウジの National Petrochemical Industrialization Company (TASNEE Petrochemicals) との間で、年産500千トンの酢酸、275千トンの酢ビモノマー、180万トンのメタノールプラントをジュベイルに建設する契約を締結した。建設費10億ドルで、2007年スタートを目指した。Acetexは酢酸、酢ビJVには50%、メタノールJVには25%の出資を予定した。Acetexは酢酸、酢ビの販売を受け持ち、自社の事業と合わせてグローバルな販売組織の構築を考えていた。
Tasnee Petrochemicals はワリード・ビン・タラール王子の投資・持株会社が筆頭株主であるNational Industrialization Company (NIC) が51%を所有し、ほかに、Bahrain, Kuwait, Oman, Qatar, Saudi Arabia,United Arab Emirates.の湾岸6カ国が均等出資する Gulf Investment Corporation (GIC) や Saudi Pharmaceutical & Medical Appliances Co. (SPIMACO)、 KuwaitのNational Industries Group (NIG)、サウジのAl-Olayan Financing Co.が出資している。
ブラックストーン・グループはAcetex の買収に当たり、本計画に大いに期待していた。
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2005年6月、サウジのSaudi International Petrochemical Company (Sipchem) がHelm Arabia Gmbh & Co との間で合弁会社設立を発表した。ジュベイルに年産460千トンの酢酸と、300千トンの酢ビモノマープラントを建設するというもの。
Celaneseの訴状にあるInternational Acetyls Companyはこの酢酸製造、International Vinyl Acetate Companyは酢ビ製造のJVである。
JV製品の販売は中東はSipchem、それ以外はHelm Arabia が担当する。
Sipchemによれば、酢酸と酢ビプラント建設はFluor Canada、原料一酸化炭素プラント建設はドイツのLurgi AG とフランスのAirLiquide のJVが担当する。.
SipchemはSahara Petrochemical Companyなどを持つAl-Zamil Groupが11%出資し、他にサウジや湾岸諸国の投資家が出資している。
Sipchemは三井物産、三菱商事、ダイセル、飯野海運が出資するJapan-Arabia Methanol Co と共同で International Methanol company を設立し、年産100万トンのメタノールを生産している。
Tasnee 及び Al-Zamilについては 2006/5/13 「サウジの民間ポリオレフィン計画」参照
メタノール計画については 2006/3/31 「サウジ・メタノール計画」 参照
JV 相手先にどうしてHelm Arabiaを選んだかは不明である。
Helm Arabia はこの事業のために設立されたJVで、一方はドイツの化学品商社Helm AGで、もう一方はフランスの会社で防衛、航空、保安等の分野向けのエレクトロニクスとシステムを扱うThales である。Thales は30年以上、サウジで活動している。
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Celanese(旧Acetex)とTASNEEのJV計画はその後、延期された。
2006年3月期末のTASNEE の株主報告書では以下の通り述べている。
「酢酸・メタノール計画は建設業者・部品供給者に関する問題で一時的に延期することでCelaneseと合意している」
これまでAcetex かCelaneseが使っていた建設業者(Fluor Canada ?) と部品供給者をSipchem が引き抜いたと思われ、今回の訴訟に繋がったと見られる。
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