水俣病与党プロジェクトチーム、チッソ分社化法案を今国会提出へ

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水俣病未認定患者の救済問題で、新たな救済策を検討している与党プロジェクトチーム(PT、園田博之座長)は2月13日、チッソの分社化などのための特別措置法案を3月上旬に国会に提出する方針を決めた。

「今回が真に最終解決である」ことを重視し、公害健康被害補償法に基づく水俣病発生地域の指定解除を視野に入れている。

水俣病問題の最終解決に向け、
①救済策の終了、水俣病認定審査の結了、訴訟の解決、指定解除といった手順の明確化、
②公的診断で四肢末端の感覚障害があると認められた人を対象に、一時金150万円、療養手当月額1万円など、与党PTの新救済策を基礎とした特別立法化、
③確実な患者補償や被害者救済に必要なチッソへの支援と分社化を図ること---の三点を一体で立法化する。

「加害企業の責任があいまいになる」との地元の反発に配慮し、チッソ分社化後の株式の売却については、救済終了や市況好転まで 3年をめどに当面凍結するとしている。売却には環境相や熊本県議会などの了承を必要とする方向で検討している。
その間は、チッソが負担する一時金を国などが支援する。

チッソ子会社株の売却後は、当初は熊本県に基金を設置する案だったが、県の不安をぬぐうため、国や独立行政法人などに基金を創設することとした。環境省所管の独立行政法人である環境再生保全機構などが想定されている。

水俣病発生地域の指定解除については、園田座長は「すべての救済が終われば解除を求める」と述べた。
指定解除がされれば、県の認定業務も終了し、新たな患者認定もなくなる。
被害者団体などからの強い反発も予想され、PTは議論を進める上で、救済を求める未認定患者団体と十分に意見交換をするとしている。

PTは法案成立後、おおむね3年以内に新救済策を受諾するか決めるよう被害者に求める方針だが、2004年に国の認定基準とは別の基準での幅広い救済を求める最高裁判決が出され、新たな認定申請者は6千人に上る。
今回の救済策受け入れを拒む被害者団体もあり、実際の「解決」には遠い状態だ。

水俣病患者連合の高倉史朗事務局長は「水俣病はこれで終わりということになり、今被害を訴えている人、訴訟をする人、これから被害の声をあげるかもしれない人にとっては絶対に許せないと思う」と話した。

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与党PTは2007年に新救済策を作成した。
水俣病未認定患者を対象とするもので、患者1人あたりに対し一時金150万円のほか、月額1万円の療養手当、医療費の一律支給が柱となっている。

これに対し、チッソは2007年11月、新救済策を「解決への展望がどうしても持てない」などとして受け入れ拒否を正式に表明した。
(1)与党PT案を受け入れても係争中の訴訟終結を含めた全面解決の展望が持てない
(2)新たな補償負担額が見通せず支払い能力に不安が残る
(3)株主や従業員、金融機関や取引先への説明が容易でない---というもの。

チッソは同時に、チッソを資産・債務管理会社と事業会社に分割する「分社化」の実現を求めていく考えを示した。
液晶材料などが好
調な同社の事業をすべて子会社に移し、親会社チッソは累積債務の返済と補償に専念するというもの。

2007/11/23 チッソ、与党プロジェクトチームの水俣病未認定患者の新救済策を拒否

2008/5/31 チッソの弁明

2008年6月、新救済策がチッソの拒否で膠着状態になっているのに対応するため、自民党の水俣問題小委員会はチッソの分社化の素案をまとめた。

チッソの事業部門を100%子会社化して上場・独立させ、現在のチッソは補償部門だけを担う親会社とする。
上場後の株式売却益で約1500億円の公的債務と約400億円の金融機関に対する債務に加え、将来も続く患者補償を担う。
親会社は当面、子会社の株式配当益で補償業務を担い、3年後をめどに株式を他者に全面譲渡、譲渡益を熊本県に納付して補償業務を委ね、清算する。

しかし、この案に対して反対論が続出した。

鴨下一郎環境相は、「分社化によって水俣病の責任の所在が不明瞭になることを心配している」と懸念を表明、「訴訟もあり、将来的に債務がどの程度になるのかが不透明な間に、分社化が進んでいくのはどうなのか」と述べた。

このためPTは、チッソの分社化の検討よりも、「未認定患者の救済策実現を優先させる」との認識で一致し、問題の全面解決に向け、訴訟を起こしている団体に対し和解を働き掛けていく方針を確認した。

2008/6/19 チッソ分社化構想 棚上げ

2008年12月、与党PTは患者救済の見通しが立てば分社化の検討を容認する意向を示唆した。

2009年1月、園田座長がチッソ後藤会長と会談し、チッソは事業部門と補償部門の分社化を条件に、PTの新救済策案を受け入れる方針を固めた。
最後まで補償に責任を持つことが分社化の前提と確認したという。

チッソとしては、政局の緊迫化で政権交代が起こる可能性もあり、「今やらないと一からやり直しとなり、より重い負担を求められる可能性がある」とし、方針転換が必要と判断した模様。

これを受け、熊本県知事と鹿児島県知事が早期解決を求めて自民党本部で園田座長と会談し、「分社化で原因企業がなくなり、県に負担が回る懸念を払拭してほしい」と要望。園田座長は「県に迷惑はかけない。早期に解決を進める」と応じた。

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会員 1,542人が国などに損害賠償を求めて係争中の水俣病不知火患者会(約2,200人)は2月13日、緊急に会議を開き「司法救済に基づく公正な認定制度の確立を目指す」として裁判闘争を続ける方針を確認した。PT案に対して、「被害者を切り捨てチッソを救済するのか」と批判した。

水俣病被害者互助会(約150人)も「訴訟で問題解決を図っていく」と歩調を合わせた。

民主党水俣病対策作業チームの松野信夫座長は「原因企業の幕引きを図る分社化とセットの救済案はあり得ない」としている。

 


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