チッソ、与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済策を拒否

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チッソは11月19日、与党プロジェクトチーム(PT)の水俣病未認定患者の新救済策を「解決への展望がどうしても持てない」などとして受け入れ拒否を正式に表明した。

チッソが約317億円を拠出して未認定患者1人あたりに一時金260万円などを支給した1995年の政治決着が最後と思って努力した、あれ以上の解決は考えられないとし、新たな負担には応じない考えを強調した。

与党PTの新救済策は水俣病未認定患者を対象とするもので、患者1人あたりに対し一時金150万円のほか、月額1万円の療養手当、医療費の一律支給が柱となっている。

1995年の政治決着に漏れた人の救済を基本に検討したが、客観的証明は難しく、その症状を現在持っている人を広く救済対象ととらえた。認定申請者約6000人と医療費が補償される新保健手帳所持者約1万3000人のうち、水俣病特有の感覚障害が認められ、認定申請と訴訟を取り下げた人が対象となる。
救済対象を広げたため、一時金260万円、療養手当月額2万円を支給した95年時より低額になった。
救済策に前向きな被害者2団体と交渉し大筋で同意を得たが、訴訟中の団体は救済策を拒否している。

チッソは受け入れ拒否の理由としては、
①一部の被害者団体がPT案を拒否し、同社や国が被告の訴訟を継続する意向を示している
②チッソの負担額が不透明なうえ、国や県の資金支援があるとしても、これ以上の借金を後世に残せない
③株主や社員、取引金融機関に説明できないーーなどを挙げた。
ただし、PTや環境省との今後の交渉での方針転換に含みを持たせている。

また、チッソを資産・債務管理会社と事業会社に分割する「分社化」の実現を求めていく考えを示した。
液晶材料などが好調な同社の事業をすべて子会社に移し、親会社チッソは累積債務の返済と補償に専念する。子会社は社会に評価される事業体となり、取引が増える、子会社が上場すれば親会社に巨額の資金が入り、水俣病患者に補償を支払う上でも問題がなくなるとした。熊本県水俣市からの事業撤退を否定した。

これに対して、鴨下環境相は20日、「チッソが変わることが必要ではないか。協力してもらうのが当然だ」と批判した。
分社化については「補償問題などの責任が明確でなくなる懸念があり、私は理解できない」と話した。

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行政が水俣病患者と認めた「行政認定」者(感覚障害と運動失調など複数症状の組み合わせにより認定、新潟水俣病と合わせ約3000人)に対しては公害健康被害補償法に基づき、補償(1973年チッソとの補償協定により1,600万円~1,800万円)が行なわれたが、未認定患者の救済が問題となっていた。

1995年に村山首相が政府として初めて「結果として長期間を要したことについて率直に反省しなければならない」と首相談話で遺憾の意を表明し、自民・社会・さきがけ3党連立政権が訴訟や認定申請の取り下げなどを条件に政治決着を行なった。

四肢末端優位の感覚障害がある場合は「医療手帳」を交付
  チッソから一時金260万円、国・県から医療費自己負担分全額、月額約2万円の療養手当などを支給

感覚障害以外で一定の神経症状がある場合は「保健手帳」を交付
  医療費自己負担分などを上限付きで支給
  国の責任を認めた2004年10月の関西訴訟最高裁判決後に受け付けを再開、
   医療費自己負担分は全額支給に改めた。

ほとんどの患者が和解に応じ裁判を取り下げた。

しかし、一部はこの解決策を拒否し政府の行政責任追及にこだわった。

「チッソ水俣病関西訴訟」の論点は、
① 被害を防止しなかった行政の過失を認めるかどうか
② 患者を水俣病ではないとした行政の認定基準は正しかったのかどうか、であった。

2001年の高裁判決は、排水規制をしなかった国と県の過失を指摘、水俣病の認定基準も間違っているという判断を下した。
2004年10月、最高裁は原告の主張を認め、県と国の法的責任が確定した。

これにより、行政責任を不問にした「和解」の前提が強く揺さぶられる事態を迎えた。

【主な水俣病訴訟の判決】
  訴訟名 裁判所     結果
企業 行政 排水規制
71年9月 新潟1次 新潟地裁  ○  -  
73年3月 1次訴訟 熊本地裁  ○  -  
79年3月 2次訴訟 熊本地裁  ○  -  
85年8月  同上 福岡高裁  ○  -  
87年3月 3次1陣 熊本地裁  ○  ○  
92年2月 東京訴訟 東京地裁  ○  ×  
   3月 新潟2次 新潟地裁  ○  ×  
93年3月 3次2陣 熊本地裁  ○  ○  
  11月 京都訴訟 京都地裁  ○  ○  
94年7月 関西訴訟 大阪地裁  ○  ×  
01年4月  同上 大阪高裁  ○  ○  ○
04年10月  同上 最高裁  -  ○  ○
○は責任認める ×は認めず。-は争点外

最高裁判決が一部国の責任を認めたことで、公害健康被害者補償法上の認定を申請する患者が急増したが、熊本、鹿児島、新潟3県の認定委員会は、認定基準が変わらない以上、多くは不認定となる可能性は高く、不認定になった人たちを手当てする何らかの受け皿的措置がなければ認定を再開することが難しいとして、判定されないままになるという異常事態が生じた。

このため公明党が20064月に新救済案の提言をまとめ、それを基に与党PTを設置し、紆余曲折の結果、新救済策を決定した。

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チッソの経営問題については 2006/5/1 水俣病50年 

同社の損益状況は以下の通り。        単位:百万円

      売上高   営業損益   経常損益   当期損益
連結 単独 連結 単独 連結 単独 連結 単独
00/3  202,975  140,423   9,119   6,537   5,295   4,041  55,317  58,647
01/3  163,826  132,470   8,551   6,191   6,524   5,331   -1,183   -1,603
02/3  148,368  119,574   7,277   5,420   5,227   4,616   -2,984   -1,277
03/3  136,036  117,711   8,625   6,220   6,666   5,428   -1,883   -1,078
04/3  132,784  110,398  10,958   7,582   9,964   6,752    527    -292
05/3  150,694  114,720  12,063   7,645  12,421   7,086   4,215    761
06/3  199,635  155,813  16,122  10,219  16,973  10,167    111   2,951
07/3  216,979  160,022  18,814  11,501  19,063  11,003  12,273   3,991
                 
06/9中間   98,945   75,098   8,417   5,395   8,686   5,198   4,085   1,514
07/9中間  131,321   89,996  10,419   5,951  10,445   5,730   5,277   2,471
                 
08/3  260,000  183,000      21,000  12,000  10,000   4,500

特別損失(連結)のうち公害関係は以下の通り。(億円)

  00/3 01/3 02/3 03/3 04/3 05/3 06/3 07/3   06/9 07/9
水俣病補償損失  -49  -53  -48  -56  -47  -45  -43  -42    -21  -20
公害防止事業費負担  -15  -14  -13  -12  -12  -12  -15  - 9    - 5  - 4

  ほかに2006/3に減損損失 -121億円を計上している。

同社の20079末の資本金は78億円、未処理損失は1,224億円(資本勘定は-1,043億円)となっている。

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日経(2007/11/23)によると、与党PTはチッソが受け入れやすい環境作りを狙って、チッソの法人税軽減の特例措置を検討している。
欠損金繰越控除期限(現行は過去7年以内)を大幅に延長する案。

上記のとおり、チッソの累積損失は巨大だが、単独決算で2005年3月期に黒字に転換し、欠損金の繰越期限切れにより2007年3月期までに法人税など約36億円の税負担が生じている。

特例により税負担をなくし、公的債務の返済や新救済策での負担に資金を回せるようにする狙いがあるとみられている。

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* バックナンバー、総合目次は 
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
  
項目別の索引も作成しました。

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