米ラスカー賞に遠藤章・東京農工大名誉教授

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Lasker Foundation 913日、優れた医学研究者に贈る「ラスカー賞 Lasker Award 」の今年の受賞者を発表した。

 基礎医学研究賞(Albert Lasker Basic Medical Research Award)
   Victor Ambros  (54) University of Massachusetts Medical School, Worcester
   David Baulcombe  (56) University of Cambridge
   Gary Ruvkun
(56) Massachusetts General Hospital, Boston and Harvard Medical School
   * microRNAs の発見

 臨床医学研究賞(Lasker-DeBakey Clinical Medical Research Award )
   遠藤章 Akira Endo
(74) Biopharm Research Laboratories, Inc., Tokyo
   * Statin の発見

 特別貢献賞(Lasker-Koshland Special Achievement Award in Medical Science )
   Stanley Falkow
(74) Stanford University School of Medicin
   * 51年にわたるバクテリアの研究

ラスカー賞は医学分野で画期的な成果を上げた研究者に贈られるもので、Albert Lasker と、彼の妻 Mary Woodard Laskerによって1946年に始まった。

ラスカー賞はしばしば「アメリカのノーベル生理学・医学賞」とも呼ばれる。実際、ラスカー賞を受賞した人のうちの75人が、さらにノーベル生理学・医学賞を受賞した。

日本人ではこれまで、下記4名が基礎医学研究賞を受賞している。
  1982年 花房秀三郎 がんの発生する仕組みの解明
  1987年 利根川進   多様な抗体が作られる遺伝的原理
  1989年 西塚泰美   「Cキナーゼ」の発見とその機能の解析
  1998年 増井禎夫   細胞分裂のカギを握る物質の発見

臨床医学部門の遠藤章・東京農工大名誉教授の受賞業績は、血液中のコレステロール値を下げる物質「スタチン」の発見。
治療薬として製品化され、心臓病の治療や予防に大きな進歩をもたらしたことが評価された。

遠藤氏は三共(現第一三共)の研究者だった1973年、コメの青カビがつくるスタチンを発見。これが血液中のコレステロール値を下げることを動物実験で確認した。

Statin はHMG-CoA還元酵素の働きを阻害することによって、血液中のコレステロール値を低下させる薬物の総称である。

発見の経緯は同氏の著書、岩波科学ライブラリーの「新薬スタチンの発見 コレステロールに挑む」に詳しく書かれている。

ーーー

1960年代初めまでに、高コレステロール血症が冠動脈疾患の重要な危険因子の一つであることが明らかになっていた。

同氏は三共在職中にコレステロール低下剤の開発を目指し、カビやキノコなどの中にコレステロールの合成阻害物質があると考えて微生物を調べ、1973年に青カビからコレステロール合成阻害剤スタチン1号のコンパクチンを発見した。

ラットのテストでは効果がなかった(理由あり)が、たまたま行なったニワトリのテストとその後の犬のテストで劇的な効果があった。

しかし安全性で疑問が出て、お蔵入り目前となったが、他に治療方法がない重症患者に医師の判断で投与してもらい、成功、再復活した。

遠藤氏は1978年に三共を退職、東京農工大で研究を続け、モナコリンを発見した。

Merck 1976年に三共からコンパクチンのサンプルや資料を受け取り、研究をしていた。
同社もモナコリンと同じものを発見したが、特許出願日の差で日本などではモナコリンの特許が成立した。(米国では先発明主義で
Merck のメビノリンの特許が成立)

1980年、三共は突如、コンパクチンの研究を中止した。(理由は明確でない)
このため「発がん性」の噂が世界に広まった。

1984年、Merck は三共の中止を受けて中断していたロバスタチン(モナコリンとメビノリンの総称)の臨床試験を再開した。
徹底的なテストで安全性を確認した。

1986年、FDAMerck のロバスタチン(商品名メバコア)の新薬承認を決定した。

現在、高コレステロール血症や心筋梗塞などの治療・予防薬として7種(日本では6種)のスタチンが商業化され、100カ国以上で販売され、3000万人が服用しているとされる。

  主な商品名 製薬会社 備考
アトルバスタチン リピトール アステラス製薬/Pfizer  
シンバスタチン リポバス(Zocor) 万有製薬/Merck  
ピタバスタチン リバロ 興和創薬  
プラバスタチン メバロチン(Pravachol) 第一三共/Bristol-Myers Squibb 1989年
フルバスタチン ローコール Novartis Pharma/田辺三菱製薬  
ロスバスタチン クレストール 塩野義製薬/AstraZeneca  
ロバスタチン メバコール Merck 1987年
セリバスタチン セルタ、Baycol Bayer/武田薬品 副作用のため各国で回収

7つの大規模臨床試験から、スタチンは悪玉LDLコレステロールを25~35%下げ、心臓発作の発症率を25~30%下げるのに加え、脳卒中の発症率も25~30%下げることが示された。
そのため、スタチンは「動脈硬化とコレステロールのペニシリン」「ペニシリンと並ぶ奇跡の薬」と呼ばれる。
さらに、アルツハイマー病、骨粗鬆症、多発性硬化症と一部の癌を予防することも示唆されており、「万能薬」とも呼ばれる。

2005年の世界の医療用医薬品売上高ベストテンにはスタチンが2つ入っている。
  ①リピトール(Pfizer/アステラス) 12,963百万ドル
  ⑧ゾコール(リポバス)(Merck)   4,382百万ドル
 


* 総合目次、項目別目次は
   http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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