カネボウ・トリニティ、社名をカネボウからクラシエに変更

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ホームプロダクツ、薬品、食品の3事業などを擁するカネボウ・トリニティ・ホールディングスグループは2月27日に、本年7月1日付けで商号及びコーポレート商標を「Kanebo」から「Kracie(クラシエ)」へ変更すると発表した。
「快適な楽しい“暮らしへ”」という願いを込めているという。

事業分野 新社名 現社名
管理・統括 クラシエホールディングス カネボウ・トリニティ・ホールディングス
ホームプロダクツ クラシエホームプロダクツ カネボウホームプロダクツ
クラシエホームプロダクツ販売 カネボウホームプロダクツ販売
薬品 クラシエ製薬 カネボウ 製薬
クラシエ薬品 カネボウ薬品
食品 クラシエフーズ カネボウフーズ
クラシエフーズ販売 カネボウフーズ販売
デザイン・マーケティング クラシエファッション研究所 カネボウIKSM研究所

産業再生機構の下でカネボウとカネボウ化粧品が花王と投資ファンド3社の連合に売却されたが、花王はカネボウ化粧品、ファンド3社はカネボウを引き受けることとなり、その際の取り決めで、「カネボウ」ブランドは2年経過後は化粧品のみが使うこととなっていた。

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カネボウ再建の歴史

カネボウは1887年、「東京綿商社」として創業、紡績所設立認可を得た。
1893年「鐘淵紡績株式会社」となった。太平洋戦争直前には国内企業売上高一位を誇り隆盛を極めた。

1949年に、非繊維事業を鐘淵化学工業(現・カネカ)として分離独立させている。
(1961年に鐘化から化粧品事業を、1971年には石鹸事業を買い戻している)

1968年、伊藤淳二氏が45歳で社長に就任、労使運命共同体論で労使協調路線を進めるとともに、「ペンタゴン経営」といわれる多角化路線を取った。
「ペンタゴン(五角形)経営」では繊維、化粧品、薬品、食品、住宅の5事業を均等に拡大し、多角化の成功例と賞賛された。

しかし二度の石油危機と円高不況で収益環境が悪化したが、ペンタゴンの生みの親の伊藤氏が不振事業の縮小を認めず、経営は悪化した。「収益力も事業特性も全く異なる事業群が混在したことで全体の競争力を失った」(再生機構)。

2004年3月期の同社の事業と売上高(億円)は以下の通り。
繊維  1,150 羊毛、合成繊維、ファッション
ホームプロダクツ   399 入浴剤、シャンプー
食品   465 冷菓、飲料、カップめん
薬品   187 漢方薬(漢方薬を除いた新薬事業すべてを1999年に日本オルガノンへ売却)
新素材等   228 電池、電子関連、人工皮革、ビデオ検査システム
化粧品  1,948  

2003年に伊藤名誉会長が退任して初めて、同社は不振のアクリル事業からの撤退を決めた。

 

更に、経営不振を補うため、「宇宙遊泳」と呼ばれる粉飾取引が行われた。

Kanebo3
カネボウは子会社のカネボウ合繊を通じて毛布原料のアクリルを興洋に売り、興洋は毛布にして商社に販売していた。
安価な中国製品に押され興洋の製品は競争力を失い、商社からの返品が増加した。カネボウは製品をいったん買い取って興洋に販売し、返品代金を興洋から手形で受け取っていたが、業績不振の興洋は現金支払いが滞り、多くが回収不能になった。
カネボウは2003年9月中間期までに流通在庫の損失も含め、計522億円の損失を蒙った。
しかし、カネボウは興洋に役員の半数近くを送り込んで実質的な子会社だったが、カネボウが14.5%出資するカネボウ物流が興洋に14%出資しているだけで、カネボウの連結対象にはなっていなかった。

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2005年7月、東京地検特捜部は、2003年3月期まで2年間の連結決算で総額約750億円の粉飾をしたとして、元社長、帆足隆容疑者ら元役員3人を証券取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の疑いで逮捕した。

2005年9月、東京地検特捜部は証券取引法違反有価証券報告書の虚偽記載の共犯容疑で中央青山監査法人の会計士4人を逮捕した。連結決算の新会計基準が始まる直前の99年、ダミー会社に株を移して赤字子会社を連結対象から外す粉飾方法をカネボウ側に具体的に指南していたことが分かった。

なお、一連の粉飾決算が上場廃止基準に該当するとし、カネボウ株は2005年6月13日に上場廃止となった。

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2003年、同社は事業構造改革計画を作成した。

・2004年3月末までに化粧品事業を分離し新会社を設立。
  花王が49%を出資、2007年3月末をメドに花王の同事業と統合
・2006年3月末までにグループ従業員の2割にあたる2,800人を削減し、全従業員を12,000人に
・320億円を投じ、ナイロンの生産縮小や不採算事業から撤退で合繊事業の収益力を強化
・「フィラ」「ランバン」を除くアパレルブランドの縮小
・シャンプーなど家庭用品のブランド再構築。薬品、食品事業のスリム化

カネボウと花王は200310月、両社の化粧品事業を統合すると発表した。
カネボウは多額の有利子負債を抱え経営難に陥っているうえ、2003年9月中間期も400億円の事業構造改革に伴う特別損失の計上などで約630億円の債務超過となる。花王から630億円以上の出資を受け、これ相当の売却益で債務超過を解消するという予定であった。

2004年1月、花王は方針を変更し、カネボウの化粧品事業を完全買収することとした。
交渉過程で企業文化の違いが浮上したことなどから方針を転換した。買収にかかる金額は4千億円以上になる見通し。
この時点で花王は「カネボウ」ブランドを化粧品以外には使用しないことを求め、カネボウ側は「他の事業はつぶせというのか」と不信感を持ったと伝えられた。

この花王の計画に対抗して、国内大手投資ファンドのユニゾン・キャビタルがカネボウに、化粧品事業の買収・新会社設立を提案した。
また、花王によるカネボウの化粧品事業買収に、カネボウの労働組合が反対
を表明した。

2004年2月、カネボウは花王への化粧品事業売却を白紙撤回し、産業再生機構に支援を要請することを決めた。
収益源の化粧品事業を手放した後、生活用品など残る事業だけでは再建の見通しが立たないと判断したもの。
とりあえず、化粧品事業に機構の支援を受け、追って、本体にも支援を要請する。

Kanebonew_1

2004年3月、産業再生機構は政策決定機関である再生委員会を開き、カネボウ再建の具体策を協議した。

 ・本体から分離する化粧品新会社を出資と債権買い取りで計3,800億円支援、出資比率を86%とする案。
 ・繊維事業など本体もカネボウから支援要請を受けた。

 

5月、化粧品会社の詳細が決定した。
 社名:「カネボウ化粧品」
 資本金:1千億円
 出資:再生機構86%/カネボウ14%(カネボウの連結から除外)
 再生機構拠出額:3,660億円(出資860億円+貸付金2,800億円)

  *2004年12月、貸付金のうち1,500億円を優先株(15百万株)に転換
 

6月、カネボウと再生機構はカネボウ本体の再建策を決定した。
同社は構造改善費用の拡大(3,343億円)で2004年3月期末で3,553億円の連結債務超過に陥った。

・取引金融機関に対し995億円の債権放棄を要請
 株主に対し99.7%の減資を実施
 主力行の三井住友銀行が300億円の出資(議決権なし)
 再生機構が50%超の議決権で200億円出資

・今後3年間で全社員の4割弱に当たる1,800人の人員削減

・事業整理
 主対象は繊維部門
  天然繊維は長浜、大垣両工場を売却・閉鎖し完全撤退
  合成繊維もナイロンを大幅に縮小し防府工場を売却もしくは閉鎖。
 食品はカップめん、飲料から撤退

この後、下記の事業分類基準に従って、順次事業整理が行われた。

    売却先
第一分類 事業性があり今後コアとなる可能性が高い
・ホームプロダクツ(シャンプーなど)  
・薬品  
・食品(菓子など)  
・ファッション 海外衣料ブランド:ロレアル、モルガン・スタンレー連合
繊維委託加工
あつみファッション
第ニ分類 事業性はあるがコアになるか見極めが必要
・合繊(ナイロン、ポリエステルなど) 合繊事業:KBセーレン(セーレン51%/カネボウ49%)
       →将来、セーレン100%
樹脂事業(機能性及びAペットシート):三菱化学
・紙パック飲料 チルド飲料:アサヒビール
第三分類 事業性を精査し、継続・売却・清算を判断
・食品(冷菓)
・カネボウ物流
継続する事業
(1)カネボウフーズで行なう冷菓事業
(2)カネボウ物流の事業
(3)婦人インナー部門のオリジナルブランド事業
第四分類 売却先を探し見つからない場合は清算
・食品(カップめん・飲料) カップめん:加ト吉
缶入り飲料:清算
・天然繊維 国内羊毛事業(大垣工場):三甲
・合繊(防府工場関連、海外) ラクトロン(防府工場生分解性繊維:東レ
海外:撤退
・新素材 電子関連:シキノハイテック
人工皮革「ベルエース」
倉本製作所
テキストグラス(
ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維):日東紡績
ベルパール事業(機能性高分子フェノール樹脂、ニューカーボン、PSA):エア・ウォーター
・電池 電池事業:昭栄エレクトロニクス
その他 医用材料事業:睦化学工業
カネボウ化成が行う建材事業:岩尾株式会社
カネボウ化成及び室町化学が行う化成品事業:富士ケミカル商事
室町化学が行うスリングベルト製品事業:日東物産
カネボウ合繊の新規市場開発事業:帝人ファイバー

カネボウベルタッチ(両ファスナー):伸和
半導体(先端ASIC、中級マイコン機種)の最終検査:カネボウ菊池電子のMBO

 

機構は2004年5月にカネボウとカネボウ化粧品を別途に再建することを決めたが、1年で「一体再生」へ方針転換した。

2005年6月、カネボウはカネボウ化粧品が200億円の増資を引き受け、カネボウの議決権の37.9%を持つことを決めた。
Kanebo1_2

2005年12月、再生機構は入札の結果、カネボウとカネボウ化粧品を、花王とアドバンテッジパートナーズ、MKSパートナーズ、ユニゾン・キャピタルの国内投資フアンド3社の連合に売却すると正式発表した。(文末参照)
2006年1月末に機構が保有する株式と債権を花王側に譲渡し、再生機構は投入した資金を回収し、200億円前後の利益を得た。

花王はカネボウ化粧品を取得し、完全子会社として自らの化粧品事業との相乗効果を狙う。
   ・花王がカネボウ化粧品の株式のうち再生機構が保有する86%と本体保有分の14%を2,790億円で取得
     機構   普通株式 86百万株(86%)+無議決権株式 15百万株 計 2,634億円
     カネボウ 普通株式 14百万株(14%) 156億円
   ・花王がカネボウ化粧品から
ブランドなど知的財産権1,480億円で取得
     
「カネボウ」ブランドはカネボウ化粧品だけが使えるようにするが、2年間はカネボウにも使用を認める。
    (現金・現金同等物を除き合計約
4,100億円で買収)
   ・2006/2にカネボウ化粧品は所有するカネボウ株式 62.5百万株(37.9%)をトリニティに売却

カネボウ本体は3ファンドが出資するトリニティ・インベストメントが取得し、再上場も視野に再生を進める。
  ・国内3ファンドが「トリニティ・インベストメント」を通じ、カネボウ本体株のうち再生機構が保有する32.11
%を取得
  ・カネボウ化粧品が保有する本体株37.9%も花王から譲渡を受け、持ち株比率を70.25%にする
  ・
ファンドは本体株の29.75%を保有する一般株主に対しTOB公開買い付けを実施
Kanebo2_1

結局、紆余曲折のうえ、2004年2月にカネボウが白紙撤回した花王への化粧品事業売却案の通りとなった。

但し、旧「カネボウ」に関しては、問題はまだ解決していない。

トリニティ・インベストメントは一般株主に対してTOBを行ったが、TOB価格が上場廃止時の360円から大きく乖離し162円という想定外の安値である上、算定方式や手続きに問題があった。このため、株主は反発し、適正な株式買い取り価格の決定を求める民事訴訟を東京地裁に起こしている。
トリニティ・インベストメントはTOBでカネボウの100%株主になる予定であったが、現在、議決権ベースで83%に留まっている。

2006年5月、トリニティ・ホールディングスは日用品、薬品、食品の3事業をカネボウから切り離し、「カネボウ・トリニティ・ホールディングス(新カネボウ)」の100%子会社にしたが、3事業の譲渡代金425億円はカネボウには支払われていない。

2006年末、カネボウの個人株主約500人が同社の再建手法は違法だとして、取締役5人を会社法の特別背任罪で東京地検に告発した。

参考 カネボウ個人株主の権利を守る会 公式サイト
     
http://www.geocities.jp/tob_kanebo/index.htm

ーーー

2005/12/16 産業再生機構 発表

産業再生機構は、産業再生委員会の決定を経て、下記の対象事業者にかかる株式及び債権の譲渡等を決定しました。これにより、機構が対象事業者に対して持つ債権その他は一切なくなります。

出資額等
機構は、カネボウ化粧品に対し、86,000百万円の現金出資により、議決権割合の86%に当たる普通株式を取得していたほか、額面合計150,000百万円の債権の現物出資(DES)により、カネボウ化粧品が発行するA種優先株式の全てを取得していました。
また、カネボウに対しては、10,000百万円の現金出資及び、額面合計10,000百万円の債権の現物出資(DES)により、議決権割合の32.11%に当たるC種類株式を取得していました。
今般、機構がカネボウ化粧品及びカネボウに対して保有する株式の全てを譲渡するものです。

債権額等
機構は、カネボウ化粧品に対する元本150百万円の債権をカネボウから1円で買取り、事業再生計画に沿って債権放棄(150百万円)を行いました。その後、化粧品事業の譲受に伴い280,000百万円の新規融資を実行し、前述の150,000百万円の現物出資(DES)を行った後の130,000百万円の債権に関し、事業収益等による一部弁済を受けておりましたが、今般クロージング時点で残存する全額について額面で譲渡等を行うこととしました。
また、機構は、カネボウに対する元本103,821百万円の債権を金融機関等から47,235百万円で買取り、事業再生計画に沿って66,543百万円の金融支援(債権放棄56,543百万円、DES10,000百万円)を行った後、残った37,278百万円の債権に関し、事業売却・資産処分等により一部弁済を受けておりましたが、今般クロージング時点で残存する全額について額面で譲渡等を行うこととしました。

注 売却価格は「守秘義務に当たる」として公表しなかった。

付記

産業再生機構は32日、最後の支援先として残っていたスカイネットアジア航空の支援を終了した、と発表した。

同機構が03年発足以降に手がけた41件の支援はすべて終わり、法律で決められた解散期限より1年早く、今年3月中に解散することになる。
06年3月末時点で178億円の剰余金があり、さらに06年度にもダイエー株式の売却益などが上積みされるため、国民負担は生じない。解散時に残った財産は、国庫と出資者である預金保険機構、農林中金に分配される。

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