電解二酸化マンガンに対する暫定的な不当廉売関税の賦課

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経済産業省は6月6日、オーストラリア、スペイン、中国、南アフリカから輸入される電解二酸化マンガンに対して暫定的な不当廉売(アンチ・ダンピング)関税を賦課すると発表した。

昨年1月に東ソーと東ソー日向が不当廉売関税の課税申請を行い、4月から調査を行なってきた。6日に関税・外国為替等審議会から答申があったもので、10日に閣議決定し、14日から開始される。

暫定的な不当廉売関税率は以下の通り。

  関税率 不当廉売差額
(輸出価格=
100
オーストラリア  29.3%   41
スペイン  14.0%   17
中国(紅星大龍)  34.3%   43 *
中国(その他)  46.5%   74 *
南アフリカ  14.5%   18

* 中国の生産者の正常価格については、平成13年の中国のWTO加盟時の取り決めに基づく特例措置(下記)により算定した。

米国、EUも電解二酸化マンガンに対し不当廉売課税をしている。  

米国 オーストラリア   120.59% 2008/3 暫定措置
中国  236.81%
EU 南アフリカ   17.1% 2007/9 暫定、2008/3 確定措置

ーーー

不当廉売関税制度は、関税定率法第8条、不当廉売関税に関する政令に基づく。
(WTO協定上はガット第6条、ダンピング防止協定)

不当廉売された輸入貨物に対し、同種の貨物を生産する国内産業を保護するために割増関税を課するもので、
適用要件は:
 (1) ダンピング輸入の事実
 (2) 損害等の事実、因果関係
 (3) 産業保護の必要性

以上の要件を充足する場合、
 不当廉売差額〔(正常価格)-(不当廉売価格)〕と同額以下の割増関税を課する。

暫定措置の期間は原則4か月以内。
利害関係者の反論、反証を受けた後に最終決定を行なう。
確定措置の期間は原則5年間以内となっている。

 

今回の調査の結果は以下の通り。

(1) ダンピング輸入の事実 
上記表の「不当廉売差額」の存在

不当廉売差額は、個々の生産者から提出された証拠に基づいて、工場出荷段階を原則に調整した上で算出した。
中国の生産者の正常価格については、平成13年の
中国のWTO加盟時の取り決めに基づく特例措置により算定した。

WTO協定では「貿易の完全な又は実質的に完全な独占を設定している国ですべての国内価格が国家により定められているもの(「非市場経済国」)からの輸入の場合には、規定の適用上比較可能の価格の決定が困難であり、また、このような場合には、輸入締約国にとって、このような国における国内価格との厳密な比較が必ずしも適当でないことを考慮する必要があることを認める。」と規定している。

「非市場経済国」の場合、ダンピング調査の際に、輸出価格は、国内価格との比較ではなく、経済発展レベルが近い代替国の価格と比較して判定される。EUは中国に市場経済国待遇を適用せず、しかも中国よりコスト水準の高い国を代替国に採用するケースが多く、この結果、ダンピングと判定される確率も高くなっているといわれている。

2006/2/27  EU、中国・ベトナムの革靴に反ダンピング税 

日本の場合は、中国の調査対象企業自らが、
 ① 生産者が政府から独立して市場原理に基づき意思決定していること
 ② 市場価格での原料購入
 ③ 労働者との賃金交渉
 ④ 生産手段の自己管理
 ⑤ その他(国際会計基準に基づく会計処理)
を立証しない限り、輸出価格と比較する対象を中国の国内価格等ではなく、第三国での国内価格等を用いることができることとしている。

紅星大龍は価格決定に関する証拠を提出したが、地方政府が間接的な株主となっている等、生産者の事業活動が政府から独立していないものと考えられ、市場原理により生産価格、販売価格が決定されている証拠は明確に示されなかったことなどから、特例措置を適用した。

(2) 損害等の事実、因果関係

   平成16年度を100として、平成18年度には、
    国内総需要が90に減少し、
    国産品の国内販売量が54に減少し、
    国内産業の市場占拠率が60に減少しているのに対して、
    4ヶ国からの輸入量は166に増加している。

   この結果、国内産業の利潤、雇用等が大幅に減少しており、国内産業に損害が生じている。 

(3) 産業保護の必要性

   国内産業は大幅に収益等が悪化していること、
   EC、米国が不当廉売関税を発動し、我が国への販売圧力が強まること、
   から、緊急に損害の拡大を防止する必要がある。

ーーー

電解二酸化マンガンは、主に一次電池(マンガン電池、アルカリマンガン電池等)の正極材料として使用。その他、マッチ原料、ガラス工業用途(着色)、触媒原料等にも利用される。

メーカー:
 東ソー㈱、東ソー日向㈱ 日向工場  (東ソー日向は東ソーの100%子会社)
 三井金属鉱業㈱ 竹原工場

輸入量: 単位 トン(2006年度)
南アフリカ  2,654 17.5%
スペイン  2,600 17.2%
豪州  5,671 37.4%
中国  4,111 27.1%
その他   124   0.8%
総輸入量 15,160 100.0%
  * 2004年度は 9,225トン

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我が国における不当廉売関税の申請及び課税の状況は以下の通り。
①フェロシリコマンガン(中国、南アフリカ、ノルウェー産)
  1993年 中国産に不当廉売関税課税
        (中国2社とは価格約束)
  1998年 課税期間満了

②パキスタン産綿糸
  1995年 不当廉売関税課税
  2000年 課税期間満了

③ポリエステル短繊維(韓国、台湾産)
  2002年 不当廉売関税課税
  2007年 延長

 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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