ダウはRohm & Haas との裁判が始まる当日の3月9日、R&H 及びその大株主との間で、これまでと異なる条件で4月1日までに買収を行うことで合意したと発表した。
これにより本件での訴訟は終わる。
ダウとR&Hは3月6日、R&H買収問題とこれに絡む裁判問題で話し合いをしていることを認めた。
合意の一環として、R&Hの2大株主(ヘッジファンドのPaulson & Co. Inc.とHaas Family Trusts )はダウの出す永久優先株25億ドルを購入、更に、そのうちのHaas Family Trusts はダウのオプションでダウの株式に5億ドル投資する。
当初発表の1株 $78 でのR&H株式買収(153億ドル)のうち、$63 (124億ドル)は現金で支払い、残りの$15(29億ドル) は優先株で渡す。
Haas Family はR&H創立者の一人の一族。
1907年に2人のドイツ人、ケミストのRohmと実業家のHaasがドイツでRohm & Haasを設立して成功、1909年にHaasが米国に移住してフィラデルフィアに支店を設立した。第一次大戦で接収されるのを避けてHaasが本社と縁を切って米国企業のRohm & Haasとした。(Haasは戦後 Rohmにその持分の対価を払っている)
ドイツのRohmは現在はEvonik(旧称 Degussa)の子会社。
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ダウはR&H 買収資金の188億ドルを、つなぎ融資 130億ドル、著名な株式投資家Warren Buffett のBerkshire Hathaway Inc. からの投資 30億ドル、Kuwait Investment authorirty からの投資10億ドル(いずれも転換可能優先株)で賄い、K-Dow 設立でのPICからの入金でつなぎ融資の一部を返済する予定であった。
つなぎ融資は1年間の契約のため、 K-Dow 破談により、このまま買収を行えば資金繰りが危うくなるとして、格付会社が投資基準以下への格下げを行うことを明言しており、格付を投資適格にとどめることが必須であるとするダウとしては資金繰りの目処をつけるまでは買収を行えない状況に陥っていた。
ダウは3月6日、銀行がつなぎ融資を2011年4月まで1年間延長することに同意したと発表した。
新しい契約は当初より5億ドル少ない125億ドルで、このうち45億ドルは1年間、80億ドルは2年間借りることが出来る。
このほか、Berkshire Hathaway Inc. から30億ドル、Kuwait Investment authorirty から10億ドルは従来どおりとなっている。
Warren Buffett によると、今回のダウへの30億ドルの投資は、状況の変化により、あまりスマートな投資ではなくなったが、約束は守るとしている。
なお、Berkshire Hathaway は昨秋、Goldman Sachs とGeneral Electric に80億ドルの投資をしたが、これらの優先株は今や考え難い10%という有利な金利であり、やってよかったとしている。
また、既報の通り、ダウは史上初の減配を行い、年間10億ドルの資金を節約した。
今回の合意で、R&H の株主から25~30億ドルの資金流入を確保し、現金での買収額を減らしたため、ダウは買収に伴う借入金を大幅に減らすことが出来る。
更に、ダウは今回、40億ドルに達するダウとR&Hの事業の売却交渉が進んでいることを明らかにした。以下のものを含む。
1)Total Group との合弁のオランダの石油精製 Total Raffinaderij Nederland NV のダウ持分(45%)の売却
2)東南アジアのオレフィン及び誘導品JVのダウ持分の売却(相手側との予備交渉は既に開始)
タイか? 2006/10/24 ダウ、アジア進出を促進
このほかの東南アジアの拠点
マレーシア Optimal Olefins Dow Chemical 23.75%
PETRONAS 64.25%
Sasol Polymers 12%Ethylene 600千トン
Propylene 86千トンOptimal Gylcols Dow Chemical 50%
PETRONAS 50%EO 380 千トン
EG 385千トンOptimal Chemical Dow Chemical 50%
PETRONAS 50%Ethoxylates 85千トン
Ethanolamines 85千トン
Glycol Ethers 60千トン
Butanol 140千トン
Butyl Acetate 50千トンインドネシア PT Dow Chemical Indonesia Dow Chemical PS
styrene butadiene latex
3)R&HのMorton Salt (既に数社がビッドを出しており、評価中)
R&HがMorton International を買収したもので、2007年売上高は1,060百万ドル
3)で15億ドル以上、1)と2)で15億ドル、その他で10億ドルを期待している。
つなぎ融資のうちの80億ドルを2年間としたため、この間に更に追加資産を有利に売却する時間が与えられたことになる。
ダウのLiveris CEOは買収のためには Dow AgroSciences か他の事業を売却することもありうるとしていた。
Syngenta AG は今月、Dow AgroSciences を買収することを検討すると述べた。
Dow AgroSciences は昨年の売上高が45億ドルで、50~80億ドルの価値があるとされている。Liveris CEO によれば、買い手候補は Dow AgroSciences の価値をあまり評価しておらず、ダウとしてはすぐに売ることを検討していない。
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過去の経緯
2008/7/11 速報 Dow Chemical、Rohm and Haas を買収
2009/1/26 FTC、Dow と Rohm and Haas の統合を条件付で承認
2009/1/27 Dow、Rohm & Haas 買収を延期
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
こんにちは。詳細な内容、いつも大変参考になります。化学業界ならこのサイトが一番充実していると思います。
WSJやFTなどの新聞報道では、総額$15.5Bという記載だったと思ったのですが、まだ$3.3Bも費やすということだったんですね。存じませんでした。
ダウはこれで農薬事業をキープできる確率がぐっと高くなったので一安心ですね。
残念なのはダウの株価で今や信越化学に追い抜かれてしまいました。さらに今回の優先株が普通株に転換されると、希薄化懸念や、この高い買い物を正当化するための過度なリストラの弊害などが心配され、結局このM&Aは本当に良かったのか、という点が気がかりです。
お互い、合併してより良い会社になるということよりも、契約を履行することが最終目的になってしまったのが残念だと思いました。
今後ともよろしくお願いします。
現金153億ドルで全株式を買収し、R&Hの35億ドルの借入金を引き継ぐということで、合計188億ドルです。