三菱レイヨンは1月16日、アクリル繊維事業の構造改革に伴い、第3四半期に130億円の特別損失を計上すると発表した。
同社は湿式、乾式の紡糸技術を有し、短繊維と長繊維を生産する、世界で唯一の総合アクリル繊維メーカー。
主原料アクリロニトリル価格の上昇、及びそれに伴う世界需要の減少傾向(安価なボリエステル素材への需要のシフト)に伴い、近年赤字経営を余儀なくされてきた。
付記
日本化学繊維協会は1月21日、2008年の化学繊維生産の概況(速報)を発表した。
それによると、アクリル短繊維の生産は144,969トンで前年(236,350トン)の61.3%と大幅減少となった。
このような環境下、同社はこれまで、原綿価格の引き上げ、高付加価値素材比率の向上、並びに減産を強化して対応してきたが、現状のままでは中長期的にも大幅な収益回復は困難と判断し、アクリル繊維事業の構造改革の総仕上げとして、原綿生産の縮小実施及び特別損失の計上にいたったもの。
内容は以下の通り。
(1)大竹事業所
レギュラー品種の生産能カを大幅に縮小し、競争優位性の高い付加価値品を拡大する。
原綿生産能力は13万トン規模から5万2千トン規模に縮小
炭素繊維用プレカーサー製造設備への転換を加速、
ANからブレカーサー、炭素繊維、プリブレグ、複合材料、製品加工までのANチェーンの更なる強化に邁進
(2)中国の寧波麗陽化繊有限公司
寧波麗社は、徐々に減産を強化してきたが、抜本的改革(撤退)を早期に実施すべく、共同出資者と協議中
なお、同社は第2四半期にインドネシアにおけるアクリル繊維紡績事業からの撤退に伴い、損失見込み額 4,352百万円を計上している。
インドネシアの紡績会社P.T.VONEX INDONESIA の保有全株式(97.3%)をインドネシア人実業家Choi Wijaya氏に売却し、インドネシアに於ける紡績事業から撤退する。
同社は1974年に設立され、1990年代以降、日本市場への紡績糸の供給基地として大きな役割を果たしてきた。
しかし、日本産地の縮小により糸需要が減少し、業績が悪化した。
Vonex社の旧来の取引先で2.7%を所有(2008年3月に双日から取得)するChoi Wijaya氏に売却する。
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同社の2008年~2010年の第6次中期経営計画では「AN系事業の事業構造改革」をうたっている。
AN系事業の戦略としては①アクリル繊維の構造改革を行い、②炭素繊維の垂直展開と水平展開を図るもの。
①アクリル繊維の構造改革
・アクリル繊維からプレカーサ生産設備への転換加速
・アクリル繊維のダウンサイジング②垂直展開と水平展開
・ANモノマー~プレカーサ~炭素繊維・複合材料までのチェーン展開の強化
・炭素繊維・複合材料事業の北米、欧州展開での強化
・炭素繊維の焼成能力のスケールアップ
中期計画でのAN系事業のグループ設備能力は以下の通り。 (トン/年)
製品 | 日本 | 中国 | 北米・ カナダ |
英国 | 年度末計 | |
アクリロニトリル | 07年度末 | 大竹 200,000 | 200,000 | |||
08-10年度新増設 | 200,000 | |||||
アクリル繊維 | 07年度末 | 大竹 132,000 | 50,000 | 182,000 | ||
08-10年度新増設 | -50,000~-80,000 | 132,000 | ||||
炭素繊維 | 07年度末 | 豊橋 5,400 | 2,000 | 750 | 8,150 | |
08-10年度新増設 | 大竹 2,700 | 10,850 |
今回の構造改革では、
大竹のアクリル繊維を132千トンから52千トンに縮小、プレカーサー設備への転換を加速する。
中国からは撤退の方向。
参考 炭素繊維の世界シェア (2007年:約35千トン)
東レ 34% 東邦テナックス(帝人) 19% 三菱レイヨン 17% Hexcel Corp(米) 5% Cytec(米) 5% 台湾プラスチック 3% その他 17% 2008/12/26 日本経済新聞
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中国の寧波麗陽化繊有限公司は浙江省寧波市でアクリル繊維の製造販売を行う会社で、2003年3月に総投資額1億ドルで設立された。
出資は三菱レイヨン55%、三菱商事10%、伊藤忠 10%、丸紅 10%、寧波連合投資控股有限公司 15% となっている。
アクリル繊維はセーター・肌着・靴下・縫いぐるみなどの衣料及び雑貨品や毛布・カーペットなどのインテリア寝装品等々の幅広い分野に使用されており、中国の国内需要は2002年で約96万トンであり、WTO加盟もあって再加工輸出も含め需要量は2005年には105万トン程度に達すると見込まれていた。
三菱レイヨンは世界のトップメーカーを目指し、事業基盤強化及び収益力の向上のため、中国政府に設立を申請した。
繊維事業においてアクリル短繊維はコア中のコア事業であり、アクリル短繊維最大市場である中国を中心に「アジアにおけるプレゼンスをさらに高めていく」としていた。
2006年11月に三菱レイヨンの繊維事業部門長は以下のように述べている。
「世界のアクリル総需要が約250万トン、うち中国の需要が120万トンですから、やはりアクリル繊維に関しては、主戦場は中国市場です。ここで勝ち抜かないと、どうしようもない。」
2005年末から湿式アクリル短繊維「ボンネル」(能力:50千トン/年)の商業生産を開始した。
2008~09年頃には更に50千トンの増設を考えていた。
しかし中国の需要は2006年に入り、減少に転じた。
減少理由として以下の点が挙げられている。
・原料高による製品価格高が川下企業の消費意欲を減退させた
・製品リニューアルの遅さが末端需要の動きを鈍くさせている
・人民元切り上げ等の要素が繊維品の輸出に影響を及ぼした
・改質ポリエステルや新しい複合繊維によるアクリルの代替が進んだ
寧波麗陽では徐々に減産を強化してきたが、撤退を検討する。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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