ダウは今後の事業を1)石油化学事業、2)機能製品事業、3)健康・農業、先端事業、その他市場志向事業の3つに分け、市況の変動にさらされる石油化学事業についてはAsset Light 戦略によりJV化し、資本負担、リスクを減らすという「変身戦略」を採用した。
Asset Light 戦略では、残っていたポリエチレン、エチレンアミン、エタノールアミン、ポリプロピレン、ポリカーボネート等の事業をクウェートのPICとのJVのK-Dow Petrochemicals に移し、2009年1月1日に発足させることが決まり、「変身戦略」が完了することとなった。
しかしながら、既報のとおり、ダウは12月28日、クウェートの最高石油評議会が、1月1日に発足が予定されていたダウとPICの50/50の合弁会社 K-Dow Petrochemicals 設立承認を取り消したと発表した。
2008/12/29 ダウとクウェートの石油化学合弁、一転破談に
これを受け、12月29日のDow の株価は19%下落し、Dow による買収が難しくなった Rohm and Haas の株価も下がった。
Standard & Poor's は12月29日、Dow Chemical の格付けを引き下げたこと、Rohm and Haas についても引き下げを検討していることを明らかにした。
ダウについては企業格付けを現在の「A-」から「BBB」に2段階落とした。Rohm and Haas についても現行の「BBB」から更に落とすことを検討している。
「BBB」は「投資適格」の下から2番目である。
S&Pの格付け
「投資適格」:AAA, AA+, AA, AA-, A+, A, A-, BBB+, BBB, BBB-
「投機的」:BB+, BB, BB-, B+, B, B-, ----
S&Pではこの決定について、「これまでは話は順調に進んでおり、新会社が1月1日にスタートするとされていた。取り消しは全く予想外である。ダウにとって、戦略的にも資金面からも、重要な事態だ」としている。
ーーー
Andrew N. Liveris 会長は10月27日、東京で開かれた日経Global Management Forum で、“Growth Strategies in Turbulent Times” と題して下記の内容のスピーチを行っていた。
http://news.dow.com/dow_news/speeches/20081027_liveris.pdf
今回は未曾有の危機であるが、この時こそ、戦略実行を加速する絶好の時である。
それこそ、ダウが行っていることだ。数年前に発表した企業の変身に向け、前進している。Kuwait のPICとのJVが間もなく決まる。これは win-win の取引である。
これは2つの面で重要である。
①ダウの石化を石化原料を持つPICと統合することで、コスト競争力を持つこととなる。
②ダウはこれで得たキャッシュを市況変動を受けにくい先端材料やスペシャルティケミカルの事業に使うことができる。
具体的にはRohm and Haas の買収を進めており、買収後にはR&D予算16億ドル以上の、世界最大の先端材料企業のひとつになる。
今回の取り消しにより、Asset Light 戦略が完了しないだけでなく、資金面からRohm and Haas の合併も危うくなり、同社にとっては苦難のスタートとなる。
<p><p><p><p><p>HTML clipboard</p></p></p></p></p>
Rohm & Haas 買収資金は188億ドル。(全株式買収 153億ドル+R&H 借入金肩代わり 35億ドル)
ダウはつなぎ融資 130億ドル、著名な株式投資家Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment authorirty からの投資10億ドルでこれを賄うことにしており、PICへの売却資金でつなぎ融資の一部を返済する予定であった。
ーーー
前回の記事で、契約では契約キャンセルの場合、PICは25億ドルの違約金を支払う義務があるとした。
消息筋は、違約金25億ドルは、ダウが訴訟を行い、裁判所が契約違反であると認定した場合の最高額であり、湾岸諸国との友好関係を続けたいダウが訴訟を行うことは考え難いとしている。
ーーー
Rohm and Haas の株価が下落したことに伴い、ダウが買収価格を再交渉するのではないかとの説も出ているが、難しいとの見方が強い。
仮に契約を破棄した場合は、ダウは違約金750百万ドルの支払いが必要となる。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
コメントする