米政府は2月2日、中国政府が世界貿易機構(WTO)が禁止している補助金を使っているとして同国をWTOに提訴した。
Susan C. Schwab米通商代表部(USTR)代表は記者会見で、中国が補助金の使用で不公平な競争条件をもたらすとともに、自らの消費主導による成長という目標を阻害しているとし、米国の企業と消費者に損害を与えているWTOルール違反のやり方にチャレンジするとした。
中国がWTO加盟後、市場開放と貿易手続きの改善に努力をしてきたこと、両国の貿易の拡大で共に利益を得てきたことは認めるものの、中国が約束を守らなければ、あらゆる手段を使って守らせると述べた。
米国の主張は以下の通り。
問題の補助金には2種類あり、一つは輸出補助で、中国進出の外国企業と中国側パートナーに対して米国その他向けの輸出のインセンティブを与えるものとなる。補助金のメリットは大きく、鉄鋼、木材製品、紙、その他、中国で製造される製品の全てに適用されている。外資系企業は輸出の60%を占める。
もう一つは中国製品購入を促すための減税制度で、中国企業に、米国品ではなく、国内製の機器や部品の購入を奨励するものである。
補助金制度は米国への中国品の輸出、中国での米国輸出業者へのフェアな競争の阻害を通じて、米国の製造業者とその従業員に不当な損害を与えている。
また、輸出主導ではなく内需主導で中国経済をバランスさせ、国内メーカーの効率を高めるという中国の政策にも反するものである。
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中国政府は鉄鋼など製造業への格安での土地払い下げ、自動車など輸出型企業への大型低利融資を実施してきた。
中国に進出している米国企業、日本企業などもこれらの恩典を受けている。(このため、この問題は中国に進出している日本企業にも今後影響を与える。)
米国で中国製品の輸入が増大し問題となったため、中国政府は昨年9月に、「産業構造を改善し、貿易の伸びを促進し、貿易収支の均衡を推し進めるため」、 輸出の際の増加税還付率を下げている。
2006/9/26 「中国、輸出増価税リベート変更」
しかし、米国の対中貿易は輸出の伸びが輸入の急拡大に追いつかず、年々赤字が膨らんでおり、民主党を中心に、不均衡是正を政府に迫る声が強まっている。
WTOルールでは二国間の協議で問題が解決しない場合には、パネル(小委員会)を設置することとなっている。
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これに対して中国商務部は、両国はこれらの問題について現在二国間協議を続けており、このような状況の中で米国がWTOに提訴を行ったことを中国は遺憾に感じていると述べた。
中国側は現在米国のパネル設置要請について検討している。
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USTRによると、米国は過去に2件でWTOに提訴し、1件で提訴直前に解決している。
第一は2004年3月に提訴したもので、輸入半導体に対し、製品輸出の際の増価税還付率を差別したものである。この問題は協議期間中に解決し、米国のメーカーは20億ドル以上の市場にアクセスできるようになった。
第二は自動車分野で輸入部品に差別的な課税をした問題で、昨年に米国、EU、カナダが提訴し、パネルを設置した。
第三は中国が米国、韓国、タイ、台湾からの輸入クラフト紙にダンピング税を課した問題で、米国政府がWTO提訴の意向を通知した直ぐ後に、中国が「クロ」の決定を取り消した。(注)
(注)2006/02/17 「中国の反ダンピング法の特例」でクラフト紙のダンピング課税取消について報じた。
その時点では、中国商務部は「ダンピング課税の決定を2006/1/9付けで取り消す」との簡単な発表を行っただけで、理由はあげられていない。
ブログでは 「長期間の調査の結果、クロと決定した直後に、決定を取り消し、かつ理由を明らかにしていないのは異例である。米国の大手企業が当事者であり、裏に政府間の交渉があったのかも知れない。」としたが、やはり、米国政府の圧力であった。
USTR では昨年2月14日に米中貿易政策の分析し、“U.S. - China Trade Relations: Entering a New Phase of Greater Accountability and Enforcement” として報告している。
http://www.ustr.gov/assets/Document_Library/Reports_Publications/2006/asset_upload_file921_8938.pdf
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