信越化学は5月30日、100%子会社のShintechが、電解工場とVCM工場をテキサス州に建設するために同州の環境庁に許可申請を行なったと発表した。
工場能力は電解が苛性ソーダ550千トン、塩素500千トン、VCMが825千トン。
Shintech の能力は以下の通りとなる。(単位:千トン)
立地 | PVC | VCM | 塩素 | |||
Texas州 | Freeport | 1,450 | - | - | VCMは 隣接のDowから購入 | |
今回発表の計画 | 825 | 500 | Dow品VCM代替 | |||
Louisiana州 | Convent | (計画→中止) | (500) | (500) | (250) | 反対運動で中止 |
Addis | 上記代替 | 590 | - | - | VCMは 隣接のDowから購入 | |
Plaquemine | 建設中 | 600 | 750 | 450 | 一貫生産 | |
Addis | (買収→廃棄) | (270) | - | - | Bordenから購入、廃棄 | |
合計 | 2,640 | 1,575 | 950 |
Shintechは1973年に信越化学とRobintech との合弁会社として設立され、Dowのコンビナートに隣接して工場を建設した。
信越化学のニカラグアJVのポリカサ(その後撤退)ヘの原料VCM交渉を通じてDow との交流が深まり、同社関係者から信越自身の米国でのPVC企業化を勧められていたことが背景にある。
その後、Robintechが撤退し、Shintechは信越化学の100%子会社となった。
Shintechの特徴はダウとの提携であった。
ダウはエチレンと電解~VCM事業、シンテックはPVC事業に専従して共存共栄体制をとり、VCM価格の決定にはPVC価格を反映させている。
PVC価格が暴落した場合は値下がり損の半分をVCM価格引下げでダウが負担、逆にPVC価格が上がれば値上がり分の半分がVCM価格に反映されるというものである。
しかし、信越化学は1996年に Louisiana州 ConventにShintechの第二工場建設を決めたが、電解~VCM~PVCの一貫体制を考えた。
この時点で第二工場に関しては(原料のエチレンは別として)Dow からの離別を考えたと言える。
しかし、この計画は環境保護団体グリーンピースが「ダイオキシンが発生する塩ビ工場を黒人住民の多い地域に建設するのは人種差別」と攻撃して難航し、結局、1998年になり信越は立地をAddisに変更し、一貫生産を棚上げしてPVC 59万トンのみの生産とした。
ここにはDowの工場があり、第一工場と同じく、Dowから原料供給を受けるかたちとなった。
2004年12月、信越化学は新計画を発表した。
Louisiana 州 Plaquemine に総額10億ドルをかけて塩素 45万トン、VCM 75万トン、PVC 60万トンの一貫生産を行うというものである。
前回と異なり、地域を挙げての大歓迎であった。
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今回の発表は第一工場であるTexas州Freeportに電解とVCM工場を建設するものである。
同工場のPVC能力 1,450千トンに対してVCMは825千トンで、従来 Dow から供給を受けていたVCMのうち、57%分を自製に代えることとなるが、塩素能力から見ると、将来的に70%程度を自製のVCMで賄うこととなると見られる。
Plaquemine 工場の場合は、増分のPVC用原料を自社供給するものであるが、今回はこれまでDowに依存していた分を置き換えることとなる。
Dow との共存共栄関係は崩れたのだろうか。信越化学とDowの関係が変わりつつのは確かであろう。
DowはShintechの第3工場(Plaquemine の原料一貫工場)発表の直前の2004年11月に、テキサス工場のEDCプラント1系列を2005年末までに停止し、VCMの生産も縮小すると発表した。
今後の設備の維持更新費が多額となるのに加え、エネルギー・原料価格の高騰に伴い、採算が合わなくなったためと説明している。
同社は昨年8月には、カナダの電解、EDCプラント停止を発表している。27年間経過したプラントを今後長期間維持するためには多額の投資が必要で、現在の想定収益性ではこれを認められないのが理由。
2006/9/7 ダウ、3工場の7プラント閉鎖
同社は基礎部門の採算改善のため、”Asset light" 戦略を進めているが、VCM事業は注力すべき事業ではなくなっているようだ。
信越化学は今回の発表で以下の通り述べている。
シンテック社は(中略)トップメーカーとして北米を中心に全世界の塩ビ市場で確固たる地位を築いてきた。その間、塩ビの原料であるモノマーは、主にダウケミカル社から購入してきた。ダウケミカル社は、長年にわたり信頼できる優れたサプライヤーであり、現在でもシンテック社にとって最も重要なサプライヤーである。
シンテック社は、世界で成長を続けている規模の大きな塩ビ市場の伸びを確実にとらえていく戦略を継続的に進めている。そのため、シンテック社は、かねてから原料であるモノマーの調達への関与を深め、モノマーを必要とする時にいつでも増産できる、原料からの一貫生産を検討していた。実際、ルイジアナ州で塩ビの一貫生産工場の建設を2年半前に決定、目下、その工場の建設が進行中。更なる一貫生産を進めることは、シンテック社がモノマーを長期的に調達する計画の核になる。
参考 2006/5/16 世界一の塩ビ会社 信越化学
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