ミドリ十字と田辺三菱製薬

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田辺三菱製薬は薬害肝炎訴訟で和解するが、この問題は薬害エイズ事件と同様、ミドリ十字が起したものである。
田辺三菱製薬は合併を通じて、これを引き継いだ。


田辺三菱製薬の推移は以下の通りで、1998年4月に吉富製薬がミドリ十字と合併し、2001年10月に更に三菱東京製薬と合併した。


吉富製薬や三菱化学は合併に際して、薬害肝炎問題をどう見ていたのであろうか。

当時の記事を調べてみた。

薬害患者による提訴こそ、両合併の後の2002年10月であるが、両合併のはるか以前に大問題になっている。
1988年にミドリ十字は緊急安全性情報を配布し返品を要請している。

   企業  薬害エイズ  薬害肝炎
1976 ミドリ十字   フィブリノゲン製造承認
1980   ↓   米国で同製剤の承認取り消し
1985   ↓ 厚生省専門家会議で
初のエイズ認定
不活化処理方法の変更
(危険性を一層高めた)
1988   ↓   返品要請(以後、販売数量激減)
1989   ↓ 損害賠償請求訴訟  
1996/3   ↓ 和解  
1997/2 吉富製薬/ミドリ十字 合併発表     
1998/4 合併→吉富製薬    
2000/4 社名変更→ウェルファイド    
2000/11 ウェルファイド/三菱東京製薬 合併発表    
2001/10 合併→三菱ウェルファイド    
2002/10     提訴
2007/10 三菱ウェルファイド/田辺製薬合併
  →田辺三菱製薬
   
2008/1     薬害肝炎救済法成立

両合併に際して、薬害エイズ問題は懸念されているが、肝炎問題は一切表面に出ていない。新聞記事も触れていない。

吉富製薬の場合は厚生省などからの要請もあったと思われるが、三菱の場合は成長戦略による判断のようだ。

ミドリ十字が薬害エイズ被害者への和解金支払いや不買運動の影響などで業績が悪化し、自主再建を断念したのは明らかであったが、肝炎問題について同じようなことになるとの懸念を持たなかったのであろうか。

ーーー   

1997年2月、ミドリ十字と吉富製薬は同年10月1日付で合併すると発表した。(手続面で1998年4月1日に延期された)

ミドリ十字
は約240億円に上る薬害エイズ被害者への和解金支払いや不買運動の影響などで業績が悪化し、96年9月中間期に71億円の最終損失を計上していた。自主再建を断念し、吉富に事実上の救済合併を仰ぐ。

2008/1/24 資料 薬害エイズ事件

吉富製薬は1940年に武田長兵衛商店(武田薬品工業)と日本化成工業三菱化学によ武田化成として設立され、1946年に吉富製薬と改称した。東証1部上場。

両社トップは「独自の判断」を強調するものの、突然の合併劇の背景には厚生省の後押しがあったとみられた。
厚生省は、
ミドリ十字が経営悪化によって薬害エイズ問題の責任を全うできなくなる事態を最も心配していたため、合併による経営基盤の強化は患者の将来への不安解消にもつながるとの薬務局長談話を発表した。
「厚生省が間に入り、吉富の大株主である武田に救済を依頼した」との観測は根強かった。

吉富製薬は以下のように述べた。

合併は中長期的にみて吉富にとってもプラスであり、あくまで吉富とミドリの自主的な判断。

ミドリは企業イメージこそ失墜したが、生物学的製剤技術や国際展開で独自の強みを持つ。
同社が開発中の遺伝子組み換え型アルブミンは将来300億円規模の市場との予測もある。
エイズの遺伝子治療薬も開発中で、米国子会社Alpha Therapeutic も持つ。

吉富は企業規模こそミドリよりも大きいが国際化は遅れている。
医療費抑制策進行で規模拡大の必要性が高まっている。

ミドリの和解金240億円の残額は101億円だが、両社合計の株主資本は1,287億円と余裕があり、ミドリの業績が回復していることから心配はしていない。

あくまで「自主判断」としているが、ミドリ十字の救済であることを匂わしている。

HIV訴訟はミドリにとって大変な問題だが、二度と薬害を起さないように社内体制を充実しており、信頼できると思う。
ミドリは血液製剤で大きなシェアを持っており、もし生産中止になれぱ医療面で大きな影響を与えることになる。

武田薬品は「一部上場企業の吉富製薬が決定することであり、当社は吉富の経営判断を尊重する」とのコメントを出した。

日本経済新聞は、「新会社はミドリから和解金だけでなく、企業の社会的責任をすべて引き継ぐ。血友病患者以外のHIV感染者との和解交渉もある。ミドリは歴代3社長の逮捕・起訴で厳しく問われた企業倫理に対し社会的に十分こたえたとはまだ言い難い。新会社が新たに抱えた課題は極めて大きい」としている。

ーーー

その後、<p><p>HTML clipboard</p></p>(合併会社が改称した)ウェルファイドは危機に陥った。

米国の血液製剤子会社Alpha Therapeutic が2000年7月に米食品医薬品局から製造設備の無菌性試験のやり方などについてクレームを受け、再試験と製造・出荷の停止を命じられた。
この結果、Alpha Therapeutic の2000年12月期は180億円の最終赤字に陥り、ウェルファイド本体も初の連結赤字が避けられない見通しとなった。
同社の株価は1,700円台から瞬く間に800円を割り込んだ。
最安値で算出した時価総額は約2千億円で、海外の製薬企業からTOBをかけられかねないとの懸念が出た。

ミドリ十字はAlpha Therapeutic を Abbott から買収した。
ミドリ十字の血液製剤の問題は
、Alphaから輸入していた原料血漿にHIVが混入していたことから起こった。

その後の合併後の2003年に、三菱ウェルファイドはAlpha Therapeutic の血漿採漿部門をBaxter Healthcare に、血漿分画事業をProbitas Pharma に譲渡し、米国における血漿分画事業から撤退した。

ーーー

2000年11月、ウェルファイドと三菱東京製薬の合併が発表された。

合併は三菱化学が主導したと言われる。

三菱化学は主力の石油化学事業の収益が厳しく、収益牲が高い医薬品事業を21世紀のグループの大きな柱に据えた。
三菱化学は1999年10月に東京田辺製薬を吸収合併し、医薬部門を分離して三菱東京製薬を設立したが、売上高は900億円に過ぎなかった。(ウェルファーマは1,991億円)

東京田辺製薬と田辺製薬はともに田邊五衛商店から出ているが、資本関係は無かった。
東京田辺製薬は1900年代初頭に田邊五兵衛商店から田邊元三郎商店として独立し、その後東京田辺製薬と改組した。
一時期、田辺-東京田辺間で東日本・西日本の営業地域分けを行っていたこともある。

外資が対日攻勢をかける中で、医藥品事業を国内大手の一角まで押し上げることが必要であった。
当時の三菱東京製薬の富沢社長は「国内で5位以内でなければ、存在感をもって生き残るのは難しい」と危機感を募らせていた。
「海外製薬会社との連携は必要だが、国内5位の基盤ができれば、海外の大手とも一方的な強者・弱者の関係でなく、話ができるようになる」としている。

ウェルファイドとは前身の吉富製薬の発足時からつながりは深かった。
また、三菱にとって、「ほかの選択肢はあまり無かった。」

ウェルファイドも「世界的に存在感のある企業にしたいが、今の規模では力不足」としており、上記のように海外企業からの買収懸念もあり、両社の思惑が一致した。

ウェルファイド側は「国内勢との合併による規模の拡大→経営の独立性を保ちながら欧米企業と提携」という構想を述べているが、三菱化学が合併会社・三菱ウェルファーマの筆頭株主となり、更に田辺製薬との合併で田辺三菱製薬となって三菱ケミカルホールディングスの三本柱(三菱化学、三菱樹脂、田辺三菱製薬)の一つとなり、上場はしているが、完全に三菱ケミカルの一員となっている。

医薬品メーカー 売上高ランキング 単位:億円
     
 2000年3月期連結売上高    参考 2008年3月期(中外は12月決算)
1 武田薬品工業  9,231
2 三共  5,897
3 山之内製薬  4,336
4 塩野義製薬  4,002
5 エーザイ  3,024
6 第一製薬  3,005
7 藤沢薬品工業  2,891
  三菱ウェルファーマ  
8 大正製薬  2,752
9 ファイザー製薬  2,061
10 ウェルファイド  1,991
11 中外製薬  1,955
  三菱東京製薬   900
 :
1 武田薬品工業   13,748
2 アステラス製薬   9,726
3 第一三共   8,801
4 エーザイ   7,343
  田辺三菱製薬(実質)   4,094
5 中外製薬   3,448
6 田辺三菱製薬   3,156
7 塩野義製薬   2,143
8 大日本住友製薬   2,640
9 大正製薬   2,497

注. 田辺三菱製薬(2008/10誕生)の2008年3月期売上高の上期は三菱ウェルファーマ分のみ。
   田辺製薬の上期分を加算すると4,094億円となり、念願の国内5位となった。
<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>
   (但し、他社も拡大しており、上位との格差は大きく、「大手の一角」にはなっていない。)

 

富沢社長の当時のインタビューでも、ウェルファイドの米国血液製剤事業については触れているが(「海外血液事業に魅力はない」)、ミドリ十字時代の肝炎問題については全く触れておらず、懸念していないように思われる。

薬害エイズ問題が解決を迎え、肝炎問題についてはある程度のリスクは認識していても、他に代替案がないなかで、一気に大手の一角に躍進できることを重視したのかもしれない。

<p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p>

ーーー

参考

22NY原油先物市場のWTI原油は、需要減少観測が後退して急騰、終値は120.92ドル/バレル(前日比 +16.37ドル、+15.66%)となった。一時は130.00ドルまで上昇した。
<p>HTML clipboard</p>明日から期近物となる11月物は109.37ドル。

 


* 総合目次、項目別目次は
 http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。

  各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。


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