死者4人を出した三菱化学鹿島事業所のプラント火災で、県事故調査委員会(委員長・長谷川和俊千葉科学大教授)は3月12日、最終報告書をまとめた。
火災は昨年12月21日午前11時半ごろ、第二エチレンプラント分解炉で、下請け会社の従業員らが配管の仕切板の抜き出し作業中に何らかの原因により空気駆動弁(AOV )が開いて、クエンチオイルが流出して発火した。
2007/12/24 三菱化学鹿島事業所 火災事故
各紙報道によると、報告書は、油の漏出原因について
・弁のハンドルを鎖で巻き固定する施錠がなかった
・弁を動かす元弁が開いていた
・スイッチがオンになった-と結論づけた。
発火原因は電気、静電気、高温部接触のいずれかとした。
弁は圧縮空気で動く仕組みで、つまみスイッチをオンにすると圧縮空気が送られ開放状態となる。
弁が開になっても空気の流れを遮断する「元弁」を閉めていれば油の漏出を防げたが、元弁を閉める作業は同社の操作マニュアルに記載されていなかった。
設備設置後の最初の工事(2006年2月)実施前の安全打合会で、「AOV施錠」などの安全措置を決め、工事安全指示書を作成したが、今回、メンテナンス担当による施錠の確認がされていなかった。
事故調は事故原因の核心となる弁のスイッチがオンになった経緯については明らかにしなかったが、鹿嶋署捜査本部では「仕切り板を吊り上げる鎖がスイッチに触れた可能性は高いが、断定はできない」と説明している。
管理体制については
・不安全を認識していなかった。
・必要と認識され、会合で決定されていた安全にかかわる操作をマニュアル化していなかった。
・個人の安全意識に頼り過ぎていた
と問題点を分析した。
また、報告書は、人的被害拡大の理由をめぐっては
・仕切り板入れ替え作業と断熱作業を同時並行で実施していた
・災害の緊急性を想定できず適切な避難誘導ができなかった
などの問題点を挙げた。
弁などがある階より下の階で、死亡した作業員らが工具を使ってパイプの断熱工事をしていた。
同社によると、別の階で同時に作業を行うことはマニュアルなどで制限されていない。
再発防止策として、
・仕切り板の入れ替え作業が不要となる弁への変更
・弁の施錠
・スイッチの防護を行う
・同じプラント内で複数の作業を同時に実施しない
・緊急時の避難経路を周知する
・協力会社を含めた安全管理の統括部門を新設する-などを求めた。
鹿島事業所は1999年と2004年にも、安全管理の不徹底が原因とみられる事故を起こしており、死傷者も出していた。
長谷川委員長は「過去の事故が教訓として生かされていない」と指弾した。
同社の報告によると、1999年1月に第1エチレンで死亡事故(死亡1、負傷 6 )が発生している。
http://www.meti.go.jp/press/20080109001/M.pdf (P 19ー20)熱交換器の配管を修理するため、保温材を剥がしていたところ、配管が破裂、水蒸気が噴出し、作業員が被災した。
原因は、工事に係わる安全措置確認の不足により、本来閉止すべき弁の閉止操作が行なわれず、低圧系配管に超高圧蒸気の圧力が加わったため、エロージョンで減肉していた部位が破裂したもの。同社はこの事故に対する対策として、以下の点をあげていた。
・運転指示、作業指示に係わる管理の徹底
・作業発生時の「作業安全確認書」使用の徹底(義務付け)
・「バルブ等施錠管理」の制定2004年12月には第二エチレンで分解炉への供給配管の弁から可燃物が外部に排出され、高温の蒸気ラインに触れて火災が発生した。(人的被害なし)
臨時作業であるドレン抜き作業を作業安全指示書を作成せず口頭指示で実施したことと、作業員が場所を離れ、ナフサ漏洩に気付くのが遅れたことが原因。
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これを受け、県は14日、安全管理を徹底し再発防止に努めるよう指導するとともに、再発防止策の実施状況を本年9月末と来年3月末に報告することや、火災の発火源についても新たな事実が判明次第、報告するよう求めた。
三菱化学は(1)安全管理システムの運用を統括する部門「安全文化推進室」の新設(2)避難経路の明確化(3)協力会社との連携強化ーーなどの再発防止策をまとめた報告書を提出した。
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なお、経済産業省は2月15日、三菱化学に対して、鹿島事業所の高圧ガス保安法に基づく完成検査及び保安検査に係る認定を取り消す行政処分を行った。
2008/2/15 三菱化学鹿島事業所の事故で行政処分
3月5日には第2エチレンプラントの使用停止命令が一部解除されている。
2008/3/5 三菱化学鹿島事業所第2エチレンプラント、使用停止命令一部解除
付記 三菱化学は14日、以下の発表を行なった。
3月12日に行われた茨城県による火災事故調査等委員会の第3回会合にて説明した火災事故の再発防止に向けた取り組みに関する報告書を、本日(3月14日)茨城県に対し提出し、茨城県より、再発防止策を確実に行うとともにその達成状況を半年ごとに報告するよう指導を受けました。
報告書 http://www.m-kagaku.co.jp/newsreleases/2008/20080314-2.pdf
付記 三菱化学は3月19日、操業再開を発表した。
1 操業を再開する設備
・2F-201から2F-205までの分解炉
・急冷系、圧縮系、低温精製系、高温精製系の各設備
2 操業再開後のエチレン生産能力
約32万トン/年(火災事故前の67%程度)
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
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