前回に続き、ロシアの石油を武器とした攻勢について。
2007年1月1日になる2分前に、ロシアとベラルーシは天然ガス価格値上げで合意した。
ロシアとベラルーシはこれまで密接な関係にあり、ロシアの天然ガス独占企業ガスプロムは天然ガスを国内並みの優遇価格(1000立方メートル当たり46.68ドル)で供給してきた。しかし、昨年11月に2007年から4倍の200ドルに引き上げると伝え、ベラルーシはこれを拒否、12月27日にはガスプロムは、交渉がまとまらなければ1月1日からガス供給を停止すると伝えた。
ギリギリの交渉の結果、2007年には100ドルとし、2008年以降も段階的に引き上げ、2011年に欧州向けの水準(2007年で293ドル)とすることとなった。
(なお、ガスプロムはグルジアとは235ドル、モルドバとは170ドルで、それぞれ、値上げ交渉を妥結した。)
値上げの一方でガスプロムは、ベラルーシ国内の天然ガス供給パイプライン運営会社の株の半分を今後4年間で総額25億ドルで購入する。またロシア産天然ガスのベラルーシ領の通過料も値上げされる。
(ガスプロムは2005年3月のベラルーシ政府との交渉で、低価格を据え置く代わりに、ベラルーシを通る天然ガスパイプラインの権益を獲得している)。
しかし、問題はこれで止まらなかった。
ロシアはベラルーシに対し、石油についても2007年からトン当たり約180ドルの輸出関税(これまで免除していた)を上乗せすると通告した。
これに対し、ベラルーシは対抗策として、同国を通過するパイプラインでロシアが欧州に輸出する石油に対し、2007年からトン当たり45ドルの関税を課すと発表した。ロシア側はベラルーシには欧州向けのロシア産石油に関税を課す権限はないと反論、ベラルーシはロシア側が関税上乗せを取り止めれば同国も取り止めるとしている。
8日、同国内で北に分岐し、ポーランド経由ドイツ向けのNorthern Druzhbaラインが送油を停止した。
ベラルーシ側は「第3国向け送油は止めていない。パイプラインの油圧低下は、我が国に非があるのではない」と否定、一方、ロシアのパイプライン管理会社は、「ベラルーシが6日から予告なしに、ロシア産欧州向け原油の抜き取りを始めた」と非難している。プーチン大統領は「ロシア産石油を購入している西側諸国とロシアの利益保護のためあらゆる手段を講じなければならない」とし、石油の生産調整の検討を指示した。
ドイツは130日分以上、ポーランドは70日分以上の備蓄をそれぞれ持っており、当面静観しているが、EUは9日、ロシアとベラルーシの対応を強く非難した。
IEAは原油輸送停止がSouthern Druzhbaラインにも及び、ポーランド、ドイツ、ウクライナ、スロバキア、ハンガリー、チェコの6カ国の原油供給に影響が出たとの声明を出した。
紛争が長期化すれば、欧州経済に影響が出る恐れがある。
付記(2007/1/13) ロシアのフラトコフ首相とベラルーシのシドルスキー首相は12日、モスクワでロシア産石油輸出の協力に関する合意文書に署名した。欧州向け石油供給の一時停止にまで発展した問題は和解で正式決着した。 |
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天然ガスに関しては、ロシアは2005年末にウクライナとの間で欧州各国も巻き込んだ大問題を起こしている。
2005年4月、ガスプロムがウクライナ政府に対し、それまでの1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルへの値上げを提示、後に更に230ドルに引き上げた。
交渉は紛糾し、2005年12月にはガスプロムは、契約がまとまらなかった場合には2006年1月1日からガス供給を停止すると改めて表明した。
2006年に入り、ガスプロムはがウクライナ向けのガス供給を停止した。
(EU向けと同じパイプのため、ウクライナ向け対応の30%を削減した)
しかしウクライナ側は、これを無視してガスの取得を続けたため、パイプライン末端のEU諸国のガス圧が低下し、各国は大混乱となった。
問題が二国間の問題に止まらず国際問題となったため、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に期間5年、95ドルで妥協した。
但し、ガスプロムはウクライナには直接販売せず、オーストリアの銀行(ダミーで、実際はウクライナの投資家といわれる)との合弁会社ロスウルクエネルゴに230ドルで供給し、同社はそれをトルクメニスタンおよびカザフスタン産の低価格ガス(50ドル)と混ぜたうえでウクライナに95ドルで販売することとし、ガスプロムは「ウクライナへの販売価格を西欧並に」という主張を通した。
ウクライナの収入となるガスパイプライン通過料も2005年の1.3億ドルから2006年には2億ドルに引き上げられた。
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ウクライナは2004年暮れの「オレンジ革命」以来、親ロシア政策を放棄して、EUとNATOへの加盟を志向する親自由主義国家となった。
ロシアにしてみれば、衛星国待遇を続ける必然性がなくなった訳で、西欧諸国と同等の市場価格でエネルギーの提供を受けるべきというのは理に適った主張でもある。
なお、ウクライナは90年代にロシアからのガスについて、たびたび不払いと抜き取りを繰り返したという歴史もある。
今回は友好国のベラルーシに対しても、市場価格での供給に切り替えた点が注目される。
客観的に考えれば、EU向けが293ドルという時代に、ベラルーシが46.68ドルでの供給継続を要求するのは無理があると思われる。
また、国内パイプラインを通る他国の石油に輸出関税を課するのもおかしい。
EU側には、サハリン2問題や今回の問題で、石油を武器にするロシアの姿勢に対する反発と不安がある。
やり方は別として、ロシアの姿勢の背景には、それぞれ、理解できる点もある。
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ロシアは現在、天然ガスをウクライナやベラルーシを通るパイプラインでEU各国に供給しているが、既にモルドバやドイツなどでパイプライン権益を押さえており、ガスプロムはガスの生産会社から、欧州における配給会社にもなろうとしている。
2005年9月、ガスプロムとドイツの電力会社E.On、及びBASFの関連会社の3社は、ロシアからドイツに直接、天然ガスを供給する「バルト海パイプライン」(North European Gas Pipeline)を建設する契約文書に調印した。
サンクトペテルブルク北方のビポルクから独北東部グライフスバルトまで、バルト海海底約1200キロを結び、年間最大550億立方メートルの天然ガスを供給する。2010年の完成を目指す。
(Gazprom 51%/Eon 24.5%/BASF子会社Wintershall 24.5%)
この独ロ共同企業体の監査役会長はシュレーダー前独首相で、同氏は「欧州がエネルギーをロシアに依存する以上、友好的態度で接するほかはない」と述べている。
参考 ロシアの北西部原油・天然ガスパイプライン
緑線は原油、赤線は天然ガス(点線は計画)
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