公正取引委員会は1月31日、「企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針」の一部改正案を発表した。同日、自民党の委員会に示し、了承を得た。
今後、一般から意見を募集し、4月から実施する。
内容については、2006/12/19 「合併審査基準の公取委案」(1項目付記追加)と同じ。
指針の新旧対比は公取委ホームページ参照 http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.january/070131.pdf
問題の「地理的範囲」については、
「ある商品について,内外の需要者が内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には,日本において価格が引き上げられたとしても,日本の需要者が,海外の供給者にも当該商品の購入を代替し得るために,日本における価格引上げが妨げられることがあり得る。このような場合には,国境を越えて地理的範囲が画定されることとなる。」
としており、
① 制度上の障壁の程度、② 輸入に係る輸送費用の程度や流通上の問題の有無、③ 輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度、④ 海外の供給可能性、
の4つの状況を勘案して公取委が判断することとなる。
このうち、④については具体的な例を多数挙げている。下記 注(2) 参照。
また、需要者側の代替性だけでなく、供給者側の代替性(他の供給者からの新規供給)を考慮すること(注(1))、需要者からの競争圧力についても考慮するとしている。(注(4))
これまで当ブログで問題にしてきた石油化学製品のアジア各国の潜在的圧力について、具体例において公取委がどう判断するか、注目される。
(国内の過剰能力がある限り、需要家は輸入品を使わないが、メーカーは値下げを強いられる)
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以下、上記の公取委発表の説明資料(注の部分は指針より抜粋)
企業結合審査に関する独占禁止法の運用指針(企業結合ガイドライン)の見直し
~経済のグローバル化に対応した,企業結合審査の予見可能性・透明性・迅速性の向上~
【現行ガイドラインについての指摘】 : | ⇒ | 【指摘を踏まえた対応】 | |||||||
市場画定(商品の範囲・地理的範囲) | |||||||||
需要者側の代替性だけでなく,供給者側の代替性を考慮すべき。 | ⇒ |
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国際市場画定が可能であることを明確にすべき。 | ⇒ |
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競争を実質的に制限することとならない範囲(セーフハーバー) | |||||||||
過去の実績に照らし,セーフハーバーの範囲を見直すべき。 | ⇒ |
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競争の実質的制限のおそれの有無を判断する際の主な考慮要因 | |||||||||
輸入・参入の評価方法を明確にすべき。 | ⇒ |
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需要者からの競争圧力の評価方法を明確にすべき。 | ⇒ |
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効率性の評価方法を明確にすべき。 | ⇒ |
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問題解消措置については,企業の選択肢を拡大する観点から,構造的措置のみではなく, 柔軟な措置とすべきであり, それに併せ,措置の例示を追加すること, また,結合後の状況を踏まえて,問題解消措置の変更・終了があり得ることを明確にすべき。 |
⇒ |
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注
(!) 供給者にとっての代替性
当該商品及び地域について,小幅ではあるが,実質的かつ一時的ではない価格引上げがあった場合に,他の供給者が,多大な追加的費用やリスクを負うことなく,短期間(1年以内を目途)のうちに,別の商品又は地域から当該商品に製造・販売を転換する可能性の程度を考慮する。
「小幅ではあるが,実質的かつ一時的ではない価格引上げ」とは、通常,引上げの幅については5%から10%程度であり,期間については1年程度のものを指すが,この数値はあくまで目安であり,個々の事案ごとに検討されるものである。
(2)地理的範囲
ある商品について,内外の需要者が内外の供給者を差別することなく取引しているような場合には,日本において価格が引き上げられたとしても,日本の需要者が,海外の供給者にも当該商品の購入を代替し得るために,日本における価格引上げが妨げられることがあり得る。このような場合には,国境を越えて地理的範囲が画定されることとなる。
輸入圧力が十分働いているか否かについては,次の①~④のような輸入に係る状況をすべて検討の上,商品の価格が引き上げられた場合に,輸入の増加が一定の期間(おおむね2年以内を目安)に生じ,当事会社グループがある程度自由に価格等を左右することを妨げる要因となり得るか否かについて考慮する。
① 制度上の障壁の程度
関税その他の輸入に係る税制等の制度上の規制が存在し,それが今後とも障壁として作用するか否かを検討する。
② 輸入に係る輸送費用の程度や流通上の問題の有無
また,輸入に当たって,物流・貯蔵設備等,日本国内における流通・販売体制が整備されているかどうか
③ 輸入品と当事会社グループの商品の代替性の程度
品質差がある場合,輸入品の品揃えに問題がある場合,需要者の使い慣れの問題がある場合には,輸入品が選好されない可能性
(過去の実績も参考:当事会社の商品の価格が上昇した場合に,輸入品の販売数量が増加した実績があるなど)
④ 海外の供給可能性の程度
・海外の事業者が安い生産費用で十分な供給余力を有している場合
・海外製品の輸入や海外の事業者の日本向け輸出への具体的な計画がある場合
・海外に有力な競争者が存在し,現に相当程度,国内への供給を行っている場合
・近い将来にその事業者が国内に物流・販売拠点を設け,商品を供給する具体的な計画を有しており,その実現可能性が高い
・日本以外の市場へ当該商品を供給しているが,国内価格次第で日本へ仕向地を変更する蓋然性が高い海外事業者が存在
・国内価格次第で設備能力等の増強を行い日本への供給を行う蓋然性の高い海外事業者が存在する場合
・海外の有力な事業者が生産能力を増強する結果,海外での市場価格が下落し,国内製品との間に内外価格差が生じる場合
(3) HHI
ごく一部の主要事業者の市場シェアしか把握できない等の理由により,HHIの値が上に示した数値を超えるか否か判断できないような場合には,生産集中度調査から得られた関係式
(HHI=最上位企業の市場シェア(%)の2乗×0.75+上位3社累積市場シェア(%)×24.5-466.3)
を用いた推計値によって検討するものとする。
(4) 需要者からの競争圧力
需要者が,当事会社グループに対して,対抗的な交渉力を有している場合には,取引関係を通じて,当事会社グループがある程度自由に価格等を左右することをある程度妨げる要因となり得る。需要者側からの競争圧力が働いているか否かについては,次のような需要者と当事会社の取引関係等に係る状況を考慮する。
① 需要者の間の競争状況
需要者の商品の市場における競争が活発であるときには,需要者は,供給者からできるだけ低い価格で当該製品を購入しようとする場合もあると考えられる。
② 取引先変更の容易性
需要者が,ある供給者から他の供給者への供給先の切替えを行うことが容易であり,切替えの可能性を当該供給者に示すことによって価格交渉力が生じているときには,需要者からの競争圧力が働いていると考えられる。
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