本年6月に、中国のPVCの輸出が急拡大しており、近いうちに輸出量が追い抜き、中国がネット輸出国になるのは間違いないと述べた。
2007/6/5 中国のPVC輸出急拡大
その後、事態は大きく変わった。4月に88,095トンとなった輸出は、5月 65,351トン、6月 46,159トン、7月 45,733トンと減少に転じた。
特に、インド向けが激減し、4月の48千トンが、7月には6千トンとなっている。
(代わって、4月に3千トンに過ぎなかったロシア向けが12千トンに増えている)
輸出減少の主な理由は輸出増値税還付率の引き下げである。
中国政府は6月18日に「一部商品の輸出増値税還付率の引き下げに関する通知」を発表した。7月1日から実施されるが、製品によっては前倒しで実施されると伝えられた。
2007/6/28 中国、輸出抑制のため輸出増価税還付率を引き下げ
中国国内ではPVCやVCMの取引には17%の増価税(付加価値税)がかかる。
国内メーカーは原料の購入時に取引価額の17%の増価税を含めて支払うが、PVC販売時に販売価額の17%を含めて需要家に請求し、徴収増価税と支払増価税の差額を納付する。メーカーの損益には直接影響はない。
しかし、輸出の場合は異なる。
輸出の際には増価税はかからない。但し、製品(or 原料)の購入時に支払った増価税分はその内の一部しか還付されない。
PVCなど合成樹脂の場合は、これまでは11%相当が還付されたが、今回これが5%に引き下げられた。
このため、輸出業者は引き下げられた6%相当分が負担増となる。
例えば(単純化すれば)VCMを800$で購入してPVCを生産し、輸出する場合、800$x6% の48$が追加負担となる。
カーバイド法のPVCメーカーも原料や用役の購入金額の6%分がコスト増となる。
薄利の輸出取引でこれをメーカーが負担するのは難しく、値上げするしかないが、中国の需給バランス悪化でインドや中近東に輸出先を求める韓国や台湾のメーカーに加え、米国の塩ビ需要の減少で輸出に注力している米国メーカーとの競争の下で、このコスト増を値上げで転嫁するのは非常に困難で、これが輸出減少の原因と思われる。
ーーー
インド向け輸出の減少にはインドによるアンチダンピング調査の影響が大きい。
インド政府は昨年6月28日に、台湾、中国、インドネシア、韓国、マレーシア、タイ、米国からの輸入PVC(サスペンジョン品)に関してアンチダンピング調査の開始を発表した。
Indian Petrochemicals、Dhargandhra Chemical & Works、Chemplast Sanmar、DCM Shriram Consolidated の4社の申請を受けたもの。
上のグラフで昨年の第4四半期に急減しているのは、このためにインド向け(及びトルコ向け)輸出が激減したことが響いている。
一時はインドで品不足になったと伝えられ、本年1~4月のインド向け輸出は復活していたが、再度激減した。
トルコは昨年、320ドル/tのアンチダンピング保証金を課しており、本年に入っても輸出は復活していない。
二大輸出先のインドとトルコのアンチダンピング調査の影響を受けた中国のクロルアルカリ協会では、容易に諦める訳にはいかないとして、これに対抗することを決めている。
インド向けでは該当する12の輸出メーカーのうち、11社が争う姿勢を示している。
同時にインドだけでは十分な量を供給できないとするインドの加工業界とも連携を深めている。
特にインドの場合は、中国を「非市場経済国待遇」をしており、中国国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないとして、台湾のコスト構造を使っているのを批判している。
台湾のエチレン法PVCと異なり、中国でははるかに安いカーバイド法であり、台湾のコストを使うのはアンフェアだとしている。
非市場経済国待遇については2006/2/27 EU、中国・ベトナムの革靴に反ダンピング税
中国の業界はまだ、インドとトルコの市場を諦めてはいない。
ーーーー
* バックナンバー、総合目次は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm
コメントする