Ineos Vinyls Italia は事業売却交渉が破綻し、破産の危機に面していたが、同社の破産がイタリアの経済に波及するのを恐れたイタリア政府が介入し、このたび経済開発省でIneos と Safi Spa の間で売買契約の調印が行われた。
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Ineos のイタリアの塩ビ事業は、元はEnichem の事業であった。
Porto Marghera、Ravenna、Porto Torres にVCM工場、Porto Marghera、Ravenna にS-PVC工場、Porto Torres にE-PVC工場を持っている。
1986年にICIの塩ビ事業と統合し、EVC となったが、2001年にIneos がEVCの64.5% を買収、2005年に100%とし、INEOS Vinyls と改称した。
Ineos Vinyls Italia の問題点は原料の塩素で、クロルアルカリ事業は塩ビ事業の当初の持ち主の ENI group の子会社のSyndial (旧称 Enichem)が運営している。
Porto Marghera にあるSyndial のクロルアルカリは水銀法のままであり、老朽化しているため、以前からイオン交換膜法への転換が問題となっていた。
Ineos は塩ビ事業継続のためにはクロルアルカリの所有が必要であるとして、Syndial との間で買収交渉を続けてきた。
新法への転換コストの半分をIneosが負担して事業を買収するという案であった。
しかし、交渉は難航、塩素の代金支払いをめぐる問題も出て、Syndial は塩素の供給を打ち切った。(その後再開)
代金の未払い分は残ったままとなっている。
なお、INEOS ChlorVinyls は2007年にペーストPVC事業をVinnolit に譲渡する契約を締結した。
英国のHillhouseとドイツのSchkopauのペーストPVC工場も譲渡し、イタリアのPorto Torres 工場で生産するペーストPVC全量(65千トン)の引取り権も譲渡した。
しかし2008年10月、両社にとってメリットがないということで、Porto Torres 工場からの引き取りは終了している。
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Ineos がイタリアの塩ビ事業から撤退するのではないかとの噂が強まり、イタリアから塩ビ事業がなくなるのを防ぐため、これまでにいくつかの買収案が出ていたが、いずれもまとまらなかった。
昨年末になって、Ineos はイタリアの Safi Spa 社のオーナー Fiorenzo Sartor との間で、Ineos Vinyls Italia のVCM/PVC事業を売却する仮契約を締結した。
1月末にも本契約を締結すると見られていたが、条件を巡る争いでこの交渉が決裂した。
本件とは別に、本年1月に Ineos はイタリアのPVC コンパウンド事業 Ineos Compounds Italia を Sartor に売却した。
Argenta、Frosinone、Villanova d'Ardenghi の3工場 合計能力100 千トンで、Sartor はこれを1988年にEVCが買収する前の社名、TPV Compounds に戻している。
両社は更に、スイスのSins にあるPVCコンパウンド工場の売買の交渉を行ったが、条件面で折り合わなかった。もともとENIへの未払金の問題などで難航していた条件交渉が、この件も加わって、行き詰ったとされている。
この結果、Ineos Vinyls Italia は2月11日に破産を申請すると見られた。
工場は休止し、従業員1100人と下請け800人が職を失うこととなる。
VCM/PVCの停止の結果、Syndial (ENI) のクロルアルカリも停止すると見られ、イタリアの他の地域へも連鎖反応が広がるのではないかと懸念された。
Ineos ではIneos Vinyls Italia は独立した子会社で、Ineos Group の一部ではなく、Ineos Vinyls Italia がどうなろうが、グループの事業には影響を与えないとしている。
Ineosの塩ビ事業については 2007/5/25 INEOS、Norsk Hydro からポリマー事業を買収
一方、ENIはVCM/PVCが停止しても、子会社 Polimeri Europa のPorto Marghera のエチレンや Mantova、Ravenna の誘導品に悪影響を与えないとしている。
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破産申請止むなしとなって事態を重視したイタリアの経済開発相は2月12日、Ineos Vinyls Italia、Fiorenzo Sartor 及びENI を集めて会議を開いた。
その結果、ようやく Ineos と Safi Spa の間で売買契約を締結した。Berlusconi 首相がこれを発表した。
経済開発省の発表によると、Porto Marghera、Ravenna、Porto Torres の3工場が売却される。
同時にENIとの間で、塩素工場の再建に関する契約も締結された。しかし、水銀法からイオン交換膜法に転換する費用を誰が負担するかについては明らかにされていない。
開発相は、「この困難な時にイタリアの化学産業にとって重要な資産が救われた」と述べ、化学業界全体の問題に対応するため、委員会(national round-table)が必要であるとしている。
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ENI は石油・ガス、電力、石油化学等の総合エネルギー会社で、化学事業は100%子会社の Syndial (旧称 Enichem)と Polimeri Europa が担当している。
Polimeri EuropaはENIとUCCの50/50 JVであったが、UCCとDowの合併に当たり、ENIのポリウレタン事業のDow への売却との交換でENI 100%とした。
ENI はSyndial の石油化学をPolimeri に移している。Porto Torres のコンプレックスはSyndial の最大の石化基地であった。
Polimeri Europa | Italy | Brindisi | Ethylene、Propylene、Butadiene、 LDPE、LLDPE |
Ferrara | LDPE、EPR | ||
Gela | Ethylene、Propylene、LDPE | ||
Mantova | Phenol、Ciclohexanol/ciclohexanone、Aceton、Alkylphenol EB、SM、GPPS、HIPS、EPS、SAN/ABS | ||
Porto Marghera | Ethylene、Propylene、Benzene、Toluene、Dicyclopentadiene | ||
Porto Torres | Ethylene、Propylene、Benzene、Toluen、Cyclopentane、Cumene、 Phenol、Acetone、HDPE、NBR | ||
Priolo | Ethylene、Propylene、Benzene、Toluene、Para-Xylene、Orto-Xylene、LLDPE | ||
Ragusa | LDPE、EVA | ||
Ravenna | Butadien、Dimethyl-carbonate、SBR、BR、SBS/SIS | ||
Sarroch | Propylene、Benzene、EB、Para-Xylene、Meta-Xylene、Ortho-Xylene、Mesitylene Pseudocumene | ||
Settimo Milanese | Thermoplastic compounds | ||
Polimeri Europa Benelux | Belgium | Feluy | GPPS、HIPS、EPS |
Polimeri Europa France | France | Dunkerque | Ethylene、Propylene、LDPE、LLDPE |
Polimeri Europa GmbH | Germany | Oberhausen (Celanese plant) |
LDPE、EVA |
Polimeri Europa Iberica | Portugal | Neiva | Emulsfier for SBR |
Polimeri Europa UK | United Kingdom | Grangemouth | SBR、BR |
Hythe | SBR、BR | ||
Dunastyr Polystyrene Manufacturing Company (Mol から21.4%買収) |
Hungary | Szazhalombatta | HIPS、EPS |
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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