2008年3月期 注目会社決算 住友ベークライト

| コメント(0)

計算方法の影響の例として、住友ベークライトを取り上げる。

同社の営業損益をみると、2006年3月期に急増し、2007年3月期、2008年3月期と急降下している。

しかし、これは計算方法によるもので、実質ベースでは以下の通りとなる。
原材料価格高騰分の製品販売価格への転嫁が遅れたことや半導体業界の伸び悩みから営業利益は減少しているが、上記のような異常な形ではない。

実績と実質ベースは以下の通りとなっている。(億円)

実績                     実質ベース
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
06/3   2,411   272   286   152
07/3   2,554   178   197   119
増減    143   -94    -89   -33
08/3   2,253    90    97    22
増減    -301   -87   -100   -97
 
  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
06/3   2,411   193   207   105
07/3   2,554    171   191   115
増減    143    -22   -16    10
08/3   2,521   155   165    67
増減     -33    -16   -26   -48

差異の理由の一つは退職給付会計の数理計算差異の扱いで、同社は発生した年度において営業損益で一括処理している。 
数理計算差異は下図の三菱レイヨンの例のとおり、年金資産の評価の影響が大きく、2006年3月期には株式が大幅に上昇したため利益となり、2008年3月期は株式の暴落で下がっている。
この結果、住友ベークライトでは、2006年3月期に79億円の利益、2008年3月期に46億円の損失が営業損益に加わった。

三菱レイヨンの場合は発生した年度の翌年度に営業損益で一括処理している。
このため2006年3月期の株式値上がりが2007年3月期に150億円の益(在庫勘案で営業利益で142億円の益)となっている。
2008年3月期は28億円の損となった。
昨年の株式暴落の影響は2009年3月期に出る。(65億円の損)

差異の理由のもう一つは海外子会社の連結対象期間の変更で、本来は12月決算だが、これまでは本社決算に合わせ4-3月の仮決算で連結していた。
今回、海外子会社の国際財務報告基準での財務諸表作成などの新しい会計制度変更に適切に対応し、より迅速かつ正確な財務報告を行うことを目的とし、12月決算をそのまま採用した。そのため、2008年3月期はこれら各社は9ヶ月分の実績が参入された。

まとめると、住友ベークライトの実績と実質との差異は次ぎのとおりとなる。(億円)

  売上高 営業損益 経常損益 当期損益
06/3  数理計算差異      79    79    47
07/3 数理計算差異       6     6     4
08/3 数理計算差異      -46    -46    -27
 
08/3 決算期補正   -269    -19    -22    -18
08/3合計     (-269)   (-65)   (-68)   (-45)

 

退職給付会計の数理計算上差異の仕組みは次ぎの通り。

給付債務は当然変動するが、年金資産(信託を含む)の元が大きいため、運用する株式等の評価の変動に大きく左右される。数理計算上差異の大部分は当期の営業実績ではなく、資産評価益であり、差異が大きく出る場合は「営業損益」は歪められることとなる。

住友ベークライトの場合、表示上は営業損益の大幅減となり、株主等への印象はよくないと思われる。

数理計算上の差異は、一括処理も、平均残存勤務期間以内の一定の年数で按分して処理することも認められており、多くの会社が一定年数での按分処理をしている。(継続処理が必要)   

 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。


コメントする

月別 アーカイブ