田辺三菱製薬は3月24日、連結子会社のバイファと共同開発し、バイファが製造、田辺三菱製薬が販売している遺伝子組換え人血清アルブミン製剤で試験データの差し替えが行われていた事実が判明したため、製造販売承認を取下げ、自主回収を行うと発表した。
バイファは1996年に遺伝子組換えアルブミンの開発・製造のため、ミドリ十字の100%子会社として設立され、2001年にニッショー(現ニプロ)が 49%出資した。
問題となったのは、献血による人の血液からつくられるアルブミン製剤の代替として開発された遺伝子組換え人血清アルブミン製剤「メドウェイ注5%」で、2007年10月に製造販売承認を取得、2008年5月より販売している。違反が確認されていない「メドウェイ注25%」についても、同一製造所で同一時期に実生産バリデーションが実施された製剤でもあり、自主回収の措置をとる。
昨年末にバイファ社より、承認事項一部変更承認申請について、試験データの差し替え行為に関する報告があり、調べたところ、薬の安定性を保つ成分の含有量試験の数値が測定の不手際で正しく出なかったにもかかわらず、問題がないように装っていたことが分かった。
これを契機にその他の試験項目も含めて詳細な調査を行った結果、製造販売承認取得に係る医薬品GMP調査のため、実際に製造して検証する際に、試験データの差し替えが行われていた事実が判明したもの。
2005~07年に実施したラットの実験で、5回にわたりアレルギー抗体反応で一部陽性が出たデータを、すべて陰性のデータに差し替えていた。
捏造はそれぞれ別の職員が行い、職員は「上司の品質管理責任者の指示だった」と話しているという。
昨年5月に発売以降、約800人に使用された。厚生労働省で会見した小峰副社長は「出荷時には改めてアレルギー検査をしており、品質に問題なく健康被害もない。生産体制の監視を徹底し、製造再開を目指したい」と話した。
厚生労働省は今後、立ち入り検査するなどし、厳正に対応するとしている。
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アルブミンは、成人の場合アミノ酸を原料として肝臓で一日に6g~12g作られ、血液中に入る。
血漿タンパクの中で、血管内に水を保持する働きがあり、血管中の血液量や体内での水分の量を調整(血液の浸透圧の維持)している。血液中のアルブミンが低下すると、血管内の血液の量が少なくなったり、血管外(お腹や肺など)に水が溜まったりする。
また、アルブミンは脂肪酸やホルモン、薬物など様々な物質と結合して、必要な部位にこれらを運搬する働きもしている。
アルブミン製剤は、
(1)出血性ショックなどに対して血漿膠質浸透圧を維持して循環血漿量を確保すること、
(2)体腔内液や組織間液を血管内に移行させることで治療抵抗性の重度の浮腫を治療すること
を目的に使用される。
従来のアルブミン製剤は、ヒトの血漿を原料としており、日本ではその半数を海外からの輸入に頼っていた。
国内では、日本赤十字社が献血で集めた血液を原料に生産しているが、献血量が減少しているため、将来的な安定供給が危ぶまれている。また、現在の処理技術では、未知のウイルス等の感染の可能性を完全に否定できないなど、安全性確保の面でも問題が残されている。
「メドウェイ」は、人血漿を用いず、遺伝子組換え技術を使ってピキア酵母(Pichia pastoris)で産生、精製した製剤。
製造工程でウイルスやプリオン等の感染性物質混入の恐れある動物由来原料を使っていないため、感染リスクが少ないというメリットがある。
特長として、以下の通り説明している。
1) 遺伝子組換え技術を用い大量製造を可能とした人血清アルブミン製剤です。
2) 構造・組成、物理的化学的性質等に関して血漿由来人血清アルブミン製剤との間に差が認められず、同等です。
3) 製造過程においてウイルス、プリオン等の感染性物質混入のおそれがある動物由来材料を使用していません。
4) 肝硬変による腹水患者を対象とした血漿由来人血清アルブミン製剤との比較試験の結果、血清アルブミン濃度の上昇値について同等性が検証されました。
厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会は2007年7月、この製剤の承認を了承した。
遺伝子組換えのアルブミン製剤は海外では医薬品添加物用途で販売している国があるが、医薬品として承認するのは世界で初めて。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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