BPは9月4日、折半出資するロシア石油大手TNK-BPの経営問題で、ロシア側株主と和解したと発表した。
TNK-BPではBPとロシア側株主との間で、経営方針を巡り、対立していた。
同社は折半出資だが、CEOの任命権をBPが持ち、多くの経営幹部や技術者がBP出身であるなど、BP主導で運営してきた。
本年7月、ロシア側株主がBP出身のDudley社長の雇用契約が2007年末で切れているとして、新社長の選出を求める訴訟を起こした。
ロシア連邦出入国管理局は雇用契約切れを理由に、10日間有効な暫定ビザを発行した。
BPは対抗してBPの技術専門スタッフ全員をロシアから引揚げた。
Dudley社長は暫定ビザ期限切れ前に出国し、中欧に滞在して、そこから社長業務を行なった。
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BPとロシア側株主は同日、基本合意書を交わした。
Dudley社長は年末までに退任し、新社長をBPから出し、取締役会の承認を得て就任する。
新社長はロシア語を話し、ロシアでのビジネス経験が豊富との条件も付けた。
取締役は双方から4人ずつ出し、そのほかに、両者と無関係の3人の取締役を選任する。
経営委員会メンバーは現在の14人から大幅に減員する。
合弁会社は従来通り、英国法の下で運営する。
TNK-BPは、BPの全原油・ガス生産の4分の1を占める。
このため、BPでは「問題を解決するためにあらゆる方策を検討する」と徹底抗戦の構えを見せていたが、ロシア側に譲歩する形となった。
しかし、将来的にロシア側が経営権を要求する可能性も残っている。
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TNK-BP はロシアで3番目に大きい石油会社である。
BPとAlfa Access Renova group が50%ずつ所有している。
Alfa Access Renova は3社の連合。 ・ Alfa Group は、ロシアの新興財閥で、ロシア最大の金融産業コングロマリットのひとつ。中心のアルファ銀行のほか、石油及びガス、消費財取引、保険業、小売業と電気通信分野などグループ企業は広範である。
Mikhail Fridman と German Khan が50%ずつ保有。・ Access Industries はロシア生まれの Len Blavatnik が設立し所有する米国の投資会社で、Basellを買収した。
参考 2006/6/15 Basellの買収
2007/5/16 Access Industries の会長、Lyondell Chemical の株式を購入・ Renova Holding はロシアの長者番付では第5位のViktor Feliksovich Vekselberg (SUALの大株主)の所有するベンチャーキャピタル。
Alfa Group とAccess-Renovaは共同でTyumen Oil Co.(TNK)を所有していた。
Tyumen Oil Co.(TNK)は1995年に西シベリアのハンティ・マンシ自治管区の要請で100%ロシア国営企業として発足した。
1997年、1999年に政府株は公開され、Alfa Group とAccess-RENOVAが50/50で買収した。
TNKは当初は中堅石油企業であったが、垂直統合、資本投資、生産会社の吸収合併、破産法を利用した企業買収を行い、大企業となった。石油会社のOnako、 Kondopetroleum、Sidanko などを買収した。2002年末にはSibneft (現Gazprom Neft )と折半出資でSlavneftの74.95%を落札した。
2003年、BPと Alfa Access Renova はロシアとウクライナにそれぞれが所有する石油資産を共同で所有する戦略的パートナーシップの設立を発表、50/50所有の TNK-BP が設立された。
Alfa Access Renova はTyumen Oil Co.(TNK)株の97%とSidanko株の56%を新会社に移管、
BPはSidanko株の25%、サハリン5の事業権益、モスクワのガソリンスタンドを新会社に移管した。
2004年1月、Alfa Access Renova の持つSlavneft の持分をJVに移管することが合意された。
これにより、TNK-BP はロシアとウクライナで上流部門から下流部門まで一貫操業を行ない、生産子会社15社、精製子会社5社(うちロシア国内は4社)、販売子会社11社を保有する。
上流の事業は、西シベリア、東シベリア、ヴォルガ/ウラルにある。
2007年の生産量は石油換算で平均160万バレル/日で、Slavneft の持分50%を含めると180万バレル/日となる。
埋蔵量及び生産量で、Rosneft とLukoil に次ぎ、ロシアで第三位となる。
2008年上半期には、前年同期の利益21億ドルの2倍以上の47億ドルの利益を計上している。
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TNK-BP は2007年6月、東シベリアのKovyktaガス田などの権益をロシア政府系エネルギー会社、Gazpromに売却することを決めた。ロシア政府から圧力を受けたため。
TNK-BP は東シベリアのKovykta ガス田の権益を持つRusia Petroleum 社の持分62.89%と、ガスの輸送・販売会社 East Siberian Gas の持分50%をGazpromに譲渡する。Gazprom は代価として$700-$900 百万ドルを支払う。
(Rusia Petroleum の他の株主はロシアの投資会社Interros とIrkutsk の地方政府)
同時に、BP とTNK-BP はGazpromとの間で世界中で共同でエネルギー事業に長期的に投資する戦略的協調のMOUを締結した。
TNK-BPはKovykta ガス田のガスを中国、韓国などに供給すべく、パイプライン敷設のFSを実施していた。
蒙古を経由するライン、経由しないライン(北朝鮮を経由するラインと経由しないライン)などが考えられていた。
2007/6/26 BP、Gazpromにロシアのガス田売却
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上記の通り、TNK-BP はBPとロシア側の折半出資だが、CEOの任命権をBPが持ち、多くの経営幹部や技術者がBP出身であるなど、BP主導で運営してきた。
BPに対するロシア側の不満は以下の通り。
・BPの海外展開にTNK-BPも参加させるべきだ。(ベネズエラ、ポーランド、イラクなど)
・BP側からの出向者の給与が高すぎ出資者に損害を与えている。
・長期的な油田開発ではなく短期的な収益増を。
要はTNK-BPという会社がBPの利益ための会社であって、ロシアの為の会社でないという点にある。
ロシア側にはそもそも50/50が不公平との感があった。
ロシア側の拠出した石油資源はJVのベースとなるが、BP側は規模の小さな石油資源とガソリンスタンド網のみであった。
しかし、ロシア側株主には石油会社の経営の経験が少なく、BPの経験と技術力が非常に魅力であった。
また、BPによる追加資金投入と、海外進出への協力を期待した。
これに対してBP側はロシアの石油資源とロシア市場が狙いであり、既に目的を達していた。
TNK-BPを海外市場に参入させる考えは全くなかった。(これはロシア政府の希望にも反した)
両者の思惑の食い違いが今回のトラブルの原因となった。
BP側もロシア側も相手に持分を売却して撤退する考えはなく、今後もトラブルが発生する可能性は大きい。
場合によってはロシア政府が介入することも十分考えられる。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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