厚生労働省は2月6日、改正薬事法施行に合わせて、一般用医薬品(大衆薬)のインターネット販売を規制する内容の省令を公布した。
副作用のリスクが低い一部の医薬品を除き、インターネット販売を含めた通信販売ができなくなる。
現在はインターネットで購入できている一般医薬品のうち7割近くが販売できなくなるとされる。
薬事法では、一般用医薬品(医薬品のうち効能・効果の人体に対する作用が著しくなく、医薬関係者から提供された情報に基づき需要者の選択により使用されるもの)の販売方法などの制限に関して以下の通り定めている。
(販売方法等の制限) 第37条
薬局開設者又は一般販売業の許可を受けた者、薬種商若しくは特例販売業者は、店舗による販売又は授与以外の方法により、
配置販売業者は、配置以外の方法により、
医薬品を販売し、授与し、又はその販売若しくは授与の目的で医薬品を貯蔵し、若しくは陳列してはならない。
この「店舗による販売又は授与」について「店舗によるインターネット販売も含まれる」という解釈がなされており、医薬品のネット販売は適法となっている。
法律で認められているものを省令で禁止する形となる。
内閣総理大臣の諮問機関である規制改革会議では、省令案の段階で「法律に基づかない規制は違法性もある」と指摘していたという。
背景は以下の通り。
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2006年に薬事法が改正され、2009年6月1日に実施される。
これまでは一般用医薬品は薬剤師を置かないと販売できなかった。(薬剤師を置けばインターネット販売も可)
業態の種類 | 専門家(資質) | 販売可能な一般用医薬品 |
薬 局 | 薬剤師(国家資格) | 全ての一般用医薬品 |
薬店(一般販売業) | 同上 | 同上 |
薬店(薬種商販売業) | 薬種商(都道府県試験) | 指定医薬品以外の一般用医薬品 |
配置販売業 | 配置販売業者(試験なし) | 一定の品目 |
特例販売業 | (薬事法上定めなし) | 限定的な品目 |
改正でコンビニエンスストアなどでも、「一般医薬品」の販売ができるようになるなど、医薬品販売の規制緩和がなされた。
一般医薬品を第一類医薬品、第二類医薬品、第三類医薬品の三つに分け、そのうち、第二類医薬品と第三類医薬品については薬剤師でなくとも、実務経験1年以上で、都道府県が実施する試験に合格した「登録販売者」であれば販売することができるようになる。
合わせて、顧客からの相談対応を義務付け、第一類には聞かれなくとも積極的に文書で情報提供する義務をつけた。(第二類は努力義務)
改正薬事法 | 省令 | |||||
専門家 | 相談対応 | 積極的情報提供 | ネット販売 | ネット販売 | ||
第一類 | 副作用等により日常生活に支障を来す程度の 健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品のうち、 特に注意が必要なもの (胃腸薬「ガスター10」、発毛剤「リアップ」など) |
薬剤師 | 義務 | 文書義務付け | ○ | X |
第二類 | 副作用等により日常生活に支障を来す程度の 健康被害が生ずるおそれのある一般医薬品 (主な風邪薬、「葛根湯」などの漢方薬、鎮痛薬など) |
薬剤師 登録販売者 |
義務 | 努力義務 | ○ | X |
第三類 | 第一類医薬品、第二類医薬品以外の一般医薬品 (ビタミン剤、整腸薬など) |
薬剤師 登録販売者 |
義務 | 規定なし | ○ | ○ |
登録販売者:実務経験1年以上で、都道府県が実施する試験に合格したもの
厚生労働省主催の検討会の報告書(2008/7/4)では、改正薬事法を受けて、情報提供の内容・方法等に関する制度設計の方向性を議論、報告書をとりまとめた。
医薬品のネット販売については、第1類医薬品は適当ではない、第2類医薬品は対面の原則が担保できない限り適当ではないとした。
今回の省令は、薬剤師や販売者が説明や情報提供を尽くすため、薬局や店舗での「対面販売」を原則とし、インターネット販売を含む通信販売の対象を、ビタミン剤や整腸薬などの第三類に限定した。
厚労省は省令案について昨年9-12月に国民からのパブリックコメントを実施した。
一般医薬品のネット販売を行っている薬局・薬店が会員となっている日本オンラインドラッグ協会(JODA)は2008年11月、「安全・安心な医薬品インターネット販売を実現する自主ガイドライン」を発表した。
ネット販売に際して使用上の注意事項などの情報提供を適正に行うことや購入者の状態の確認・質問を行うことなどを必要条件として定める。
「販売に際しての情報提供や説明は、ネットのほうが安全・安心」としている。
http://www.online-drug.jp/img/JODA-081120.pdf解説 http://internet.watch.impress.co.jp/cda/news/2008/11/20/21602.html
薬剤師団体や薬害被害者団体、日本チェーンドラッグストア協会などは規制の方針に賛成している。
しかし、へき地に住む人や高齢者などが購入しにくくなるなど消費者の利便性低下を指摘する意見もある。
楽天やヤフー、業界団体の日本オンラインドラッグ協会など6事業者・団体は6日、「通販での購入をやめざるを得ない多くの消費者の健康を害する可能性がある」としたうえで、省令の再改正を求める共同声明を出した。
このため、舛添厚生労働相は厚労相直属の検討会を設置して引き続き議論する方針を示した。
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付記
楽天の三木谷浩史社長は2月10日、厚生労働省が設置を決めた一般用医薬品の販売方法をめぐる検討会に、自らがメンバーとして参加する意向を明らかにした。
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この問題は1月23日に行われた公正取引委員会競争政策研究センターの国際シンポジウム「参入と産業活性化に果たす競争政策の役割」でも取り上げられた。
イプシ・マーケティング研究所の野原佐和子氏が「新市場拡大を阻害する法制度関連の課題」として問題提起した。
新規創出市場であるネット通販事業の市場拡大に対して、既存ビジネスであるドラッグストア業界が危機感を抱き、監督官庁に働きかけたもので、参入障壁が少なく拡大中の新市場に対して、事業存続が困難になるような制度変更である。
シカゴ大学のDennis W. Carlton教授は、日本の事情は分からないが、米国では医療費節減のため政府が積極的にインターネット販売を推奨しているとコメントした。
規制改革会議メンバーで元 産業再生機構COOの富山和彦氏は、公表された弊害例は、高校生がネットで購入した大量の睡眠薬で自殺した件だけで、これは使用方法に違反した飲み方によるものであり、ネット購入での弊害ではなく、今回の省令は参入障壁であるとして、省令よりも上位の法律である独禁法でこれをやめさせられないかと述べた。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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