日中両政府は18日、懸案になっていた東シナ海のガス田開発問題で合意した。
1.日中の中間線をまたぐ北部の海域(龍井ガス田の南)に「共同開発区域」を設定。
採掘場所を共同探査で絞り込む。収益配分の方法などは今後の交渉で決める。
東シナ海のその他の海域における共同開発をできるだけ早く実現するため、継続して協議を行う。
2.春暁ガス田については日本法人が出資、日本が一定の権益を確保する。
(中国の海洋石油資源の対外協力開発に関する法律に従って)
付記
日中の東シナ海ガス田協議で、龍井(日本名:翌檜)を共同開発の対象としないことで合意していたことが20日、分かった。
日中ともに単独開発も行わず、翌檜は事実上放棄される。
翌檜は〈1〉中国と韓国の境界の基準となる「中間線」〈2〉日韓大陸棚共同開発区域――に近接しており、開発すれば韓国と摩擦を生じかねないと判断、韓国に配慮した。
2004年6月に中国が日中中間線近くでガス田の開発に着手したことが表面化し、日本が抗議してから4年を経て、問題は一応の決着を迎えることになった。
(平湖ガス田は上海天然気公司が1998年から生産を開始しており、上海まで389kmのパイプラインでガスを送っている。)
問題の発端は、東シナ海での境界が未画定であることである。
国連海洋法条約には境界について次の2つの規定がある。
第15条では「中間線」としている。
二の国の海岸線が向かい合っているか又は隣接しているときは、いずれの国も、両国間に別段の合意がない限り、いずれの点をとっても両国の領海の幅を測定するための基線上の最も近い点から等しい距離にある中間線を越えてその領海を拡張することができない。ただし、この条の規定は、これと異なる方法で両国の領海の境界を定めることが歴史的権原その他特別の事情により必要であるときは、適用しない。
第77条は「大陸棚に対する沿岸国の権利」を認めている。
1 沿岸国は、大陸棚を探査し及びその天然資源を開発するため、大陸棚に対して主権的権利を行使する。 2 1の権利は、治岸国が大陸棚を探査せず又はその天然資源を開発しない場合においても、当該沿岸国の明示の同意なしにそのような活動を行うことができないという意味において、排他的である。 3 大陸棚に対する治岸国の権利は、実効的な若しくは名目上の先占又は明示の宣言に依存するものではない。 4 この部に規定する天然資源は、海底及びその下の鉱物その他の非生物資源並びに定着性の種族に属する生物、すなわち、採捕に適した段階において海底若しくはその下で静止しており又は絶えず海底若しくはその下に接触していなければ動くことのできない生物から成る。
このほか、「衡平の原則」(Equitable Principle) がある。
北海大陸棚事件(西ドイツ対デンマーク、西ドイツ対オランダ、1969年判決)で国際司法裁判所は、大陸棚を「陸地領土の延長又は連続」と定義し、これを根拠に大陸棚を沿岸国領域の一部とみなしうる、と判断した。
大陸棚の境界画定の原則については、衡平の原則に従い、かつすべての関連ある状況を考慮に入れて、各当事国の合意によって決定されるものとした。
点線が「等距離原則」によるドイツの領域、
国際司法裁判所は「衡平の原則」により赤色の線内をドイツの大陸棚と設定した。
日本は国際司法裁判所の判例などに照らして「重なる場合は中間線が境界」と主張してきた。
一方、中国は、大陸棚の資源開発などには沿岸国の主権的権利が及ぶとする同条約の「大陸棚自然延長論」を主張、「沖縄トラフ」が境界だとしている。
国際裁判の判例は、1960年代までは大陸棚の自然延長論を採用した例もあったが、80年代からは、「等距離原則」が定着している。
日本は国際司法裁判所や国連海洋法裁判所に付託する事を中国に要請しているが中国はこれに応じていない。
中国側が開発する4つのガス田、春暁(日本語名白樺)、断橋(楠)、天外天(樫)、龍井(翌檜:アスナロ)はいずれも中間線の中国側にあるが、2005年4月に経産省が「白樺」「楠」「翌檜」の地質構造が中国側と日本側でつながっているとの調査結果を発表、日本側のガスを吸い上げているとして中止を要求した。
また、これまで日本側海域での採掘は控えていたが、2005年7月に中国側に対抗して、帝国石油に中間線の日本側海域でのガス田試掘権を付与した。(安全保障面や経済面等で政府側との調整が進んでない)
今回の合意は、境界画定を棚上げした形で決着した。
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今回の合意には多くの問題が指摘されている。
1.境界画定を棚上げ
付記
日中共同プレス発表は次の通りで、添付地図からは双方主張の境界線が消されている。
日中双方は、日中間で境界がいまだ画定されていない東シナ海を平和・協力・友好の海とするため、2007年4月に達成された日中両国首脳の共通認識及び2007年12月に達成された日中両国首脳の新たな共通認識を踏まえた真剣な協議を経て、境界画定が実現するまでの過渡的期間において双方の法的立場を損なうことなく協力することにつき一致し、そして、その第一歩を踏み出した。今後も引き続き協議を継続していく。
2.「共同開発区域」の設定と春暁ガス田への日本法人の出資が決まっただけで、詳細はすべて今後協議。
いずれも「早期に締結すべく努力する」としている。
「共同開発区域」はガスの存在は不明。
中間線より日本側海域の方が中国側より面積が広い(日中関係筋)。
春暁出資は中国の海洋石油資源の対外協力開発に関する法律に従って行なうとなっており、中国の事業への参加に過ぎない。
(春暁などには2003年8月にShellとUnocal が20%ずつ権益を取得した。
2004年9月に「商業上の理由」で撤退した。)
3.断橋(楠)、天外天(樫)、龍井(翌檜)には触れず。
「東シナ海のその他の海域における共同開発をできるだけ早く実現するため、継続して協議を行う」としている。
龍井(翌檜)については上の付記参照
4.採掘可能埋蔵量は少ない。
中国側によると、東シナ海全体のガス田の埋蔵量は石油換算で1.8億バレル。
日本が出資する白樺の埋蔵量は6,380万バレルで、日本で消費する石油・天然ガスの約10日分。
ガス田名 採掘可能埋蔵量
(石油換算)白樺(春暁) 6,380万バレル 楠 (断橋) 1,520 樫 (天外天) 1,260 翌檜(龍井) 不明
5.ガス運搬問題
日本までのパイプライン(600km) は事業採算は合いにくいとみられる。
(平湖ガス田~上海のパイプラインで中国に運ぶ案が有力)
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注. 日韓大陸棚共同開発
1978年6月22日に発効した日韓大陸棚協定(2つの協定の通称)の②によるもの。
韓国が日韓中間線を超えて南側の東シナ海の大陸棚及び沖縄舟状海盆の一部に鉱区を設定したことが契機となった。
①「日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の北部の境界画定に関する協定」(略称:北部協定)
北緯33度付近から36度付近にかけての両国の大陸棚の境界を画定したもの。
境界線は対馬海峡西水道を通過するが、両国の領海基線に対してほぼ中間線となっている。
②「日本国と大韓民国との間の両国に隣接する大陸棚の南部の共同開発に関する協定」(略称:南部協定)
境界画定を棚上げして石油・天然ガス資源の共同開発についてのみ細目にわたり協定した。
50年の最低効力期間を設けている。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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