米ITC、中国製光沢紙の相殺関税調査で逆転シロの決定

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米国際貿易委員会(ITC)は11月20日、中国製光沢紙をめぐる相殺関税と反ダンピングの調査で、ともに「シロ」の最終決定を下した。
商務省は本件でクロの最終決定を下していたが、ITCと商務省の決定が揃わないと適用されないため、相殺関税とダンピング税は課せられないこととなった。
中国のほか、韓国・インドネシア産の光沢紙についても同様となった。

米国ではITC が損害について、商務省が調査開始手続・ダンピング・補助金について担当している。

対象となるのは表面処理加工紙(coated free sheet paper)で、カレンダーや雑誌に使われる光沢紙等の高級紙製品。

相殺関税は、補助金の交付を受けた産品の輸出が当該産品の輸入国の国内産業に被害を与えている場合、輸入国政府が当該補助金を相殺する目的で課す特別関税。
①補助金を受けた貨物の輸入の事実、②国内産業の損害の事実、③両者の因果関係、④国内産業を保護するために必要であることの4点が条件となる。

米国は1984年以来、中国など非市場経済国に相殺関税を適用しない方針を採用してきた。
(当時はソ連式経済では補助金の影響は少ないというのが理由で、控訴裁判所でもこの方針が認められた)

非市場経済国:
WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国ですべての国内価格が国家により定められているものからの輸入の場合には、規定の適用上比較可能の価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める。」と規定している。但し、「非市場経済国」の定義はなされておらず、どのような場合に輸出国を「非市場経済国」として認めるかについては各国の裁量にゆだねられている。

「市場経済国」との認定を受けていない国の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。

現在、中国を「完全な市場経済国」と認めた国はニュージーランド、オーストラリア、韓国など51カ国に達しているが、米国、EU、日本などはまだ認めていない。

2006年に中国からの輸入量が急増し、10月に 光沢紙メーカーの Dayton, Ohio NewPage Corporation が、「中国のメーカーが減税、補助金、低金利融資などの補助金を受けている」として、この方針を変更するよう正式に要求、これを受け商務部は適用を仮決定した。

当該製品の過去3年間の輸入実績は以下の通り。
  2004 2005 2006
輸入量(t)  29,282  99,182  264,026
輸入額(千ドル)  21,500  80,876  224,016

相殺関税調査では通常、ダンピング調査と合わせて行なわれる。

商務省は本年3月30日、中国から輸入される表面処理加工紙に対して10.9~20.35%の相殺関税の暫定課税を決定、当該製品を輸入しようとする者は直ちに、下記の額を米国税関に預託することを求められることとなった。

Shandong Chenming Paper Holdings, Ltd.  10.90%
Gold East Paper Co., Ltd  20.35%
その他すべての企業  18.16%

10月18日、商務省は本件の最終決定を行なった。ただし、ITCが同様の決定をした場合に適用される。

最終相殺関税
Gold East Paper (Jiangsu) Co., Ltd.   7.40%
Shandong Chenming Paper Holdings, Ltd.  44.25%
All Others   7.40%
* Shandong Chengming は調査に協力しなかったため、高率となった。
 
最終ダンピング税率
Gold East Paper (Jiangsu) Co. Ltd.
Gold Hua Sheng Paper (Suzhou Industry Park) Co. Ltd.
China Union (Macao Commercial Offshore) Company Ltd.
 21.12%
Shandong Chenming Paper Holdings Ltd.  99.65%
Yanzhou Tianzhang Paper Industry Co. Ltd.  21.12%
China-Wide Rate  99.65%
* Shandong Chengming は調査に協力しなかったため、高率となった。

 

これに対してUS International Trade Commission ITC 11月20日、商務部が「補助金を受け、米国で公正な価値より安く売られている」とした中国・インドネシア・韓国製の表面処理加工紙の輸入により、米国の業者に著しい被害が出ておらず、その恐れもないとの決定を下した。
5対1の決定であった。
詳しい決定理由は後日開示される。

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この光沢紙の件をきっかけに、米商務省は相次いで中国製品に対して相殺関税調査を開始した。

本年10月、商務省は中国製ラバーマグネットに対する反ダンピング・相殺関税調査の同時発動を正式に決定した。この1年足らずで6回目となる。
他には、オフロードタイヤ、軽量感熱紙(韓国、ドイツも)、溶接鋼管、ラミネートされた織物製袋がある。

中国商務部の報道官は、米国の措置に断固たる反対を表明し、次のように述べた。
米側の手法はWTOの関連規則の濫用であり、自国の判例と長年の慣例に違反しているうえ、両国間の相互利益的で Win-Win の、調和ある健全な経済・貿易関係の発展にとって無益であり、正常な経済・貿易関係を複雑化させるものであり、賢明でない誤ったものだ。
米国向けの中国製輸出品に対し、米側がこのように頻繁に反ダンピング・相殺関税調査を同時発動することは、米国の国内産業界に誤ったシグナルを伝えており、これによって、中・米両国政府がともに、不必要で多大な圧力に直面している。
これに対し中国側は、米側がこの誤った手法を早急に是正し、マイナスの影響の発生を回避することを望むものである。
同時に中国側は、WTO加盟国としてのあらゆる合法的権利を留保する。」
(中国は米国による相殺関税調査に対してWTOに提訴している)

他方、米上下両院の超党派諮問機関、米中経済・安全保障再検討委員会は11月15日に発表した年次報告書で、中国による為替操作を世界貿易機関(WTO)が禁止する輸出補助金と認定し、対抗措置としての相殺関税などの発動を容易にする法律を制定するよう勧告した。

米政府は2007年2月2日、中国政府が世界貿易機構(WTO)が禁止している補助金を使っているとして同国をWTOに提訴している。
  2007/2/10 
米政府、中国をWTO提訴 

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* バックナンバー、総合目次は 
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
  
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