ロシアの独占天然ガス会社 Gazprom は1月1日、ウクライナへの天然ガス供給を完全に停止した。
両国は、20億ドル以上とする天然ガス供給の代金未払いや債務、滞納の罰金支払いの調整及び2009年からの価格について年末から協議していたが、31日までの交渉が不調に終わったため、強硬措置に訴えた。同国のパイプラインを通じてガスを輸入する欧州でも懸念が広がっている。
ウクライナのユーシェンコ大統領とティモシェンコ首相は1日、交渉継続を訴える共同声明を発表した。
問題点は2つ。
1)天然ガス代金未払い
ロシア側はウクライナの債務20億ドルが未払いとしている。
ウクライナはこれまで、金融危機の直撃を受けた経済混乱で債務を支払えないなどと主張し、この冬を乗り切るだけのガス備蓄はあるとしてロシアの支払い要求を拒否してきた。
ぎりぎりになって、ウクライナは15億ドルを支払い、完済したと主張しているが、ロシア側は、ウクライナには支払い遅延の罰金など5億ドルの支払い義務があり、債務問題は解決していないとしている。
ウクライナ側には、供給停止は親欧米のユーシェンコ氏に対するロシアの政治的圧力と受け止められ、国際社会の批判の矛先はロシアに向かうとの読みもあったとみられる。
2)2009年のガス価格
2008年のウクライナ向け天然ガス価格は179$/1000m3 だが、両国は今後段階的に引き上げることで合意、ガスプロムは250ドルを提案したが、ウクライナは201ドルを主張してこれを拒否した。
今回、ガスプロムは250ドル案を撤回し、一気に「国際価格」の418ドルに引き上げた。欧州向け価格は418ドル。
付記
ガスプロムは1月4日、価格を450ドルに引き上げると発表した。
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この問題の背景には、グルジア紛争の際に、ウクライナのユーシェンコ大統領がグルジアに戦車やミサイルなどを提供したとの疑惑や、ウクライナのNATO加盟問題など、ウクライナとロシアの対立があるとみられる。
ベラルーシなど、旧ソ連の親ロ国向けは200ドル以下とし、差をつけている。
ウクライナ向け天然ガス供給停止により、天然ガス需要の約25%をロシアに依存し、その7割をウクライナを経由する欧州にも混乱が拡大している。
(ガスプロムはウクライナ向けに日量110百万m3、ウクライナ経由欧州向けに326百万m3の天然ガスを送っている。)
ガスプロムは欧州諸国向けのガス供給義務は履行するとしているが、「ウクライナが欧州向けのガスを抜き取ろうとしている」と主張している。
これに対して、ウクライナ側は備蓄で対応しており、欧州向けガスの通過は保証するとしている。
付記
ロシアがウクライナへの天然ガス供給を停止したことで、ウクライナ経由でロシアのガスを輸入する欧州諸国への供給量が減るなどの影響が出始めた。影響が出ているのはハンガリー、ポーランド、ルーマニアなどで、ルーマニアでは供給量が3~4割減少したという。
ウクライナの国営ガス企業は2日、欧州向けのガスから日量21百万m3を使っていると発表、安定したガス通過のため技術的に必要だとしている。
ガスプロムはベラルーシ経由のパイプラインの送量を増やし、対応している。
付記
ロシアは欧州向けのガスをウクライナが抜き取っているとして、1月6日から欧州向けの供給も停止した。
事態打開のため、EUがパイプラインを監視する中立的な国際調査団をウクライナに派遣した。
1月11日に一旦、合意文書に署名されたが、ウクライナがガス抜き取りの事実を否定する但し書きを文書に盛り込んでいたことが判明、ロシアが反発、12日になりウクライナがこれを撤回し、ようやく3者の間で合意にいたった。その後、欧州向けの供給が再開されず。
1月18日、ロシアのプーチン首相とウクライナのティモシェンコ首相がガス価格の引き上げに大筋で合意、19日に今後10年間のヨーロッパ向けガス輸送と、ウクライナへのガス供給を確認する合意文書に調印した。
・2009年のガス料金は欧州向け価格より20%割り引く。(2009/1-3月は450ドルx0.8=360ドル)
・2010年以降のガス料金は欧州並とする。
・値決めは4半期ごととする。
・2009年の輸送料は据え置く。
・2010年以降の輸送料は国際価格とする。
・合意内容は10年間有効とする。全体図は 2007/1/10 ロシア・ベラルーシ 石油抗争 末尾
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天然ガスに関しては、ロシアは2005年末にウクライナとの間で欧州各国も巻き込んだ大問題を起こしている。
2005年4月、ガスプロムがウクライナ政府に対し、それまでの1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルへの値上げを提示、後に更に230ドルに引き上げた。
2006年に入り、ガスプロムはがウクライナ向けのガス供給を停止した。
(EU向けと同じパイプのため、ウクライナ向け対応の30%を削減した)
しかしウクライナ側は、これを無視してガスの取得を続けたため、パイプライン末端のEU諸国のガス圧が低下し、各国は大混乱となった。
問題が二国間の問題に止まらず国際問題となったため、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に期間5年、95ドルで妥協した。
但し、ガスプロムはウクライナには直接販売せず、オーストリアの銀行(ダミーで、実際はウクライナの投資家といわれる)との合弁会社ロスウルクエネルゴに230ドルで供給し、同社はそれをトルクメニスタンおよびカザフスタン産の低価格ガス(50ドル)と混ぜたうえでウクライナに95ドルで販売することとし、ガスプロムは「ウクライナへの販売価格を西欧並に」という主張を通した。
2006年末にはロシアはベラルーシとの間で同様の問題を起こしている。
2007/1/10 ロシア・ベラルーシ 石油抗争
付記
毎日新聞(1月8日)は問題点を以下の通りまとめている。
ロシアの主張 | ウクライナの主張 | |
ガス料金滞納 | ウクライナに6億ドルの延滞罰金を要求 | 延滞罰金の支払いを拒否 |
欧州向けガスの供給量低下 | ウクライナが欧州向けのガスを抜きとっている | ロシアが欧州向けのガスを契約通りに供給していない |
ガス価格 (1000m3当たり) | 当初09年から250ドル(08年は180ドル)を要求。 ウクライナが拒否すると、418ドル→450ドルとさらに引き上げ |
国際的なガス価格が下がっておリ、235ドル以上は払えない。 その後、201ドルに引き下げを要求 |
ウクライナ領内のパイプライン使用料 | 1000m3のガスを100km輸送するごとに1.6ドルをウクライナに支払う(現行) | 現行から9ドル以上に値上げを要求 |
同記事のなかで、争いの背景について、ロシアのエネルギー間題専門誌「ロスエネルギー」のミハイル・クルチーヒン編集長は以下の通り述べている。
ウクライナ側は交渉で、ロシア政府系天然ガス独占企業ガスプロムの周囲に存在する幾つもの不透明な仲介企業を排除するよう求めた。しかし、ガスプロムとこれらの仲介企業は、プーチン首相の周辺が租税回避先として利用しており、ウクライナの要求は機微に触れる格好となった。
ガスプロムは仲介業者を排除するのならば、ウクライナが従来の割安な価格でなく、欧州並みの価格を支払うべきだと通告し、交歩が暗礁に乗り上げた。
仲介業者の介入については下記の事情がある。
2005年4月、ガスプロムがウクライナ政府に対し、それまでの1,000立方メートルあたり50ドルから160ドルへの値上げを提示、後に更に230ドルに引き上げた。
ウクライナはこれに応じず、2006年に入りガスプロムはがウクライナ向けのガス供給を停止した。この影響は欧州に及んだ。
問題が二国間の問題に止まらず国際問題となったため、両者は急速に歩み寄りを見せ、1月4日に期間5年、95ドルで妥協した。但し、ガスプロムはウクライナには直接販売せず、オーストリアの銀行(ダミーで、実際はウクライナの投資家といわれる)との合弁会社ロスウルクエネルゴに230ドルで供給し、同社はそれをトルクメニスタンおよびカザフスタン産の低価格ガス(50ドル)と混ぜたうえでウクライナに95ドルで販売することとし、ガスプロムは「ウクライナへの販売価格を西欧並に」という主張を通した。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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