既報の通り、DuPont は2008年12月5日、競争力強化のためのアクションを発表した。
建設業界と自動車業界の不振、消費者の消費の減少の結果、サプライチェーンでの在庫の縮小で、需要の減少が予想されるとし、コスト削減、投資の縮小によるキャッシュフロー強化のための積極的な行動を取るとしている。
リストラ計画として、主として欧米の自動車、建築業界の事業でおよそ2500人を削減する。将来の競争力強化のため、資産の合理化も行なう。リストラのため第4四半期に税引前で5億ドルの費用を計上する。
これらの処理で2009年に税引前で130百万ドル(年率では250百万ドル)の利益を生むと期待している。
また、年初に始めた生産性計画(2009年に6億ドルの固定費減、10億ドルの運転資金減)を早める。
計画では年末までに4000人の下請けを減らし、2009年には更に減らす。
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Business Week 誌は、経営コンサルタントRam Charan の近著 "In Leadership in the Era of Economic Uncertainty: The New Rules for Getting the Right Things Done in Difficult Times "の抄録を載せている。
http://www.businessweek.com/magazine/content/09_03/b4116036891021.htm?campaign_id=rss_topStories
この中で「経営者には詳細な、最新の、フィルターを通さない情報が必要で、問題が起こった場合には躊躇なく行動しなければならない」とし、今回のDuPont のアクションにおけるChad Holliday Jr. 会長の行動を描いている。
Holliday は昨年10月初めに訪日し、需要家(多分トヨタ)を訪問したが、そのトップが資金問題を懸念しており、今後に備えて資金の留保を指示したことを知った。これで経済危機がグローバルに広がりつつあるということに気がついた。
帰国するや直ちに6人の役員を招集、状況がどの程度悪いのか、どこまで悪くなるか、の質問をした。
数日後に出てきた答えはひどいものだった。同社の国内国外のすべての事業で金融危機の影響が出ており、Wall Street の危機と思われたものが、西欧、ロシア、アジアとグローバルな危機になる可能性が見えた。
逆にいえば、Holliday はそれまでは単に馬鹿な銀行の自業自得で自社には関係ないと見ていたことになり、日本の経営者の方がはるかに先見性があることになる。
深刻なことに、生産がどんどん落ちていた。同社のペイントは米国の自動車の30%以上をカバーしており、使用の48時間前に納入するカンバン方式をとっているが、突然注文が止まった。
同社には緊急時にとるCorporate Crisis Management plan があり、発動されると幹部が集まり、対策がとられる。これまでは911の時と、Hurricane Katrina、Hurricane Rita などの時だけであった。
Holliday はこれを発動することを決断した。
10日以内に全従業員が上司の面談を受け、資金節約、コストダウンに直ちに役立つ3項目を提案するよう求められた。
提案は即座に実施され、出張削減、社内会議の取りやめ、下請けカットなどが行われた。
Holliday は、工場停止など準備に時間がかかるものと平行して、10月から直ちに実施できる案の作成を求めた。
すぐに出来ることとして、2万人以上の下請けのカットが行われ、生産が落ちたプラントの従業員が下請けのしていた仕事に回された。
DuPont の危機対策は6週間で作成された。今後も経済情勢に対応して手が打たれる。
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既報の通り、Ellen J. Kullman 女史が10月1日付けで社長に、2009年1月1日付でCEOに就任、Holliday は当面会長を続ける。
2008年12月18日に新体制の発表があった。
Kullman は 1月1日付けでCEOに就任するが、合わせて同氏が今後の同社のコア事業とみなしている Agriculture 部門とSafety & Protection 部門を統括する。
「DuPont は現在の経済危機に際して、月初に発表したアクションを含め、積極果敢な策をとっている。明確なリーダーシップと責任の下で計画を実行する。DuPont がより強い市場志向のサイエンス企業になることを確信している」と述べた。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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