インド国立海洋技術研究所は佐賀大学の技術協力でインドの沿岸に建設していた海洋温度差発電(OTEC)の実証プラントを利用し、1日千トンの淡水を製造する海水淡水化装置の稼働実験に成功した。
温かい表層水を低圧下で蒸発させ、深さ約500mの海から汲み上げた温度の低い深層水で冷却し淡水化する仕組み。
表層水と深層水の約15度の温度差を利用する。
インド南東部チェンナイ沿岸の海上プラントで、4月13ー16日にOTECの熱交換器を利用して連続運転試験を行い、計4,000トンの淡水化に成功した。
同研究所と佐賀大学海洋エネルギー研究センターは、佐賀大学の開発した技術で千キロワットの海洋温度差発電(OTEC)の実証設備を建設したが、実験は取水管トラブルなどがあって難航していた。
淡水化だけならば水温差やポンプの動力が小さくても可能で、深層水をくみ上げる取水管も短くて済むため、発電実験の前に施設を改造し、淡水化実験に成功したもの。
同研究所は「同タイプで10倍の処理能力を持つ新しいプラントを1年以内に建設したい」としている。
OTECが完成すれば、OTECで使用する表層水、深層水を再利用できる。
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佐賀大学の海洋温度差発電( Ocean Thermal Energy Conversion, 通称 OTEC)はウエハラサイクルと呼ばれ、1994年に元佐賀大学学長の上原春男教授が発明した。
蒸発器、凝縮器、タービン、発電機、ポンプがパイプで連結され、作動流体としてアンモニア/水の混合物質が封入されている。
これが液体の状態でポンプによって蒸発器に送られ、そこで、表層の温海水によって加熱されて、蒸発し、蒸気となる。
蒸気は、タービンを通過することによって、タービンと発電機を回転させて発電する。
タービンを出た蒸気は、凝縮器で約600~1000mの深層より汲み上げられた冷海水によって冷却され、再び液体になる。
これを繰り返す。
1970年代のOTECプラントではランキンサイクルと呼ばれる、媒体に純アンモニアを用いた発電方式で行なわれていたが、熱交換器の性能が悪く、経済性を満足するまでには至らなかった。
ランキンサイクルは1850年代に英国の William John Macquorn Rankine が開発したもの。
ウエハラサイクルはランキンサイクルと比べ、サイクル熱効率は1.5~2倍で、必要海水流量は50%程度、設備費は60~70%で済み、正味出力(所要動力を除いた利用可能な電力)はランキンの約55%に対して約80~85%となっている。
佐賀大学によると、日本の経済水域での海洋温度差エネルギーの総量は、試算によると1年間に1014kWhになる。これは石油に換算すると約86億トンに相当し、2000年に日本が必要とするエネルギーの約15倍に相当する。
仮に、日本経済水域内の温度差エネルギーの1%を利用するとすると、年間8600万トンの石油を節約できることになる。
10万キロ・ワット級の発電装置を作れば、火力発電より安くなるとの試算もあるとのこと。
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佐賀大学が保有する海洋温度差発電技術の国有特許の専用実施権は㈱ゼネシスが取得している。
同社は旧称里見産業で、伝統技術と最新のFA化技術を融合させた新酒造システムを開発、製造販売をしていたが、創業者が上原春男教授の考え方に感銘を受け、研究開発に参画した。
主要事業は、海洋温度差発電、海水淡水化装置、排水熱温度差発電、温泉水温度差発電(STEC)・その他となっている。
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