海外の各社のAnnual Report が順次発表されている。
DuPont の部門別営業損益(PTOI=pre-tax operating income)で不思議なことを見つけた。
DuPontは2001年10月に医薬部門をBristol-Myers Squibb に78億ドルで売却している。
しかし部門別PTOI (特別損益を除く)で「医薬部門」で多額の益が出ている。(単位:百万ドル)
1999 | 2000 | 2001 | 2002 | 2003 | 2004 | 2005 | 2006 |
263 | 133 | 58 | 468 | 548 | 681 | 751 | 819 |
* Textiles & Interiors 部門のINVISTA は2004年にKoch Industries に売却
DuPont は1950年代終りから医薬品開発に注力したが、新規製品の登録取得・販売の能力がなかった。
1969年にEndo Laboratories を買収して血液溶剤Coumadin(R)を上市したが、業績には寄与しなかった。
1991年にMerck との50/50JVのDuPont Merck Pharmaceutical を設立し、勢いがついた。パーキンソン病の薬Sinemet(R)、心臓画像診断剤Cardiolite(R)、抗高血圧薬のCozaar(R)、Cozaar とチアジド系利尿剤 との合剤 Hyzaar(R)などが上市された。
Cozaar と Hyzaar はMerckで販売された。
1998年にDuPont はDuPont MerckのMerck 持分を買収し、同社をDuPont Pharmaceuticals と改称した。その後、ヒト免疫不全ウィルス(HIV)用の薬としてSustiva (R) が上市された。
しかし、DuPont の力をもっても医薬事業で生き抜くのは難しかった。
1999年から2000年に営業利益が半減しているが、これは販売減と、研究開発費・販売費の増大によるものである。
2001年、同社は世界の事業の構造改革を実施した。4月に競争力を失ってきたポリエステルおよびナイロン工場の閉鎖を発表、3カ月後にはポリエステル事業の一部を売却した。
同年6月、DuPont Pharmaceuticals をBristol-Myers Squibbに売却するという決断をした。医薬品事業に必要な巨額投資は、同社にとっても、あまりにリスキーだったからである。
売却額は78億ドルで、税引き後利益は38億6,600万ドルである。
但し、条件として、Cozaar と Hyzaar の権利は DuPont が維持し、Merckにライセンスした。
現在の「医薬部門」の利益はこの特許料である。
多額の研究開発費・販売費を投じて事業を続けるよりも、過去の成功品のライセンス料の方がはるかに利益が大きいという実態は、医薬事業の難しさを表している。
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