Monsantoは昨年8月に米国第1位の棉種子会社Delta and Pine Land Company (Delta)を現金15億ドルで買収することで合意し、その後、独禁法問題で司法省と交渉を続けていたが、5月31日、米国の棉種子事業の一部を切り離すことで合意に達したと発表した。
Monsanto とDelta は、アメリカの棉の種子市場で合わせて50%以上のシェアを持つ。Delta は中国、インド、ブラジル、メキシコ、トルコ、パキスタンなどの主要な市場を含む13カ国に関連会社を持つ。
買収の条件としてMonsanto は以下の事業を処分する。
・Stoneville ブランドの棉種子と関連資産をBayer CropScience に310百万ドルで売却
・NexGen ブランドの棉種子と関連資産をAmericot に売却
・その他
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実は、Monsanto は1999年にDelta を18億ドルで買収することで合意した。しかし、この買収は2つの大問題を抱えていた。
第一は独禁法問題で、第二がDelta の持つTerminator 技術の問題であった。
この技術はDelta と米国農務省が共同で開発し、1998年3月にDelta が 「植物遺伝子の発現制御」という名で米国特許を取得した。
種子を死滅させる毒性タンパクを作る遺伝子を組み込むことにより、1回目の発芽の時はその毒素遺伝子にカギがかけられ種子は収穫できるが、2回目の発芽の際には種子が死滅する。
一世代限りの種子で、農家は農作物を自家採種できなくなる。
環境保護団体がその危険性からTerminator 技術と名付けた。
農民や市民団体、多数の国の政府の反対にもかかわらず、Delta はこの技術の世界中での商業化を主張していた。
MonsantoによるDelta 買収で批判がMonsanto に集中した。
この結果、当時のMonsanto の CEOのRobert Shapiro はこの技術の商業化は行わないと約束した。
1999年10月4日付けで、Rockefeller Foundation会長(Monsanto役員)及びその他宛てとしてOpen Letter を出した。
I am writing to let you know that we are making a public commitment not to commercialize sterile seed technologies, such as the one dubbed "Terminator." We are doing this based on input from you and a wide range of other experts and stakeholders, including our very important grower constituency.
今回買収する予定のDeltaの技術は開発段階であり、商業化するとしても最低5年はかかり、商業化できるかどうかも分からない。
Monsanto は不妊種子技術以外の遺伝子操作技術を持っているが、遺伝子保護や農業上の利便のために将来これらを利用することはあり得る。
各方面の意見は十分聞きたい。問題点が完全に明らかにされ、提起された懸念に公に対応するまではgene protection technology を商業化しないことを約束する。
しかし、第一の問題の司法省による独禁法の審査が大幅に遅れ、結局、Monsanto は 1999年12月に買収を断念している。
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今回の買収で Monsanto はこの技術を棉に関しては商業化する模様である。
同社は毎年「公約」を発表しているが、2005年のMonsanto Pledge Report では以下の通り1999年の公約の内容を修正している。
1999年に農務省と種子会社が開発している不妊種子技術に関して懸念の声が上がった。
これに対してMonsantoでは 「食料作物に対しては」 不妊種子技術を商業化しないと公約した。
この公約は今も有効だが、Monsantoでは技術の発展に応じて絶えずこのスタンスを評価し直している。
Monsanto は将来この技術を使用する可能性を否定しない。常にケースバイケースでリスクとベネフィットの検討を続ける。
http://www.monsanto.com/monsanto/content/media/pubs/2005/focus_impacts.pdf(1999/10の公約では 「食料作物に対しては」 という限定はついていない)
* バックナンバー、総合目次は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm
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