ロシアのLukoil-Neftekhim のウクライナの子会社 KarpatNaftoKhim はウクライナのKalush (Kiev の南西500km)で同国初のPVC工場の建設を開始した。
能力は30万トンで、 Uhde がVinnolit の高機能リアクターを使った最新技術で建設する。投資額は200百万米ドル。
Uhde はPVCと同時に同地にイオン交換膜電解工場の建設も請け負っている。110百万ユーロを投じて、隔膜法に代えてイオン交換膜法のプラントを建設するもので、能力は塩素177千トン、ソーダ200千トンとなっている。本年央に完成の予定。
KarpatNaftoKhim は同地でエチレン、プロピレン、PE、塩素/ソーダのほか、370千トンのVCM工場を有している。
しかし、東欧最大のPVCメーカーであるBorsodchem が自社VCM増設に伴い購入を取り止める決定を行なった結果、極めて低い操業となっており、PVC自製を決めたもの。
Lukoil はロシアの大石油会社で、石油化学に関してはKarpatNaftoKhim の他に、以下の子会社を有している。
Saratovorgsintez
立地:ロシア Saratov
製品:アクリロニトリルほか
DuPont技術で青酸ソーダ(15千トン)を建設
Stavrolen
立地:ロシア Budennovsk
製品:PP(ダウ技術 120千トン)、PE
LUKOIL Neftokhim Burgas
立地:ブルガリア Burgas
製品:ポリマー、有機薬品
なお、2004年9月に ConocoPhillips はLukoil の株式の7.6 %を購入、将来20%まで増やすことができる旨の契約を締結している。.
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これまで KarpatNaftoKhim のVCMを購入していたハンガリーのBorsodchem は塩ビとイソシアネートのメーカーで、製品は以下の通り。
塩素:水銀法 125千トン
VCM:現有能力 220千トン、増強後 320千トン
PVC:330千トン(うち、150千トンは信越化学が1973年にChemocomplex に技術供与したもの)
* 信越は1975年にポーランドのPolimex にも技術を供与している。(200千トン)
PVCコンパウンド
MDI:60千トン
TDI:60千トン(100千トンへの増設計画あり)
2006年に欧州最大の買収ファンドの英 Permira とオーストリアのVienna Capital Partners がつくったファンドがBorsodChem の全株式を取得した。
Permiraについては 2007/10/26 欧州最大買収ファンドのペルミラ、農薬大手アリスタ買収
これに至るまでには、Borsodchem とロシアの Gazprom との戦いがある。
2000年6月にBorsodchem はハンガリーのもう一つの石化会社Tiszai Vegyi Kombinat (TVK) の28.5%を取得したが、これをTVKに19.6%出資しているハンガリーの石油・ガス企業のMOLに譲渡しようとした。Borsodchem はエチレン取得のためTVK株式を購入したが、MOLが供給を保証したため、株式保有の必要性がなくなった。
TVKの事業 (現状)
エチレン:660千トン
LDPE: 97千トン
HDPE:420千トン
PP:280千トン
2000年下半期に大騒動が起こった。
アイルランドのMilford Holdings という名前だけの会社がBorsodchem の24.8%を取得した。
更にオーストリアのCE OIL & GAS (本件のために設立された会社)が同社の59%を取得した。
Milford Holdings の背後に誰がいるのか分からないまま、Milford は臨時株主総会を開催することを要求、取締役交代とTVK株式売却取り止めを求めた。
そのうち、Milford の背後にGazprom がいることが分かり、CE OIL & GAS もGazprom と組んでいるのではないかとの噂が流れた。
(CE OIL & GAS は VCP Capital Partners の子会社で、Gazprom との結びつきはなかった)
* Milford は一時、持株をGazprom 子会社の SIBURに移した。
このため、SIBURがBorsodchem を買収したという誤った記事が出ている。
Borsodchem は要求を拒否し、長い交渉が行なわれた。
この争いの最中に、BorsodChem はGazprom の子会社の SIBUR からの原料購入の代わりに、Gazprom の競争相手のLUKoil からエチレンとVCMを購入する契約を結んだ。これが上記のKarpatNaftoKhim のVCMである。
2001年6月には、遅まきながらハンガリー国会が乗っ取り防止の証券取引法改正を行なった。(この法律はLex BorsodChem=BorsodChem法と呼ばれた)
2001年6月、Milford Holdings はBorsodchem に対する法的闘争をギブアップした。
2003年4月、CE OIL & GAS の親会社のVCP Capital Partner はMilford の所有するBorsodchem 株式を買収する契約を結び、同社株を合計88.97%取得した。その後、2004年に同社は株式の一部売却を決めた。
2006 年9 月、Permira Funds とVCP Capital Partner のファンドが BorsodChem の全株式を買収した。
なお、問題の原因となったTVKは、2007年2月にハンガリーの石油大手MOLが持株を2倍に増やし、84.86%を所有している。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
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