DuPont、廃棄物問題裁判で敗訴

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米国West Virginia 州のHarrison CountySpelter の町で、112エーカーの土地を砒素、鉛、カドミウムの産業廃棄物で汚染し、地域住民の健康に被害を与えたとして、DuPont とニューヨークのT.L. Diamond & Co. に対して住民10人による集団訴訟が行なわれ、10月1日から裁判が行なわれた。

DuPont 1899年に火薬工場用に土地を買収し、1910年に亜鉛精錬所をつくった。
同社は1950年にこれを売却し、持ち主はその後何度か代わった
T.L. Diamond 1975年から亜鉛の精錬を行ない、亜鉛粉末と酸化亜鉛を生産した。
しかし、
2001に環境当局が、この土地が住民の健康に緊急の、重大な危険を含んでいると指摘したため、廃業した。

DuPont T.L. Diamond の廃業後、クリーンアップの責任を引き受け、土地を再購入し、2006年にクリーンアップを完了した。
(裁判では両社の売買契約に基づき、
T.L. Diamond の義務はDuPont に引き継がれていると認定された)

 

4つの観点ごとに陪審員の決定が行なわれた。

1)廃棄物処理に関するDuPont の責任

DuPont は州の検査、安全基準に適合しているとしたが、11人の陪審員はDuPont が公的私的な迷惑を起こしたこと、公害物質を私有土地に流したことを認め、DuPont に責任と過失があったとして住民の勝訴となった。

2)住民側の健康診断要求

原告は近辺住民に対して今後40年間にわたり、肺、皮膚、胃、膀胱、腎臓の癌と、腎臓機能、認識能力及び鉛中毒の検査を要求した。
鉛は流産、低出生体重、記憶認識能力障害、骨脆弱性、心臓血管などを引き起こす可能性がある。

陪審員は砒素、カドミウム、鉛汚染に曝された7,000人の住民に対し、今後40年間、DuPont が検査費用を負担することを決定した。

DuPont West Virginia 州とOhio州との州境にあるWashington, WV.工場 (上の地図参照)での水道水汚染で住民の検査費用を負担している。
テフロン製造のための化学品 パーフルオロオクタン酸アンモニウム塩 が住民の健康を害したかどうかを確かめるため、
West Virginia州とOhio州の住民7万人の検査を行なっている。

3)公害物質除去費用の負担

陪審は住居や事業所から危険物質の除去のため、DuPont 55.5 百万ドルの負担を命じた。

住民側は、今後危険に曝されることのないよう、徹底的に復旧することを求めた。
特に土の汚染とほこりによる汚染を問題視している。
このため、家を空けて、クリーニングを行い(特に屋根裏)、エアコンのダクトを取り替える、廃棄物置き場の近くの土を入れ替えることを求めている。
2,159 の住居、457 のトレーラーハウス、205 の事業所の処理に62.9 百万ドルが必要とみられており、DuPont 負担の55.5 百万ドルは1戸当たり19,700 ドルとなる。

DuPont 側は、廃棄場所の浄化し、シートと種子付きの表土で覆っていると主張した。

4)懲罰的賠償

10月19日、陪審は2日間の審議の後、DuPont に対して、有毒な砒素、カドミウム、鉛を亜鉛精錬所用地に故意に捨て、周辺の数千人の住民の健康への危険を起こしたとして、196.2百万ドルの懲罰的賠償を命じた。

原告側は、DuPont が環境当局を巧みに操り、危険性について住民に嘘をついてきたと主張していた。
テストやクリーンアップの費用を避けるため、多くの「小さな嘘」をついて繰り返し住民をミスリードしてきたと批判した。

これに対しDuPont は、州や連邦政府の規則に従ってきたし、自発的に112エーカーの土地の廃棄物を取り除き、シートときれいな土で覆ったとした。
連邦政府の
Superfund 計画は廃棄物の焼却などを含んでおり、効果が少なく、遅く、生活の質を損なう可能性があるが、同社ではそれではなく、自発的な改善計画を取っていることはむしろ賞賛されるべきだとした。  

 

一連の陪審の判断はこれで終わった。

これに対し、DuPont 側は、「この施設で、このコミュニティのために、正しいことをやってきたのに、不当に罰せられることになる」とし、この懲罰的賠償の判決について州最高裁に控訴すると述べた。
DuPont 1950年に施設を手放し、46年後に戻ってきた。以前のこの施設の多くの所有者のなかでDuPont のみが、環境保護庁と協議しながら施設を浄化し、コミュニティを援助してきた」としている。

 

参考 2007/6/18 DuPont のダイオキシン裁判 

なお、2005年の本件の最初の裁判、漁師が空気と週に4回は食べていた牡蠣からダイオキシンを取り込み多発性骨髄腫となったという件で、牡蠣漁師に 14百万ドルの賠償、妻に150万ドルの慰謝料、合計15.5百万ドルの損害賠償が認められ、DuPont が州最高裁に控訴していたが、州最高裁は2007年10月、事実に誤りがあるとして、裁判のやり直しを命じた。

医者の多発性骨髄腫の原因に関する証言の取扱いなどに問題があるというもので、反対意見を出した判事は証言には問題はなく、多数意見の判事はDuPontが大量の有害物質を流したこと、DuPontのダイオキシン排出を政府が認めていること、DuPontがダイオキシンの人体への悪影響を認識していることを無視していると批判した。

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* バックナンバー、総合目次は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm

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