三菱ケミカルホールディングスは2月8日、機能材料事業の再編に関して発表した。
三菱化学が52.61%を保有する三菱樹脂をTOBを行って100%取得した上で、三菱ケミカルホールディングスに移管し、2008年4月1日付けで、同社、三菱化学ポリエステルフィルム、三菱化学産資、三菱化学エムケーブイ及び三菱化学の機能材料分野の事業も含めて、三菱ケミカルホールディングスの全額出資子会社として再編・統合する。
また、三菱化学は同日、アプコ(三菱化学エムケーブイ76%/三菱化学24%出資)を100%子会社にすると発表した。
この結果、三菱ケミカルホールディングスの体制は以下の通りとなる。
機能材料事業を行っているこれらの各社は、情報・エレクトロニクス、自動車、住宅・建築、土木、各種パッケージング、生活資材等幅広い分野の需要家のニーズに応えるべく、各種材料の加工技術や事業ノウハウをベースに開発・製品化した各種部材や商品あるいはサービスを提供している。
機能材料分野においては、樹脂をはじめとする各種材料の加工技術をベースに、異種素材複合化をはじめ、表面制御機能化、環境適合化等の技術開発力を高めるなど、需要家の課題を解決するために必要な「価値を複合化し形にして提供する」ための事業展開力を強化しているが、今後ますます多様化、高度化、複合化していくことが予想される需要家のニーズにより的確に応え続けていくためには、迅速な意思決定と柔軟かつ効率的な経営施策の実施を通じてグループシナジーの最大化を図ることにより、事業展開力・課題解決力をより一層強化していく必要と考えた。
冨澤龍一社長は次の通り語っている。
「需要業界のニーズは今後ますます多様化、高度化、複合化する見通しにあり、競争も激しくなる。引き続き安定成長を遂げていくには、子会社4社と三菱化学の機能材料部門の統合は不可欠と判断した。今後は幅広い範囲のユーザーのニーズに、より的確に対応していけることになる。今回の統合は、合理化を目的としたものではなく、あくまで将来大きく発展していくための布石だ。今後シナジーの最大化が図れるよう努力していきたい」
新社名は「三菱樹脂株式会社」とする予定で、従業員は約6,800人。売上高約3,880億円、営業利益約260億円規模となるが、冨澤社長は会見で「5年後には売上高5,000億円、営業利益500億円を達成したい」と語った。
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三菱樹脂は1943年に三菱化成が長浜工場(滋賀県長浜市)で合成ゴムの加工を開始したのが始まりで、1958年にゴム部門を閉鎖して合成樹脂商品の製造専業の長浜樹脂となり、1961年に上場、翌年三菱樹脂と改称した。
取扱商品は以下の通り。
包装物流資材(食品包装 一般包装 医療・衛生材料 物流資材)
ハイテクノロジー(工業材料 電子材料 産業資材 建築素材)
土木資材・ライフライン(土木資材 建築資材 建築設備 農業資材:塩ビ管ほか)
建設設備(建築素材 建築資材 建築設備 住宅素材 住宅資材)
環境資材
なお、三菱樹脂と積水化学は塩ビ管事業における業務提携に合意し、2002年4月に塩ビ管・継手の生産統括会社エムアンドエスパイプシステムズを設立した。出資比率は積水化学 51%/三菱樹脂 49%。
三菱化学ポリエステルフィルムの歴史は以下の通り。
1960 | 三菱化成の事業として滋賀県長浜市にてポリエステルフィルムダイアホイル(R)を生産開始 |
1962 | 三菱樹脂が本事業を継承 |
1975 | 三菱化成と三菱樹脂の合弁企業として、「ダイアホイル」が発足 |
1992 | ヘキスト社と提携し、世界3極体制を構築 日本:ダイアホイルヘキスト 長浜 35千トン 三菱化学 66.7%、ヘキスト 33.3% 米国:Hoechst Diafoil Co サウスキャロライナ州、グリア市 45千トン(2003年70千トンに) ダイアホイルフィルム(米国三菱化学)33.3%、HNA Holding 66.6% (現 Mitsubishi Polyester Film, LLC) ドイツ:Hoechst Diafoil GmbH ドイツ、ウィスバーデン市 35千トン(97年+20千トン) 三菱化学 33.3%、ヘキスト 66.7% (現 Mitsubishi Polyester Film GmbH ) |
1995 | インドネシアにPT Bakrie Diafoil を設立 ウェストジャワ州、メラク 5千トン(98年+20千トン) ダイアホイルヘキスト 95.4%、バクリー化成 4.6% (現 PT. MC Pet Film Indonesia) |
1998 | 日・欧・米のヘキスト社全持ち株を三菱化学が買収し「三菱化学ポリエステルフィルム」として世界事業を展開 |
三菱化学産資は1976年9月設立で、フレキシブルコンテナ、塗膜防水床材、盛土補強材、床暖房、融雪システム及び給水給湯システムを扱っていた。(当時は各社とも新規事業を始めていた)
三菱化学は、2000年4月に、中期計画における機能材料分野の展開方針に基づき、同社の機能資材カンパニー所管事業の内、下記事業を三菱化学産資に移管統合した。
アルミ・樹脂複合板、石炭ピッチ系炭素繊維、耐震補強炭素繊維シート、アルミナ繊維、透湿性フィルム、耐熱ラップフィルム
三菱化学エムケーブイ(MKV)の歴史は以下の通り。
1951年 | 三菱化成・四日市工場でPVC樹脂、名古屋加工部でPVCフィルムの製造をそれぞれ開始 |
1952年 | 三菱化成と米国モンサントカンパニーとの共同出資によりモンサント化成工業を設立 三菱化成のPVC事業を承継、PVCコンパウンドの製造を開始 |
1953年 | 可塑剤の製造を開始 |
1958年 | 社名を三菱モンサント化成に変更 |
1983年 | PVC関連事業を分離独立、三菱モンサント化成ビニルとして発足 残るPS事業は1990年に三菱化成に統合 |
1985年 | 三菱モンサント化成ビニル、三菱化成ビニルに変更 1986年菱日(水島のVCM会社・水島有機とPVC会社・ニッカケミカルが1972年合併)を統合 |
1994年 | 三菱化成ビニル、樹脂加工専業となり、三菱化学MKVに変更 |
1994年10月の三菱化成と三菱油化の合併による三菱化学誕生に伴い、PVCと可塑剤の事業を三菱化学に移管し、三菱化学MKVは農業用フィルム、フィルムシートなど塩ビの加工製品やコンパウンドの製造販売に特化することとなった。
アプコ
三菱化学MKVと住友ベークライトは、両社のPVCコンパウンド事業を再編・統合し、1999年10月にアプコ㈱を設立した。
三菱化学MKV 76%/住友ベークライト 24% の出資比率で、能力は前者が62千トン、後者が25千トンであった。
PVCコンパウンド事業を取り巻く環境は、国内需要の低迷等の影響により、年々その厳しさを増しており、将来にわたり事業の維持及び発展を図るためには、集約によって、より一層強固な事業基盤を構築し、競争力を強化することが必要不可欠であるとの認識で一致した。
2001年4月には、両社の塩ビ以外の機能性樹脂コンパウンドと東南アジアコンパウンド事業もアプコに統合した。
2006年10月、三菱化学は住友ベークライトからアプコの持株を買取り、三菱化学MKV 76%/三菱化学 24%として、実質三菱化学の100%子会社とした。
今回、名目的にも三菱化学の100%子会社とするもの。
同社は特に自動車向けを中心とした熱可塑性エラストマー事業については、米国製造拠点の能力倍増等、積極的に事業拡大を図っており、今回の施策を契機として、自動車分野をはじめ各種産業分野での塩ビ・機能性樹脂コンパウンド材料の強みを生かし、一層事業を拡大していくとともに、開発・製造・マーケティング等において、塩ビ・機能性樹脂コンパウンドの更に戦略的な事業運営を加速化させる。
なお、三菱化学MKVと三井化学プラテックは、2004年4月、農業資材事業を統合し、MKVプラテックを設立している。
出資比率:三菱化学MKV 75%/三井化学プラテック 25%
事業内容:農ビ、農PO、硬質フィルム、灌水資材など農業資材の製造・販売
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三菱化学の事業の中で、問題事業の一つがヴイテックのPVC事業である。
三菱化学 60%/東亞合成 40%の出資比率で2000年4月に設立したが、2004年3月に三菱化学 85.1%/東亞合成 14.9%に変更し、実質的に三菱化学の事業となっている。
同社は2005年12月末で142億円の累積損失を抱えており、2004年度に単年度黒字に転換したものの、PVC事業は中国の大増設で今後、業績悪化が懸念される。
このなかで、PVCの大需要家で、現在は他社からもPVCを購入している三菱樹脂を、三菱化学MKVとともに(持株会社の)100%子会社化することとなり、PVCの自給自足体制を取れることとなる。
三菱化学が今後PVC事業をどうするかが注目される。
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