薬害肝炎救済法成立

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薬害肝炎救済法(特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法)は1月8日、衆院本会議で全会一致で可決、1月11日、参院院本会議で全会一致で可決、成立した。

原告・弁護団と政府は15日、和解基本合意書を締結した。

福田総理は基本合意書に調印した「薬害肝炎訴訟」の原告・弁護団100人余りと面会し、「行政の対応が遅れたことを情けなく思っている」とあらためて謝罪し、薬害の再発防止に努める考えを伝えた。

これまでの経緯は以下の通り。

1964年、日本で初めて、フィブリノゲン製剤の製造・販売が、1972年には、第9因子製剤の製造・販売が開始された。これらの血液製剤は止血剤として使用され、とりわけフィブリノゲン製剤は、先天性低フィブリノゲン血症のほか、産科出血や重傷外傷、外科的治療などに伴う出血に対し、止血剤として幅広く投与された。

しかし、これらの血液製剤にはC型肝炎ウイルスが混入しており、その結果、多くの人がC型肝炎に感染した。

薬害肝炎訴訟は、このような血液製剤を製造・販売した製薬企業(現三菱ウェルファーマ、子会社のベネシス、日本製薬)の責任を追及し、さらには、血液製剤の製造を承認した国の責任を追及する訴訟である。

三菱ウェルファーマ(現 田辺三菱製薬)は2001年10月に三菱東京製薬とウェルファイドが合併して設立された。
ウェルファイド(旧称 吉富製薬)は1998年4月に(旧)吉富製薬がミドリ十字を吸収合併した。
* ミドリ十字は薬害エイズ事件の民事訴訟被告製薬5社の1社(他は、バイエル薬品、バクスター、化学及血清療法研究所、日本臓器製薬)

三菱ウェルファーマは2003年10月1日に、血漿分画製剤事業を安全分社化し、株式会社ベネシスを設立した。

日本製薬は、1951年に我国で初めてエタノール分画法によるガンマグロブリンの製造に成功し、以後日本の栄養輸液製剤及び血漿分画製剤のパイオニアとして事業基盤を固めた。
武田薬品グループ(連結企業群)の中で、血漿分画製剤、栄養輸液製剤、殺菌消毒剤、ドリンク剤の製造販売事業に事業領域を特化した、いわゆるスペシャリティファーマ。

2002年10月、東京13名、大阪3名の被害者が原告となり、東京地裁および大阪地裁で損害賠償を求めて提訴し、その後、福岡地裁、名古屋地裁、仙台地裁で次々と提訴した。

血漿製剤:

血液の45%は赤血球、白血球、血小板の血球成分から成る。
残りが血漿で、90%が水分で、残りの10%の固形成分のうちの70%がタンパク質で、アルブミン、免疫グロブリン、凝固因子などがある。

凝固因子は12種類あり、発見順にローマ数字がつけられており(但しⅥは欠番)、第1因子がフィブリノーゲン・フィブリンである。

フィブリノゲン製剤とは、このフィブリノゲンをプール血漿(一定数の供血者の血漿を混合中から分離精製して製造される血漿分画製剤である。

血液製剤は図のような工程でつくられる。(朝日新聞から)

アメリカではFDAが、プール血漿由来のフィブリノゲン製剤が肝炎ウイルスに汚染される可能性が高いことと効果が疑わしいこと及びフィブリノゲン製剤の代わりとなる製剤として、濃縮凝固因子(クリオプレシピテート)が利用可能であることを理由に、1977年12月、フィブリノゲンと同成分の製剤の製造承認を取り消した。

日本国内で当初販売されていた製剤では不活化処理がなされており、C型肝炎ウイルスを不活化していたが、1985年に不活化処理方法が変更され、B型肝炎ウイルスのみの不活化となり、非A非B肝炎発生報告例が増加した。

 

過去の各地裁の判決は以下の通り。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

注 1985年8月は不活化処理方法の変更時で、これによりC型肝炎感染の危険性を一層高めた。
   1988年6月はミドリ十字が緊急安全性情報を配布し返品を要請(以後、販売数量激減)。

詳細は 2007/8/2 薬害C型肝炎で名古屋地裁判決    

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2007年10月、薬害C型肝炎訴訟の被告となっている田辺三菱製薬(旧三菱ウェルファーマ)が、2002年に提出した血液製剤投与でC型肝炎ウイルスに感染した恐れのある418人のリストを厚労省内に保管されていたことが明らかになった。
その後、田辺三菱製薬が、197人の実名と、170人のイニシャルか名前の一部を把握していることが判明した。

その結果、国と製薬会社側が投与を否定したため敗訴した原告のひとりについて、国側は、これまでの姿勢を一転、フィブリノゲンの投与を認めた。

リストが提出された時点で患者に連絡しておれば、早く治療を受け、病状がひどくなったり、亡くならずに済んだかも分からない。会社側と厚生省の責任が問われた。
(本年1月4日現在で、リストの患者のうち、死亡者は58人となっている)

 

大阪訴訟控訴審で、大阪高裁では9月14日に裁判長が和解による解決を打診、原告側は和解希望案(国が責任を認めて謝罪することを強く要求)を提出、国も和解協議に応じる意向を示した。
田辺三菱製薬は10月1日に合併会社が発足するため、回答を見送っていたが、10月31日、和解協議に応じる方針を示した。

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裁判とは別に、与党の肝炎対策プロジェクトチームは11月7日、ウイルス性肝炎治療の患者支援策の大枠を決めた。
インターフェロン治療はC型で 5~9割、B型で 3~4割の完治が見込めるとされるが、治療費の自己負担が年間80万円程度と高額なこともあり、インターフェロン治療を受ける患者は年間5万人程度にとどまっている。

このためインターフェロン治療を受ける患者の自己負担額を所得に応じて月1万~4万4400円とし、残りを国と地方自治体が半額ずつ負担するというもので、助成対象はC型肝炎とB型肝炎のインターフェロン治療で、感染原因は問わない。
2008年度予算案に129億円を計上した。

これに対し、民主党は、自己負担を月 0~2万円にし、肝炎が悪化して起きる肝硬変、肝がんなどへの医療費助成も早急に検討するという案を作成した。

(これについては今回は両案を継続審議とすることとなった。)

救済対象となる患者数の推定は以下の通り。

・薬害被害者(血液製剤で感染) 1万人以上
  うち、原告206人、投与証明可能な被害者 約1000名
・C型肝炎感染者(主に輸血や注射針の使いまわしで感染) 約200万人
・ウイルス性肝炎感染者(主に医療行為、母子間で感染) 約350万人

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大阪高裁(横田勝年裁判長)は12月13日、和解骨子案(非公開)を原告の肝炎患者と被告の国・製薬会社に示した。

骨子案は、2007年3月の東京地裁判決を踏まえ、フィブリノゲン製剤の投与をめぐって法的責任が生じる期間を、国については87年4月~88年6月、被告企業の田辺三菱製薬側は85年8月~88年6月と指摘、「クリスマシン」も84年1月以降、製薬会社に責任があるとした。

この範囲で被告側が責任を認め、原告らに謝罪するという趣旨の文言が盛り込まれた。
そのうえで被告側は、
(1)肝炎の発症患者に2200万円、感染者に1320万円の賠償を認めた同判決に沿い、この期間に投与を受けた人へ和解金を用意
(2)
それ以外の原告には「訴訟追行費」の名目で計8億円を支給
(3)これらの総額は原告側に一括して支払い、分配は原告患者200人に任せる――などとした。

国と製薬会社の負担割合は1対2としていたという。

なお高裁の「所見」で、「全体的解決のためには原告らの全員一律一括の和解金の要求案は望ましいと考える」が、国・製薬会社の過失時期の認定が異なる5地裁判決を踏まえればその内容に反する要求とし、「国側の格段の譲歩がない限り、和解骨子案として提示しない」としている。

患者全員救済を求める原告側は「被害者を製剤の種類や投与時期、提訴時期で線引きする不当な内容」と批判し、「受け入れ拒否」を表明した。

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福田首相は12月19日、官房長官、厚生労働相などと協議し、東京地裁判決の基準から外れた被害者を救済する基金を8億円から30億円に積み増す政府修正案にゴーサインを出した。

原告の数が現在の200人から、最大1000人まで増えると想定。東京地裁判決の認定外の原告が3割、300人いるとさらに計算し、1人あたり約1000万円を分配することを念頭に置いた案で、舛添厚労相は、「事実上全員を救済する案」と強調した。

しかし、この基金案は、あくまで認定外の被害者を薬害被害者と認定したものではなく、原告側が求める「一律救済」と相いれないもので、原告側はこれを拒否した。全国弁護団の鈴木利広代表は「要はお金の問題だという矮小化した理解しかしていない。かえって原告の感情を逆なでする案だ」と一蹴した。

政府は大阪高裁の和解勧告の枠組みを超えることは不可能、と説明する。町村長官は、「支持率のために司法の判断はどうでもいいということにはならない」と説明した。
実際には「被害者の一律救済を認めれぱ際限がなくなる」との厚労省の主張を前に身動きが取れなくなっていた。厚労省は仮に一律救済に踏み込めば対象は1万2000人に達し、1800億円が必要、との試算を明らかにしていた。

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福田首相は12月23日、「薬害肝炎患者を全員一律で救済する」と述べ、薬害肝炎患者を一律救済するための法案を議員立法で臨時国会に提出する方針を表明した。

報道によると、12月21日に与謝野前官房長官が首相に、「このまま放置すれば内閣も自民党も支持率が下がる一方だ」とし、次のように議員立法による解決を進言した。
①司法も行政も行き詰まった「国の責任」の壁を越え、人道的観点で全員一律救済を急ぐには、三権のうち残る立法府が乗り出すしかない。
②(「特別救済立法」の骨子案を用意) 「法務省の専門家にも相談してある」

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今回成立した薬害C型肝炎救済法の骨子は以下の通り。

府は甚大な被害が生じ、被害拡大を防止できなかった責任を認める
救済対象はフィブリノゲン製剤と第9因子製剤の投与(後天性の傷病に係る投与に限る)を受けたことによってC型肝炎ウイルスに感染した者及びその者の胎内または産道においてC型肝炎ウイルスに感染した者
  死亡の場合はその遺族
給付額
  慢性C型肝炎が進行して、肝硬変もしくは肝がんに罹患し、または死亡した者 4000万円
慢性C型肝炎に罹患した者 2000万円
それ以外 1200万円
投与の事実、因果関係の有無、症状は裁判所が認定
請求期限は5年以内、10年以内に症状が進行すれば追加給付金を支給
付金支給のため、独立行政法人医薬品医療機器総合機構に基金を設置
費用の負担の方法及び割合について、製造業者等と協議し、あらかじめ基準を定める

一方、血友病など先天性の病気で血液製剤が必要な患者らで作る23団体は、法案の対象が「後天性の傷病」に限定しているのは問題だとして、衆参両院に慎重な審議や国会決議を求める意見書を提出した。
血友病など先天性疾患の患者の多くは、原告団と同じ血液製剤で肝炎に感染したが、「治療として有用だった」として法案の救済対象から外れた。

衆院厚生労働委員会では、救済対象を血友病患者らに拡大することの検討を盛り込んだ5項目の委員会決議を全会一致で採決した。
参院厚労委でも同様の10項目の決議が採決された。

法案の前文には以下の通り記されている。

フィブリノゲン製剤及び血液凝固第9因子製剤にC型肝炎ウイルスが混入し、多くの方々が感染するという薬害事件が起き、感染被害者及びその遺族の方々は、長期にわたり、肉体的、精神的苦痛を強いられている。

政府は感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染被害者及びその遺族の方々に心からおわびすべきである。さらに今回の事件の反省を踏まえ、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力をしなければならない。

もとより、医薬品を供給する企業には、製品の安全性の確保等について最善の努力を尽くす責任があり、本件においてはそのような企業の責任が問われるものである。

法案の成立を受けて1月11日、福田総理は談話を発表した。

本日、特定フィブリノゲン製剤及び特定血液凝固第IX因子製剤によるC型肝炎感染被害者を救済するための給付金の支給に関する特別措置法が成立いたしました。

これら製剤による感染被害者とその遺族の方々は、これまで長きにわたって、心身ともに言葉に尽くせないほどのご苦労があったと思います。感染被害者の方々に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止できなかったことについて、率直に国の責任を認めなければなりません。感染被害者とその遺族の皆さまに心からお詫び申し上げます。

私自身、一日も早くこの問題を解決したいと思ってまいりました。大阪高等裁判所における和解協議にも誠実に対応してまいりましたが、地方裁判所ごとに異なる内容の判決が出されてきたC型肝炎訴訟について、司法の判断を踏まえつつ、一方でこれらの製剤による感染被害者の方々の一律救済の要請に応えるには、現行法制の下では限界があり、議員立法による全面解決を決断いたしました。

一日も早い救済を実現するために、与党と弁護団との精力的な協議、迅速な立法化作業、会派を超えて国会での速やかな対応が行われ、本日、法案が成立し、長年にわたるC型肝炎訴訟の解決が図られることになりました。心より感謝を申し上げます。

感染被害者の方々は、国に対し、肝炎対策の充実を要請してこられました。その懸命な活動が一つの契機となり、政府・与党において肝炎対策について真剣に検討を進めることになりました。

その結果、無料で受けられる肝炎ウイルス検査を拡大するとともに、来年度から国と地方公共団体が協力して7か年で総額1800億円規模のインターフェロン治療に対する医療費助成を行うこと等を内容とする新たな肝炎総合対策を実施することといたしております。これにより、肝炎の早期発見、そして必要な方々すべての早期治療が進むことを期待いたしております。

さらに、今回の事件の反省に立ち、薬害を繰り返してはならないとの決意のもと、命の尊さを再認識し、医薬品による健康被害の再発防止に向けた医薬品行政の見直しに取り組んでまいります。

改めて、長年にわたる感染被害者の方々のご労苦にお詫び申し上げるとともに、再発防止に最善、最大の努力を重ねることをお約束いたします。

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全国弁護団の鈴木代表は1月14日、政府と締結する和解の基本合意書について仙台、東京、名古屋、大阪、福岡の各原告団が了承したことを明らかにした。
1月15日、原告・弁護団と舛添厚労相による基本合意書の調印式が行われた。

冒頭で「国は、甚大な被害が生じ、被害の拡大を防止し得なかった責任を認め、心からおわびする」と、救済法と同じ表現で国の責任と謝罪に言及した。

投与事実の証明などは「医療記録(カルテ)か、同等の証明力を有する証拠に基づく」とした。
国が認否にあたり、むやみに証拠を否定しないよう「新法の一律救済の理念を尊重する」との項目も加えた。
投与事実が争いになれば裁判所の判断を仰ぎ、所見は双方が尊重する。
厚労省は今後の提訴者について「カルテがない場合も一概に否定せず、投与を信じるに足る証拠が示されれば争わない」としている。

合意書では、国は血液製剤の投与を受けた人の確認の促進や投与患者への検査の呼びかけを約束。
肝炎の医療提供体制の整備のほか、第三者機関による薬害の検証、再発防止策について原告・弁護団と継続的に協議する場の設定、なども盛り込んだ。

現在の原告の中には血液製剤の投与事実や因果関係を争ってきたケースもあるが、全員を被害者として認定する。

政府は1月15日の閣議で、救済法を16日に施行することを決めた。
舛添厚生労働相は、閣議後の記者会見で、「襟を正して、新しい体制を一刻も早く打ち立てたい」と薬害根絶に向けた決意を述べた。
基本合意には製薬会社は含まれず、舛添厚労相は「製薬会社は責任を痛感し、謝罪してもらいたい」と要望。
被害者救済に向けた費用負担については、これまでの薬害事例などを参考に「国が3分の1、企業が3分の2という比率になる」と説明、折衝中であることを明らかにした。

製薬会社は大阪高裁の和解協議の席には着いたものの、その後は対応を明らかにしていない。
原告側は、謝罪などを求めた「全面解決要求書」を製薬会社3社に送付し、月内に文書で回答するよう求め、それがない場合は、製薬会社との訴訟を継続する意向。

三菱ケミカルホールディングスの小林社長は社員向けの新年挨拶で次のように述べている。
「我々としては、今後、行政、司法当局とともにこの問題の早期解決に向け、誠実かつ真摯に対応していかなければなりません。」

付記

厚生労働省は、1月17日の新聞折り込み広告で、C型肝炎の感染源となった血液製剤が使われた可能性がある約 7500 医療機関を公表し、そこで治療を受けた人にC型肝炎ウイルス検査を受けるよう要請した。


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

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