高杉良 「挑戦 巨大外資」

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高杉良 「挑戦 巨大外資」(小学館)を読んだ。

小学館ホームページには以下のPRがある。

経済小説の巨星が放つ、本格的国際経済小説

1970年、32歳で世界的コングロマリット、ワーナー・パーク・グループの日本法人CFO(最高財務責任者)としてヘッドハンティングされた池田岑行。相次ぐCEOの解任、一瞬の隙も許さぬ人事抗争――非情の「外資」をその卓越した財務戦略で生き抜く池田は、日本人として初の取締役の座に就き、社内改革を次々と押し進める。 ワーナー・パークの伸張に危機感を抱いた製薬最大手・ライザーが、新CEOの失策を機に、10兆円規模の
巨大TOBを仕掛けてきたのは99年のことだった。池田は否応なく、巨大M&Aの激流に放り込まれることになる―ようやく日本に訪れた「三角合併」時代の原点を、「奇蹟のCFO」と呼ばれた男の視点から描く、本格的国際経済小説。

勿論、小説であり、全てが事実ではないが、巨大TOBは事実である。

1999年11月にWarner Lambert (小説でのワーナー・パーク)はAmerican Home Products (同アメリカン・ホーム・コーポレーション)との友好的合併(対等)を発表した。
その数時間後、
Pfizer(同ライザー)がWarner Lambertの敵対的買収を発表した。

最終的に2000年2月7日にPfizerによるWarner Lambert の買収で合意した。

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Warner-Lambert の事業は医薬品と消費財であった。

医薬品は1970
年に買収したParke-Davis の事業で、高脂血症治療薬 Lipitor
が有名である。
2006年の大型医薬品世界売上ランキングの1位はこのLipitor 13,682百万ドル、2位のGraxoSmithKline の抗喘息薬 Seretide /Advair 6,490百万ドルの2倍以上の売上である。

1897年、高峰譲吉博士がParke-Davisの技術顧問になっている。
Parke-Davis は高峰博士から日本以外の地域におけるタカアスターゼの製造および販売権を取得した。

日本でタカヂアスターゼを技術導入して1899年に設立されたのが三共商店で、1913年に三共(現 第一三共)となったが、初代社長に高峰博士が就任している。

1996年 米国三共(Sankyo Pharma Inc.)がWarner Lambert との折半出資による三共Parke-Davis を設立した。
2000年9月米国三共Pfizerから三共Parke-Davis の持分を買取った。)

Pfizer Warner-Lambert1996年からこのLipitor 開発の partnership を組み、Pfizer は販売権を有していた。
American Home Products PfizerのWarner-Lambert の取り合いはLipitor を目指したものである。

消費財部門には、Listerine mouthwashCerts mintsTrident gumSchick razors などの有名ブランドがある。

 

1999年11月4日、Warner LambertAmerican Home Products (AHP) は友好的合併(対等)を発表した。Warner Lambert の株式は720億ドルの評価を受けた。
その数時間後、
PfizerはLipitor の販売権を失うことを恐れ、Warner Lambertの敵対的買収を発表した。買収額は824億ドルであった。

小説では前のCEOが独立路線を取ってきたのに対し、新CEOが、対等合併と自分が世界最大の医薬会社のCEOになれることから、AHPの提案を呑んだこととなっている。

その後、両社の訴訟合戦などがあったが、2000年に入り、 大株主のカリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)等の機関投資家が「Pfizer提案も検討すべし」とのWarner Lambert批判を行った。

Warner Lambert とAHP はPfizerへの対抗策として Procter & Gamble を含めた3社合併を模索したが、Procter & Gambleの離脱で潰れた。
更に2月になり、
Pfizerは買収条件をアップした。

この結果、2月7日にPfizerによるWarner Lambertの買収で合意した。買収額は 892億ドルであった。
American Home Products には契約に基づきWarner Lambert から18億ドルのbreak-up fee が支払われた。

この買収は6月にFTCの承認を得、Warner Lambert Pfizerの完全子会社になった。

小説の主人公が懸念したとおり、PfizerによるWarner Lambert の買収は医薬品のためであり、消費財部門はその後、売却された。

2002年12月、PfizerWarner Lambert Trident gum、Dentyne gumCerts mints などのAdams Division Cadbury Schweppes 42億ドルで売却した。  
2003年1月、PfizerSchick-Wilkinson Sword shaving products business Energizer Holdings, Inc.930 百万ドルで売却した。 
2006年、Pfizer Consumer healthcare 部門をJohnson and Johnson に166億ドルで売却した。
 
LISTERINE oral care products, 禁煙薬 NICORETTEなどである。

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Pfizer はWarner-Lambert を吸収後、2003年4月にはPharmacia を吸収合併し、世界の医薬メーカーのトップとなった。

Pharmacia はMonsanto とPharmacia & Upjohn が合併したもの。

・MonsantoはG.D.Searleを吸収、化学品部門をSolutiaとして分離
・Monsantoは1998年に一旦、
American Home Products との合併で合意したが、直ぐに破談となった。

・PharmaciaとUpjohn が合併してPharmacia & Upjohn となる。

・Monsanto とPharmacia & Upjohn が合併してPharmaci
a となり、農薬部門を分離(再びMonsanto

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American Home Products 1994年にAmerican Cyanamid と合併した。
(その後
2000年にAmerican Cyanamid を分離し、BASFに売却している。)

同社は1998年にSmithKline Beecham と合併で合意したが、すぐ破談した。

SmithKline Beecham は代わりにGlaxo Wellcome との合併で合意したが、これも破談した。
 その後、両社は2000年になって、合併し、GlaxoSmithKline となった。

更に上述の通り、American Home Products 1998年にMonsanto との合併で合意し、破談している。

2002年、American Home Products Wyeth と改称した。

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なお、本のPRに、「ようやく日本に訪れた三角合併時代の原点」とあるが、あまり関係がない。

三角合併とは、企業合併の方法の一つで、会社の吸収合併を行う際に、存続会社の親会社の株式を交付することによって行う合併をいうが、米国では原則として株式対価の買収は三角合併である。

2005年に成立した日本の新会社法では、会社を合併する際、消滅会社の株式の対価について、存続会社の株式ではなく、現金その他の財産、例えば親会社株式を用いてもよいことが明確化された。
外国の親会社の株式でもよいため、外国会社による日本の会社の買収、子会社化が加速する、という予測もおこなわれている。
なお、新会社法は2006年5月1日に施行されたが、対価の柔軟化に関する部分については、その1年後の施行となった。

本の中で「三角合併」の言葉はなく、それを表す記述も全くない。小説でも一般記事でも、単に Warner-Lambert 株1株に対してPfizer 2.75株が割り当てられたとなっている。

実際の手続きでは、Warner-Lambert の株主にPfizer の株式が与えられ、Warner-LambertPfizer 新設の100%子会社のSeminole Acquisition Sub Corp.合併した。その結果、存続会社となった Warner-Lambert Pfizer 100%子会社となった。
(被買収会社が存続会社となる逆三角合併である。なお、日本では、正三角合併のみが可
能で、逆三角合併は認められていない。)

 

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* バックナンバー、総合目次は http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm

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