中国、労働契約法を可決

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中国の国会に相当する全国人民代表大会(全人代)の常務委員会で6月29日、労働者の解雇を制限する「労働契約法」が可決、成立した。2008年1月1日から施行される。

事実上、労使間で「終身雇用」契約を結ぶよう求め、違反した雇用者の賠償金支払いを義務付けた。中国が労働者保護に力点を置く姿勢を鮮明にした。

常務委員会では本法を出稼ぎ労働者への虐待(強制労働、給料未払い、不当解雇など)への防波堤としている。

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常務委は1995年に施行された労働法を補完する目的で2005年末から同法案の審議を始めた。

政府首脳は出稼ぎ労働者問題が社会的不安や暴力事件の多発の原因になっているのを懸念した。.

素案では臨時労働者の雇用を厳しく制限したり、レイオフには組合の承認取得を必要とするなど、今回の案よりも厳しいものであった。

このため、多国籍企業などは、労務費が上昇し、雇用の弾力性がなくなるなどとして強く反対し、施行されれば中国から逃げ出すしかないなどの主張も行われた。

低賃金での酷使や賃金未払いが顕著とされる中国企業の反発は続き、当初は採決を危ぶむ声もあった。

2週間前に、中国各地で拉致・誘拐されたり、巧みにだまされて河南省鄭州に集められた1千人以上の少年が、山西省臨汾市周辺の違法れんが焼き工場で奴隷のように強制労働させられた上に虐待を受けており、地方の共産党がこれを止めることをしなかったことが明らかになり、国中にショックを与えた。

同事件が問題化したことを受け、6月15日に温家宝首相らが徹底解明を指示した。
救出・解放された少年を含む出稼ぎ労働者は5万人を超える強制労働者のうち1%に満たず、当局が再検査したれんが焼き工場のうち、約2/3に当たる2,036カ所が無許可営業で、違法に農民工53,026人を長期間にわたって強制労働させていたことが判明した。
誘拐された少年たちは1人500元(約7500円)で人身売買され、大部分が食事も十分に与えられないまま1日15時間以上の労働を強いられていた。最年少は8歳で、知的障害者も含まれていた。中国メディアは「奴隷工場」と表現している。

闇れんが焼き工場は過去10年間、山西省だけでなく、河北省定州、河南省武陟、山東省臨清、広東省恵州に至るまで全国各地に広がっており、山西省特有の事情とはいえない全国規模のものである。

違法なれんが焼き工場での未成年の強制労働に対して見て見ぬふりをしてきた地元政府の腐敗、汚職構造が浮かび上がってきた。
労働保障部は22日、「少数の地方幹部らが違法れんが焼き工場の生産活動に関与して職権乱用による不法利益をむさぼっている」と闇れんが工場経営者と地方幹部が結託して人身売買、強制労働を行っていたことをついに認めた。

この問題により、常務委の雰囲気が一挙に変わった。
「北京五輪を前に不当な雇用環境を速やかに改善すべきだ」、「国際的な批判もあり、採決を急がねばならない」などの意見が相次ぎ、可決された。
146票のうち、145票の賛成で、棄権が1票であった。.

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具体的な条文は発表されておらず、要約のみが発表された。主な内容は次の通り。

労働契約は雇用開始後1ヵ月以内に書面化しなければならない。
企業側が雇用開始の1年以内に書面にサインしない場合は、終身雇用契約を締結したとみなされる。
   
企業はレイオフの場合、組合と相談しなければならない。
 (素案ではレイオフに際して組合に認めるか拒否するかの権利を与えるとなっていた)

注 中国では労働組合は 共産党の独占の中華全国総工会All-China Federation of Trade Unions)の支部で、私的な組合は認められていない。

「試用期間契約」を制限する。また、退職金支払を義務付け、首切りの条件を厳しくする。 
 (素案では、「臨時労働者の勤務が1年を超えれば直接雇用とする」となっていた。)
   
経営者は従業員に超過勤務を強制できず、従業員は暴力、脅し、個人の自由の制限などにより働かされた場合、事前通知なしに雇用契約を破棄できる。
   
10年以上勤続するか、期限付き労働契約を2期連続で結んだ労働者は、終身雇用に切り替えなければならない。
違反した場合、違反期間は2倍の月給を支払わねばならない。
  
   
組合(中華全国総工会の企業支部)や従業員の代表の委員会に、給与、ボーナス、訓練、その他雇用に伴う権利と義務に関して、企業と交渉する権利を与える。
(従来は従業員は給与に関しては個人的に交渉するしかなかった。組合は賃金や便益のレベルについてはほとんど関与していない)
   
報酬の支払いに遅延・不足があった場合、労働者は現地の人民法院(裁判所)に強制執行を求められる。
   
公務員は権限を濫用したり義務を怠って労働者の権利を著しく害した場合、行政罰、刑事罰を受ける。

 

常務委の副委員長は、外資の懸念に対して、不法な雇用をしていない企業はコストアップの心配はなく、また、外資が不当に差別されることはないとしている。

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華南地域などで大量の出稼ぎ労働者を雇用する台湾系や日系の輸出型企業は、生産量が多いときに1カ月単位で短期の派遣労働を使っているが、これが難しくなり、事業戦略全体を見直す必要も出てくると思われる。

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