厚生労働省の薬事分科会は10月3日、深刻な薬害を引き起こした催眠鎮静薬「サリドマイド」をめぐり、血液がんの一つ「多発性骨髄腫」の治療薬として、安全管理を徹底することを条件に販売再開を認める決定を舛添要一厚生労働相に答申した。
10月中旬には厚生労働相が承認し、薬価基準の手続きを経て、「再発または難治性の多発性骨髄腫」の治療薬として製造販売される予定で、46年ぶりの発売再開となる。
申請者は藤本製薬で、サリドマイド製剤の販売名は「サレドカプセル100」。
藤本製薬 本社 : 大阪府松原市 創業 : 昭和8年8月 資本金 : 3億円 株主 : 同族 取扱品目 : 医療用医薬品 ・持続性癌疼痛治療剤 ・便秘治療剤 ・経口胆石溶解剤・疼痛性アレルギー性疾患治療剤
・胃炎、消化性潰瘍治療剤 ・血管拡張剤* ピップフジモトとは別の会社。
この日の分科会では、
(1)使用する医師や薬剤師、患者を登録するなどとした「サリドマイド製剤安全管理手順」の順守
(2)妊婦の服用を避けるため、医師による患者やその家族への十分な説明
(3)製造販売後、一定数のデータが集まるまで、全症例を対象にした使用成績調査とその結果の公表――
などが、条件として示された。
国にも、副作用被害の救済制度の徹底や、個人輸入によって取り寄せられた場合の管理体制づくりを急ぐように求めた。
多発性骨髄腫の患者は国内に約1万4000人いるが、登録できるのはこのうち、再発性・難治性の患者。
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サリドマイドは「イソミン」の商品名で大日本製薬(当時)が1958年に発売。「安全な」睡眠薬として開発・販売されたが、妊娠初期の妊婦が用いた場合に催奇形性があり、四肢の全部あるいは一部が短いなどの独特の奇形をもつ新生児が多数生じた。
サリドマイドは一般名で、化合物名は3'-(N-フタルイミド)グルタルイミド。
無水フタル酸とアミノグルタルイミドの縮合反応により合成できる。
分子の中に一箇所 不斉炭素を持ち、R体とS体の鏡像異性体が存在する。開発された当時の技術では分離が難しく、等量のR体とS体が混ざったラセミ体として発売された。
後に、R体は無害であるがS体は非常に高い催奇性をもっており、高い頻度で胎児に異常をひき起こすこと、さらに流産防止作用もあるとの報告があった。
但し、R体のみを使用しても比較的速やかに生体内でラセミ化することが分かっている
日本においては、諸外国が回収した後も販売が続けられ、この約半年の遅れの間に被害児の半分が出生したと推定されている。
大日本製薬と厚生省は、西ドイツでの警告や回収措置を無視してこの危険な薬を売り続けた。
1974年10月13日、全国サリドマイド訴訟統一原告団と国及び大日本製薬との間で和解の確認書を調印、続いて26日には東京地裁で和解が成立した。以後、11月12日までの間に、全国8地裁で順次和解が成立した。(企業と国の負担比率は2:1)
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1965年にイスラエルの医師がハンセン病患者に鎮痛剤としてサリドマイドを処方したところハンセン病特有の皮膚症状の改善がみられた。
ブラジルや米国でハンセン病治療薬として認可された。
さらに、1990年代に入り、血液がんの一つの多発性骨髄腫への有効性が認められ、米国など17カ国では承認されている。
米国では1986年にCelenaseより分社化したCelgene Corporation が、Thalomid のブランドで、ハンセン病のらい性結節性紅斑および多発性骨髄腫の治療薬として販売している。
日本でも医師が個人輸入して使うケースが増え、血液がん患者らが早期承認を求めていた。
個人輸入によりどれだけの量が輸入されたのか把握するのは難しく、患者に処方したサリドマイドの一部が未回収のまま自宅などに残されているという問題がある。これを放置しておけば再び被害が出ないとも限らない。
厚生労働省薬事・食品衛生審議会は、2005年1月21日、藤本製薬による申請を受けて、サリドマイドを、国が開発を支援し、助成金や優先的な承認審査などの優遇措置がある「希少疾病用医薬品(orphan drug)」に指定した。
藤本製薬は2005年8月からサリドマイドを多発性骨髄腫の治療薬として、治験を開始、2006年8月8日厚生労働省に製造販売の「承認申請」を行った。
厚労省の薬事・食品衛生審議会の医薬品部会が本年8月27日開かれ、多発性骨髄腫の治療薬としてのサリドマイド有効性と安全性を審議、安全対策の徹底などを条件に、「承認しても差し支えない」との結論をまとめた。
承認の条件を付けた上で、「サリドマイドは社会的関心の極めて高い医薬品」として、審査報告書を公開し、一般からの意見募集を実施したうえで、薬事分科会にかけた。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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