三菱ガス化学の前身の日本瓦斯化学が所有していた工場跡地で見つかった有害物質をめぐり、東京都が公害防止事業者負担法に基づき除去費用の一部約11億6000万円の負担を命じたのを不服として、三菱ガス化学が決定取り消しを求めた訴訟の控訴審(一審は同社の敗訴)の判決が20日、東京高裁であった。
大坪丘裁判長は、「有害物質は、跡地で以前操業していた別の会社が更地にした過程で投棄された」と判断、「以前、操業していた会社を引き継いだ日本瓦斯化学と合併した三菱ガス化学は、法律の『公害の原因を作った会社』にあたり、除去費用を負担しなければならない」として1審東京地裁判決を支持、三菱ガス化学の控訴を棄却した。
事態:
東京都下水道局が、2000年2月ころ、共栄化成の工場跡地である東京都大田区大森南の区道で行った工事の掘削土からPCBが検出された。
大田区でボーリング調査を行った結果、高濃度のPCB及び土壌環境基準の16倍に当たるダイオキシン類が検出された。
東京都は、工場撤去時に埋められたとして、ダイオキシン類対策特別措置法及び公害防止事業費事業者負担法に基づき、「土壌汚染対策計画」及び「費用負担計画」を告示、2001年と2003年に計約11億6000万円の除去費用を三菱ガス化学に負担させる決定をした。
三菱ガス化学は2001年11月にこれを不当として決定取り消しを求めた訴訟を行なったが、2006年2月、地裁は請求を棄却した。
今回の裁判は、三菱ガス化学がこの判決を不服として控訴していたもの。
背景:
共栄化成は昭和28年、東京都大田区の工場で無水フタル酸の製造、販売を開始した。
同社は昭和35年ころ以降、原料ナフタレンを過熱して液状にするための熱媒体として、燃えにくいPCBを使用した。
日本瓦斯化学は、無水フタル酸の安定供給を確保することを目的として、昭和35年に共栄化成の株式10万株を取得、昭和37年には30万株を取得して100%子会社とした。
更に、工場用地も買い取って同社に賃貸した。
共栄化成はその後、業績が悪化、昭和39年2月に不渡りで事実上倒産した。操業を停止し、債権者とのやり取りの結果、金融機関に対する借入金の代位弁済、一般の債権者からの債権の買取り等により、日本瓦斯化学が共栄化成に対する唯一の私債権者となった。
日本瓦斯化学では、水島工場で無水フタル酸の精製増加を計画し、共栄化成の精製装置の一部を買い取ることとした。
昭和39年末から40年3月にかけて、同社が斡旋・選定した外部業者に委託して、工場の建物等の解体作業を行った。
工場設備は撤去され、工場跡地は更地化され、共栄化成は解散した。
その後、日本瓦斯化学の所有する土地は分筆され、一部は大田区に売却され、他も各社に売却された。
昭和46年、三菱江戸川化学と日本瓦斯化学が対等合併し、三菱ガス化学が発足した。
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東京地裁判決:
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20060406111718.pdf
争点は次の2点であった。
(1) 本件PCBは、共栄化成の工場跡地を更地化した際に地中に排出したものか否か。
(2) 三菱ガス化学が、負担法3条の規定する「事業者」に該当するか否か。
判決は以下の通り。
(1)について
工場の建物設備の撤去及び跡地の更地化の過程で、広範かつ大がかりな土地の掘削と埋め戻しが行われ、その際、工場で熱媒体として使用されていたPCBが、潤滑油として使用されていた油分及び解体、撤去時に生じたレンガ片、コンクリート塊、ガラ、瓦礫類等とともに、埋め戻しの土に混入され、地中に埋められた蓋然性は高い。
共栄化成以外の第三者によるPCBの使用あるいは地中への排出を疑わせる具体的事実がうかがえない。
PCBは加熱により劣化しにくく、再利用が可能であることから、共栄化成が通常の操業継続中の時期に、大量にこれを投棄する理由が存したとは考え難く、また、大量に地中に漏出したことをうかがわせる証拠もない。
(2)について
三菱ガス化学は、共栄化成がPCBを工場跡地の地中に排出したしても、共栄化成と別人格であり、自らPCBを使用する事業を継続して行っていたわけではない日本瓦斯化学を合併した三菱ガス化学は、「公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者に当たるとはいえないと主張した。
しかし、負担法は、公害が環境に及ぼす有害な結果の重大性にかんがみ、公害防止事業に要する費用を、広く当該公害の原因を作出した者に負担させることを企図しているものと解され、このような法の趣旨にかんがみると、負担法3条の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った事業者について、自ら当該PCBを使用する事業を継続して行う者に限定して解する理由はなく、また、その事業活動を継続的なものに限定する理由もないというべきである。
ダイオキシン類が排出されたのは、共栄化成の私的整理から清算に至る過程でのことで、日本瓦斯化学は、 | |
・ | 当時、共栄化成の全株式を保有し、役員を派遣するなどして経営を支配しており、 |
・ | PCBを使用していた工場の敷地及び建物の約半分につき所有権を取得して共栄化成に賃貸し、 |
・ | 共栄化成が事実上倒産した後、残存原材料を日本瓦斯化学の水島工場で利用する目的を有し、共栄化成の従業員の多数を雇用するなど、実質的に共栄化成の営業の一部又は重要な財産の一部を承継する一方、 |
・ | 共栄化成の他の債権者からその債権を買い取り、自己の債権回収を進める中で、 |
・ | 工場撤去や資産の売却方針の決定等に主導的役割を果たしていたもので、工場設備の撤去の作業に対して指揮監督を及ぼすことが可能であったことが認められる。 |
このような事実関係の下では、日本瓦斯化学と三菱江戸川化学が対等合併して発足した三菱ガス化学は、負担法3条所定の「当該公害防止事業に係る公害の原因となる事業活動」を行った者に当たるとみるのが相当である。
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今回の高裁判決は、この地裁判決を支持したもの。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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