日本の化学業界  回顧と展望

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本年2月15日にスタートした本ブログは270回を超えた。毎日は無理だろうと言われたが、なんとか続けてこられた。

第1号は「プラスチック100周年」である。2007年は最初のプラスチックのベークライトが開発されて100周年になる。
今後、日本の化学業界がどうなるのかを、過去の歴史、海外企業や他の業界の動き、その他をみながら、考えようというのが、このブログの視点である。

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日本の化学業界は、小規模多数プラントによる過剰能力の下での過当競争の歴史であった。景気の良いときには増設競争、悪くなればカルテルの繰り返しであった。

日本の石油化学産業の構造改善では日本の石化の25年の歴史を、「産構法時代」、「ポスト産構法時代前期」、「ポスト産構法時代後期」、「事業統合の時代」、「選択と集中の時代」、「中国バブル時代」に分けた。

石油ショック時代に最後のカルテルとして産構法が施行された。石油価格下落による景気回復で、石化の業績は回復したが、再度増設競争が行われ、バブル破綻後には業績は再度悪化した。最早、カルテルによる逃げ道はなく、事業統合で解決しようとしたが、設備を残したままでの統合は解決策とならず、各社とも行き詰った。「2004年問題」の危機感もあり、ようやく各社が思い切った「選択と集中」を考え始めた。三菱化学の四日市エチレン閉鎖、塩ビ各社の撤退、三井・住友の統合などの動きが出た。

しかし、その直後に化学会社の業績は向上した。
中国需要の急拡大、原油価格上昇による原料価格高騰、及びハイテク関連製品の需要の急増が背景にある。
(前2者は2つが揃った結果、国内価格が値上がりし、業績回復に役立った。これまでの例では海外需要が増えても、又は原料コストが上がっても、それだけでは値上げは難しかった。)

フル稼働と国内外の値上げにより石化事業の業績は急上昇し、新規事業の業績も好調で、各社とも増収増益となり、各社は単独でやっていけると思い込み、「選択と集中」の動きは止まった。「2004年問題」は忘れられた。
METIの
発表する「世界の石油化学製品需給動向」では、中国の石化製品の能力が急増し生産量も増えるが、需要はそれ以上に増えるとみている。中国には13億人という膨大な潜在需要があるというのが、この見方の背景にあると思われる。

これに対して筆者は異なる見方をしている。
中国バブル説」、「ハイテク材料バブル説」で、これらがバブルの可能性があることを述べた。
中国で当てになる需要人口は沿海地区の3億人のみであり、当面は、需要のこれ以上の伸びは期待できないというものである。
杉本信行著 「大地の咆哮 元上海総領事が見た中国」 は、中国に対する見方が裏付けている。
ハイテク関連は過当競争での値下がりの可能性、需要家の自製、競争による製品そのものの敗退などの問題を抱える。
ナフサ価格については、中国バブルがはじけると、多くのエチレン計画が取り止めになり、これをきっかけに暴落するだろうと考えた。
(この理由での暴落は起こらなかったが、値下がりは起こった)

このため、石化の好調は続かず、早急に「選択と集中」政策を再開し、過剰能力をなくす必要があるとの立場をとっている。

 

2006年の状況は既に、かなり変わってきている。

合繊原料やVCMを初めとして、既に輸出減や値下がりが始まっている。

中国の需要は伸び悩みを見せているが、石化プラントの増設の動きは急で、止まる見込みはない。
中国は大きな国であるため、全体で過剰でも地域別にはバラつきが大きく、各省が競争して拡大を図る。政府も貧富の差の縮小のため、西部開拓を進めている。産炭地では石炭原料でのオレフィン生産計画も続出している。中国政府は小規模エチレン設備を、廃棄ではなく、大規模化の方針を出した。

全体で過剰能力になれば輸出しようという考えがあるのであろう。
中国には「金を貸す馬鹿、金を返す馬鹿」という言葉があるそうだが、競争激化に際して、借金を返さずに済ませれば、最新鋭の大型設備で、償却費(と場合によっては金利も)抜きのコストでは、日本製品は対抗できない。

中国は既に鉄鋼のネットの輸出国になっている。
PVCも既に輸出を始めており、05/12-06/11の1年間で458千トンの輸出を行った。これは同期間の中国の日本からのPVC輸入量(502千トン)に匹敵する。
そのうち、他の製品も輸出攻勢をかけてくるであろう。

ナフサ価格は9中旬から 急落した。 OPECは11月に減産に踏み切り、2007年2月には更に減産を強化するが、減産が守られないだろうとの見方が強い。
中国需要が伸びない中でのナフサ価格の下落の結果、輸出価格は低落し、国内価格に跳ね返るのは必至である。
過剰能力の下で、輸出が減少した場合、再度値下げ競争が再燃する恐れもある。

もう一つの利益源のハイテク関連も雲行きが怪しくなっている。液晶テレビとプラズマテレビの激烈な値下げ競争(このお陰でキャノン/東芝のSED方式は吹っ飛んだ)、この中での材料関連への各社の進出による競争で、機能性フィルム等の値下がりが出てきた。

中国バブル、原油価格バブル、ハイテクバブルが揃って破裂しようとしている。

今後は更に事態は悪化しよう。

中国経済は北京オリンピック後が危ないと言われているが、それまで持たないかも分からない。
中国バブルの破裂は、これまで中国への輸出で生きてきた
韓国台湾に決定的なダメージを与える。
中東などで、大規模設備が相次いで完成する。
(今後は原料コスト競争力の争いになる)

短期的には米国の住宅不況でアジアへのレジン輸出の増加が予想される。
(2006年第4四半期の米国のレジンの操業度は、PEが81-86%、PPが88%、PVCが76%といわれている。PVCでは更に2007年末にShintechの大型設備が完成する。)

各国からの輸出圧力に対して、対抗策はない。
関税に関しては、「2004年」に PE、PPの税率も引き下げられた。
マレーシアシンガポールについては経済連携協定で関税率が順次引き下げられる。

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2006/12/26、経産省は「平成19年石油化学製品需要見通しについて」を発表、以下の通り述べている。
http://www.meti.go.jp/press/20061226004/sekiyu-kagaku-p.r.pdf

平成18年については、中国を中心とするアジア地域の景気拡大や国内での民間需要を中心とした景気回復傾向の継続を背景に、エチレン換算内需は前年を上回り、プロピレン換算内需はほぼ昨年並みを維持する見込み。
また、アジア地域の旺盛な需要増を反映し、輸出はエチレン換算、プロピレン換算とも増加する見込みであるが、エチレン系については、中東及びアジア各国からの輸入も増加するため輸出入バランスは昨年並みの水準となり、プロピレン系については、輸入も減少するため輸出超過量が拡大する見込み。

平成19年については、原油価格の高騰などの不安定要素があるものの、国内での石油化学製品の需要は引き続き底堅く、エチレン換算内需及びプロピレン換算内需は、前年を上回る見通し。
また、堅調な国内需要による輸出余力の減少により、エチレン系、プロピレン系とも輸出超過量は前年に比べ縮小する見通し。

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かなり楽観的で、危機感が見られない。製品によっては輸出の大幅減少の可能性もあるであろう。

実際には、輸入品が大量に日本に入ってくるということはないだろう。
国内に過剰設備がある以上は、需要家は便利な国内品をやめて、輸入品を使うことはない。

但し、価格は輸入品並みに下がるのは間違いない。下手をすれば、以前のように、国内メーカーの過当競争でそれ以下に下がる恐れもある。日本のメーカーは再度赤字に悩むこととなる。

海外メーカーが大胆な再編や設備の大型化を進める中で、日本のメーカーは再編でメーカー数こそは減っているものの、一部を除き、小規模の多数プラントをかかえる状況は変わっていない。
根本原因はエチレンセンターそのものが減らないことで、エチレン維持のために川下が残るケースが多い。

エチレンを含めた大胆な構造改善に早急に取り組む必要があろう。

 

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本年のブログはこれが最後です。
来年は1月4日からスタートします。

なお、バックナンバーは以下に見易く再表示しています。
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm

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