日本経済新聞(4月10日)は三菱化学が年内にもPSとPVC事業から撤退すると報じた。
PSについては事業統合会社のPSジャパンへの出資を引き揚げ、PVCについてはヴィテックを解散する方針としている。
内需縮小とアジア勢などの生産拡大で採算が悪化、国内で過当競争となっている事業を切り離し、太陽電池向けなどの新素材、医薬品など成長分野を中心にした構造に転換するもの。
これに関して三菱化学は発表はしていないが、時事通信も「三菱化学は、年内にも塩化ビニール樹脂と汎用プラスチックであるポリスチレンの2事業からの撤退を検討していることを明らかにした」と報じている。
需要家への影響が大きいため、もし事実でないなら、即刻否定の発表をするはず。
三菱化学は本年3月末でABS事業から撤退したほか、テレフタル酸事業の構造改革も発表している。
2008/11/28 三菱化学、ABS事業から撤退
2009/2/24 三菱化学、テレフタル酸事業の事業構造改革
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付記
三菱化学は5月7日、ヴイテックが全製造設備を2011年3月末までには停止することを決定したと発表した。
カ性ソ-ダ VCM PVC 水島工場 180千トン 400千トン 四日市工場 100千トン 川崎工場 120千トン
顧客やコンビナート内との調整次第では前倒しで実施する。
ただ、東亞合成の川崎工場内に位置する川崎の設備については、ヴイテックとしては停止するものの、その後については東亞合成が方向性を検討する。
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PS事業:
三菱化学は四日市に188千トンのプラントを有していたが、1998年10月に旭化成との50/50JVのA&Mスチレンを設立し、両社のPS事業を統合した。
統合に当たり、両社は設備処理を行った。
統合前 処理 統合後 旭化成 371 - 56 315 三菱化学 188 -103 85 合計 559 -159 400
旭化成、三菱化学と出光石油化学は2002年7月、A&Mスチレンと出光のPS事業を再編・統合、合弁会社を設立することで合意したと発表した。
2003年4月、PSジャパンが営業開始した。
統合前 処理 統合後 出資比率 A&M
スチレン旭化成・水島 108 108 45.0% 旭化成・千葉 207 207 三菱化学・四日市 85 85 27.5% 合計 400 400 出光石化・市原 130 -85 45 27.5% 合計 530 -85 445 100.0%
2006/10/7 日本のPS業界の変遷
今回、三菱化学はPSジャパンの持株を旭化成と出光興産に売却する。
PS業界では4月2日に、住友化学と三井化学が共同出資会社の日本ポリスチレンのプラントを9月末を目途に停止し、その後解散すると発表したばかり。PS業界の状況については下記を参照。
2009/4/4 日本ポリスチレン 2009年9月末に操業停止、解散へ
四日市のプラントは除却すると思われる。現在、原料のスチレンモノマーは鹿島工場から輸送している。
日本ポリスチレンと同様に、PSジャパンも2008年3月期決算までは黒字を続けている。
PS事業の将来性を考えてのものと思われる。
単位:百万円
売上高 営業損益 経常損益 当期損益 前期繰越 利益処分 次期繰越 06/3 58,600 2,700 2,700 1,600 1,200 826 2,800 07/3 67,334 1,224 1,233 709 1,974 385 2,298 08/3 77,167 1,851 1,846 933 2,298 3,231
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PVC事業:
三菱化学は1996年に東亜合成と塩ビ事業で業務提携を行なった。
・ | 三菱化学は1996年末にS&Bにより水島で100千トンプラントを建設した。 (その後、既存の老朽設備を停止) |
・ | 東亜合成はセントラル硝子、東燃化学とのJVの川崎有機で年産80千トン設備を稼働させているほか、徳島工場に同20千トン設備を持っていたが、徳島の老朽化した20千トン設備を廃棄し、川崎に三菱化学の技術で100千トン設備を新設した。 (その後、旧川崎有機のPVCプラントは停止した。) |
その後の業績悪化を受け、両社は事業統合を決め、2000年4月1日、統合会社がスタートした。
会社名 ヴイテック㈱ 資本金 60億円
出資比率 三菱化学 60%、東亞合成 40%事業 電解製品(水島)の製造、VCM(水島)及びPVCの製造・販売及び研究開発
電解製品の販売は三菱化学100%のダイアケミカルに委託能力 電解(水島) 135千トン(苛性ソーダ97%換算)
VCM(水島) 300千トン
*セントラル化学はVCM(132千トン)生産を継続、ヴイテックに供給→その後停止
PVC 合計 390千トン(三菱化学水島 100、四日市 110、東亞合成川崎 100+80)
2005年3月、ヴイテックは再編を行い、出資比率を三菱60%、東亜40%であったのを、三菱 85.1%、東亜 14.9%に変更した。
2003年末には累積損失が162億円にも達しており、水島工場の拡大等で事業の中心となる三菱化学が主導権を取り、東亞合成が実質的に撤退した。
2006/9/13 日本のPVC業界の変遷と現状-1 (前史)
2006/9/14 日本のPVC業界の変遷と現状-2 (事業統合時代以降)
2008年4月、ヴイテックは、5月末でPVCの輸出を停止するとともに、水島のPVCプラントを停止し、国内販売に集中した体制に移行すると発表した。国内需要減少を補うため、輸出を行なってきたが、輸出の採算改善が見られないため。
なお、川崎工場では7月の定期修理時に一部手直し増強を行なう。
工場別能力は以下の通りとなる。(単位:トン)
2000/4/1 (設立時) |
2006年末 | 2007年末 | 新体制 | |
川崎(東亞合成内) | 180,000 | 115,000 | 95,000 | 121,000 |
四日市(三菱化学内) | 110,000 | 104,000 | 99,000 | 99,000 |
水島(三菱化学内) | 100,000 | 115,000 | 110,000 | 0 |
計 | (390,000) | (334,000) | (304,000) | (220,000) |
2008/4/15 ヴイテック、PVC生産体制見直し
同社は設立以来、大幅赤字が続き、2004年度から3年間は若干の黒字となったが、2007年度に再び赤字に転落、2008年末の累積損失は資本金の60億円をはるかに上回る170億円の巨額に達している。
固定資産残高は51億円となっている。
今回、ヴィテックを解散し、水島の電解、VCM(現在の能力は391千トン)と四日市のPVCは除却すると思われる。
VCM停止は20万トン近いエチレンの使用減となるが、三菱化学と旭化成が水島のエチレン統合の交渉を行っており、三菱化学のエチレン(定修スキップ年 496千トン)を休止すると伝えられており、符合する。
川崎のPVCについては東亞合成との交渉がどうなっているのか分からないが、昨年秋に手直しをしており、場合によっては他社への売却の可能性があるかも分からない。
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PVC業界は2000年以降の「選択と集中」時代に撤退企業が相次いだ。
現在は実質5社体制となっている。
単位:千トン/年
会社名 2007/12/末 備考 ヴィテック 304 → 220 カネカ 466 信越化学 550 新第一塩ビ 292 大洋塩ビ+東ソー 586 東ソーのペースト 28 徳山積水 115 積水化学自消 合計 2,313 →2,229
PVCの内需は一時200万トンを超えたこともあったが、その後毎年減少し、2008年は1,174千トンと産構法時代の水準にまで落ち込んでいる。
内需の落ち込みを輸出で補ってきたが、2008年はそれも減少した。
2008年の能力2,229千トンに対し、内需は50%に過ぎない。
内需、輸出ともに、今後大幅に増加する見込みはなく、輸出採算の悪化も予想されることから、大幅な設備削減が必要である。
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PVC業界の変遷は以下の通り。
* 総合目次、項目別目次は
http://kaznak.web.infoseek.co.jp/blog/zenpan-1.htm にあります。
各記事の「その後」については、上記目次から入るバックナンバーに付記します。
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